第2話 手品師
「手品師さん、いまの⋯、魔術⋯よね」
さっきの手品は、手に持ったナイフを消し去るという他愛もないもの。
それはどうでもいい。
消し去る前に、出た火花。
あれは、魔術だ。
しかも
「なんで、聖言、スペルを、唱えないで使えるの?」
魔術は、判別の儀で反応した適性に応じたスペルを唱え、魔力を対価に使う物、それが常識だ。
目の前の、手品師はスペルを唱えていない。
荷物を片付けていた手品師が頭を上げてミリアを見た。
子どもの落書きのような顔のお面、
頭に巻きつけた黒い布、
欠けたお面から覗く口はキセルを咥えている。
「お嬢さん、わかったのかね」
男か女かもわからない、年老いた声が聞こえた。
「ならば、いい感覚をしている。さぞかし良い魔術師になるだろうよ」
瞬間、涙が溢れ出た。喉が鳴る。
視界に色がつきはじめた。
「うそよ!デタラメ言わないで!」
声が震える。
「適当なこと言って、何のつもりよ!」
抑えられなくなった感情とともに、秘めていた言葉が放たれる。
「私に適性なんて、なかったのよ!」
ミリアの言葉は、圧を伴って周囲に拡がった。
周りの人々が、一斉にミリアに視線を向ける。
驚き、哀れみ、軽蔑、嘲笑
様々な視線に、ミリアは自分が、大衆の前で大声で叫んだのを自覚した。
頬が赤くなる。顔の熱とは反して、身体の熱が引いていくのを感じる。
全力で走った後のような怠さも感じる。
なぜこんなにも注目されているのか。
教会で、居ないものとされた扱いとは大違いだ。
「何言ってんのよ、私は⋯」
大声を出して、少し頭が冷えた。
手品師如きの言葉に、なんでムキになったのか。
らしくなかった。恥ずかしい。
羞恥心を隠すように、声が小さくなる。
「悪かったわね、急に大声だして⋯」
ミリアの謝罪に、手品師が返す。
「今、お嬢さんも魔術、使ったのぅ。未熟じゃがの。」
え⋯?
どういうこと?
「な、何を言っているの?私には適性はなかったの⋯。魔術を使えるはずがないのよ?」
絶望と、微かな希望が混じり合い、ミリアは困惑する。
再び道具を片付けながら、手品師は淡々と呟く。
「声に力を与え、聞いた相手の行動を誘導する魔術。効果は単純。じゃが、簡単ではないの。原理は難しい」
さらに、肩を軽く震わせる。笑っているらしい。
「教会連中にはだまっとくいい。あやつらには、理解できんじゃろうしな。最悪、異端扱いしおる。まったく、無知なことよ…」
ミリアは目を見開く。
「そんな、魔術⋯!聞いたことない⋯、それに私、聖言⋯スペルを唱えてない!」
魔術は神より与えられた言葉『スペル』を唱えて行使する。常識だ。
「ほほ、魔術を行使するのに、スペルなんぞいらんぞ。」
「そんなはずは…。だって、お兄様も、お父様も…。」
ミリアは記憶をたどる。
「魔術は神の力の再現、正しく使うには、心を整え、決められた聖言、スペルを違わず、滑らかに、一定の音律を持って唱えなければならない」
幼少期より何度も言われた事だ。
「だから、私のは魔術じゃない!」
片付けを終えて、腰を叩きながら手品師は一息つく。
「それじゃあの、お嬢さん。なんであんたは、儂が『魔術を使った』と思ったんじゃ?あんたの言うとおり、儂はスペルを唱えていない。なら、単なる手品の種、と思うほうが普通じゃないかの?」
間髪入れずミリアが答える。
「だって、魔力を手に集めてたじゃない。お兄様が魔術使う時も同じように、煌めくものがギュッと集まる感じがあったわ。」
手品師は、咥えたキセルを手に取り、見える口元だけ、笑ったようにゆがめた。
獲物を見つけたような
探してた宝物を見つけたような
でも、ミリアには、それが堪らなく優しいものに思えた。
「それを感じれることが、優秀な魔術師であることの条件じゃ」




