第17話 自室という名の檻
父に対面した日を一日目とするなら、今は、四日目の朝になる。
明日には、決断を迫られるのだろう。
それはいい、最初から答えは決まっているのだから。
今ミリアを悩ましているのは、今後自分の支えとなるであろう、魔術だ。
「こんなにも使いこなすのが大変なのね…」
部屋に戻されてから、一晩、試行錯誤している。
魔術の規模の調整が難しい。
どれくらい魔力を使えばいいのか。
マナをどれくらい反応させるのか。
その結果が、微かに焦げた天井だ。
本当に屋敷を焼き尽くすことができてしまいそうだ。
「聖言も、よくできてるものなのね…」
ほぼ決まった規模で発動する魔術。
手品師の言っていた、『その先』もこのことが関わるのかもしれないな、とミリアは思った。
ふいに、ドアがノックされる。
「入っていいわよ」
そう声をかけると、控えめにドアが開かれ、アンナが顔を見せた。
昨日、帰ってから一度も会えていなかったのだ。見た感じ、頬以外は特に折檻はされていないようで安心した。
「アンナ…!」
「ミリアさま、わたし、おやくにたてましたか?」
思わず涙がこみ上げる。
「もちろんよ、アンナ。酷いことはされていない?」
少し腫れている頬を優しく手でつつむ。
「はい、ミリアさま。だいじょうぶです。」
しばらくされるがままにしていたアンナが、心細そうに、話しはじめる。
「あの…ミリアさま…。どこかにいっちゃうんですか…?」
アンナの大きな目が涙に覆われていく。
「わたし…いやです…。どこにも…いかない…で……さぃ」
すすり泣く声、流れ落ちる涙の音に、胸が詰まる。
この小さな相棒は、私を求めてくれているのだ。
私の想いを汲み取り、幼いながらも役に立とうとする優しさ。
でも、私の道は、きっと安全なものにはならない。この娘を連れては行けない。
ミリアは、アンナの小さな身体を抱き、その温もりを心に刻んだ。
しばらくして、少しアンナが落ち着いてきたところで、書庫へ行って何か本を持ってきてくれるようお願いした。
アンナは少し離れがたい素振りを見せたが、ゆっくりと部屋をでていった。
感傷的な心地を振り払うように、戯れに、マナの流れる感覚に身を委ねる。
そう離れていないとはいえ、広場のあたりもわかる。結構な距離のマナを捉えられるものなのだなと、ぼんやり考えていた。
あれ?おかしい。
ミリアは集中する。
…いない。
もっと遠くに…魔力に集中する。
あれだけの存在感、見つからないはずがないのに見つからない。
「手品師さん、もうどこかへ行ってしまったのね…」
あの癖のある優しい老人は、私に魔術を教えるために滞在を延ばしてくれたのかもしれない。
贖罪といっていた。
魔術を教えることが贖罪になるのなら、少しは自ら背負った罪が軽くなっていることをミリアは祈った。




