第19話 手品師見習いの出立
アンナは空に咲いた大輪の花に、思わず大広間から出て、見上げた。
……ミリアさまの手品。キレイ…。この前見せてもらった宝石箱みたい。
見惚れるアンナの頭に、何かが触れる。
「ミリアさま…。」
この方は、もう、ここから居なくなってしまうのだ。彩り豊かな光に色づいた涙が零れ落ちる。
「アンナ、あなたにこれをあげるわ。」
ミリアさまは、頭から髪留めを外して、私の頭に着けてくれた。
ミリアさまが、お気に入りだと言っていた、銀製で、複雑な輝きを持つ宝石が埋め込まれたもの。
「私の部屋に、鞄が一つあるから、持ってきてくれる?アンナ。」
この人は強い。私もこの人みたいになりたい。
そう心に誓い。ミリアの部屋に駆けていった。
駆けていくアンナを見送り、ミリアはもう一度、空を見上げる。
「ちょっと、派手にやり過ぎたかな…」
高く、大きく。そう意識して作り上げた花は、王都の何処からでも見える。
どこにいるかわからない手品師にも届けばいいなと思う。きっと、火柱を立てたときと、同じように言うだろう。
同時に見られたくないもの達、この魔術を異端と断じるもの達にも当然見えているだろう。放射状に咲いた中心はここだ。すぐに露見する。
「ミリア。」
ライネルがマクスに目配せをする。
「持っていけ、あって困らん」
マクスが持ってきたのは、ずっしりと重い金貨袋。
ミリアは何も言わず、あの時の書斎で見せた礼をする。今回はどのように受け取られるだろうか。
「ミリアさま!これ!」
アンナが鞄を持ってきた。気のせいかもしれないが、目に弱気な色が薄れ、力を感じる。
「ありがとう、アンナ。似合ってるわ、髪留め」
はにかむような笑顔に目を細めた。
「では、いってまいります。」
この瞬間、子爵令嬢ミリア・フレアベットは、手品師見習いミリアとなった。
夜のローゼストに咲いた花が消えるころ、キギリス教ローゼスト王都教会は、大混乱に陥っていた。
聖言では到底なすことができない魔術が、王都の何処からでも見えるような規模で発動しているのだ。すぐに王宮からも確認の遣いが来るだろう。
神官の一人が教会長から諮問を受けている。
「なんだ!あの魔術は!例の黒衣の異端者の仕業か!」
「いえ、そうでは無いようです。貴族邸が立ち並ぶエリアで放たれています。すぐに見つけられるかと…。」
「早く、捕らえろ、処分しろ!キギリス教の権威にかかわる!」
「異端審問官を派遣しました。すぐに捕捉できるかと…」
「まったく…どこのどいつがこんなふざけた真似を…」
教会は、物騒な気配を隠さない。
一方、派遣された審問官のギースは額に汗を浮かべ、全身に粟が立ちながらも、貴族街を走る。
あの巨大な魔術、どれだけの魔力を行使したというのか。あの魔術が敵意を持って自分に向けられた時、抗うことができるのか。
絶対に、正面に立ってはいけない、そう思った。
もう、花は消えたが、位置はおおよそわかる。フレアベット子爵邸あたりだ。
ギースは目的地に着き、2人の部下と共に周囲の気配を探る。先程の魔術の影響か、外出してるものが多い。
ギースは街中の会話を拾い聞きする。
花、フレアベット、旅立ち、色鮮やか、適性、光、ミリア嬢、魔術、美しい、旅装…
部下へすかさず指示をだす。
「ミリア・フレアベットを探せ、判別記録では、銀髪、碧眼、適性なし。俺はフレアベット卿に話を聞く。」




