第18話 王都に咲く花
日が沈み王都は次第に色を無くしていく。
フレアベット邸もまた、ランタンが灯され、光と陰で染められていく。
ふと扉をノックする音とともに、呼びかけてくる声が響く。
「ミリア。クロヴィスだ。入っていいかい?」
「お兄様、どうぞ。お入りください。」
ミリアは扉を開け、クロヴィスを招きいれる。
「どうなさいましたか?お兄様。」
扉が閉まることを確認し、クロヴィスが話しはじめる。
「父上が明日、王宮から帰ってきたら、決断を聞くそうだ。」
頷くミリアに、クロヴィスは悲しそうな顔をする。
「それから…、私の知人で…、ミリアを側室として受け入れてもいいと言う方がいる…。父上にも知らせてある。もし、心がまだ決まってないのなら、頭に入れておいて欲しい。」
この兄は本当に…。優しい兄だ、相当駆け回ったのだろう。それに報いられないのは申し訳ないと思った。
「私のことで、ご苦労をおかけして申し訳ありません。少し、考えておきます。」
「ああ、考えてくれ。それと…、アンナから受け取った。本、私が渡すと預かっていたんだ」
差し出された本を受け取る。『ローゼリア王国紀』と書いてある。アンナでは選ばないだろうなと、苦笑いした。
「ありがとうございます、今夜読ませていただきますわ」
言外に1人にして欲しいと伝える。
「ああ、それでは…、考えておいてくれ、ミリア」
そう言って、クロヴィスは出ていった。
再び独りとなったミリアは、届けられた本を開く。国の成り立ちは美しいのに、貴族社会は醜いものだ。そう思った。
約定の日、決断の夜。
ミリアはライネルに呼ばれる。
すでに家をたつ準備は済ませた。服装も軽装だ。
少し不快そうな表情をした執事のマクスについていく。行先は執務室ではなく、大広間か。
父は場所で圧力をかけてくるようだ。
「ごきげんよう、お父様」
父も兄も使用人達もいる。母の姿に、一瞬息を飲む。
「決めたか?」
ライネルが、高圧的な口調で問う。
「はい、決めました」
「クロヴィスから聞いてるだろう。側室か?」
「いいえ、兄様の枷にはなれません。」
間髪入れずに答える。父は意外そうな顔をした。兄は眉をよせ、悲痛な顔を隠さない。
「妾か?」
「いいえ」
「教会か?」
父は表情を無くしている。ふと、アンナが目にはいる。
「いいえ」
アンナが泣きそうだ。
「勘当だぞ、この場で」
父の口元が心なしか震えている。ああ、そういうことか。ミリアは腑に落ちた。
なぜこの場所だったのか。
この場所なら、私が怖気づいて、無難な道を選ぶと思っていたのか。父なりに私が生きていく選択をすることを望んだのだろう。だから、母もここに呼んだのだ。
でも、私は自分の道を決めている。
「はい、この場で勘当してくださいませ。」
「ミリア!考えなおせ!勘当されたら、お前に生きていく道はないんだ!」
クロヴィスが叫んだ。
兄様が叫ぶなんて珍しいこともあるものだ、と冷静に思うと同時に、私もだいぶ手品師に感化されたな、とも思った。
「大丈夫です、私はちゃんと生きていけます」
強がり半分だが。
「これでも、手品、できるんですよ。」
指をクルっと回しながら、ミリアは微笑む。仮面が欲しい。
ライネルが鼻を鳴らしていう。
「大道芸を見に行ってたという報告は聞いているが、そんな甘いものではない!」
固く組んだ腕が震え、目を赤くして言う父に、不器用な人だったんだな、と知った。
「では、勘当していただいたお礼に、ミリア一世一代の手品をお目に掛けましょう」
そう言って、ミリアはまるでダンスホールに入っていくかのように、大広間の窓から外にでる。
魔力を集中する。マナを細く、線状に、放射状に…。
「お父様、理想の娘でなくて、申し訳ありません。ですが、いつか、必ず、お父様が誇れるミリアになってみせます。」
その上に薄く広いマナを層状に広げる…
「お兄様、私はお兄様がいなければ、きっと、他の道を選んでいたでしょう。でも、それはきっと幸せになれる道ではありません。お兄様がいてくれたから、私は自分が幸せだと思える道を見つけられたのです」
矢継ぎ早に、両手の中指を回す。球体のマナの塊が次々に打ち上げられていく。
「お母様、私たちに魔術適性はありませんでした。でも、無価値ではありません。お母様も堂々となさってください。」
精神のありよう。
マナを純粋なエネルギーとして…
マナのある場所を分解する…
頭にあるのは、手品師のことば。
『物が状態を変えるときに放つ』
ならば空気も。
「これが私の手品、王都に咲く花、です」
魔力の波動とともに、成形し広げたマナがエネルギーとなり、空気を分解していき、淡く、強く光を放つ。空気を裂く音がミリアを包む。
大広間から息を飲む気配がする。
ミリアを中心に尾をひいて放射状に広がる葉
彩り鮮やかな花弁が大輪を描き
その周りをきらびやかな蝶が舞う
家族の表情が、彩り豊かな光に照らされ、悲しみの色が和らいだ。
夜のローゼストの空に、大輪の花が咲いた




