第21話 手品師見習いの危機
突然の襲撃。
辛くも襲撃者を退けたのは、花を描いた魔術。
ミリアが咄嗟に使える魔術は、それと火柱しかないのだ。
火柱は…。殺してしまうかもしれなかった。
ちがう、殺されそうになっても、人間を殺す決断ができなかった。
痛む身体を引き摺りながら、ミリアは路地裏を歩く。
死にたくない。
殺されたくない。
ここで死ぬのなら、なぜ魔術を習得したのか。
自由と一緒に得た異端者の称号。
あの手品師も、同じように追われているのだろうか。
こんな風に戦うことはあるだろうと思ってはいた。でも、不意打ちめいた襲撃が来るとは思わなかった。考えてみれば当然だ。
闘争が行儀よく、礼節から始まるなんてことはないのだ。
壁の窪みを見つけ、ミリアは崩れるようにしゃがみこむ。目を閉じてマナの動きに注意を払う。
次に不意打ちを受けたら、終わりだ。
一時的にであれ、脅威から遠ざかったことで、身体が感覚の異状を訴えはじめる。壁に叩きつけられた箇所が鈍く痛み、集中をみだす。左腕は痺れてまだ動かない。激しく動いた訳ではないのに、襲われた恐怖で息が荒くなる。
私に今できること…
光と火…。手品師さんがハンスやアンナにしたことは理解できていない…。
ミリアの頭に、断片的に手品師の光景がよぎる。
ハンスに見せた手の動き、アンナへのお菓子…。
何もしないよりはいい。やってみよう。
もう一度、軽く呼吸を整え、無理矢理、身体の痛みから気を逸らす。
集中。
マナを成形し、飛ばす。向かおうとしていた先へ、街灯を灯すように。
マナが変質し、魔術の灯りが灯った。
その時、ギースは部下が目を押さえ、悶絶しているところを目の当たりにしていた。
「馬鹿者!正面から対峙したのか!」
2人の身体を調べる。特に外傷はない。
何処へ逃げているのか。この辺は街の灯が届きにくい。隠れられる場所は多いが、危険も多い。
周囲の音に耳を澄ませ、目は街の変化を観察する。
悲鳴のようなものは聴こえない、街の一角に街灯が灯っていく。
いや、おかしい。なぜ今、灯りがともる?
ギースは確信を持って、灯りの灯る先を追った。
そして、ミリアが籠る路地裏の窪みを通り過ぎた。
ミリアは静かに戦慄していた。
やはりまだいた。
微かなマナの流れは今、目の前を通り過ぎた男を纏うように漂っていた。
あれも恐らくは、ミリアを異端者として追ってきた者だろう。
ミリアは多少痛みと痺れが引いた身体を奮い立たせ、男が駆けてきた方向に足を向け、歩き出した。
怖気づく気持ちを押さえ、暗闇の中へと。




