第16話 我儘の代償
立ち登った火柱の圧力と熱の勢いに、ミリアは半ば吹き飛ばされ、尻もちをついた。
熱風が髪を乱し、肌を焼く。
「…ようも、ここまで…。派手にやったものよ」
手品師は感心半分、驚き半分の声色で言う。
それなりの時間火柱は立ち上っていたと思っていたが、尻もちをついたとこで魔術が切れたのか、実際には一瞬のことだったらしい。
周囲の人々は、それぞれお気に入りの芸人に喝采し、こちらを何も気にしていない。
「ありがとう、なんとか…間に合ったわ…。」
この手品師がいつまでこの街にいるのかは知らない。最初に会ったときに数日といっていたから、明日にはいないかも知れなかった。
自由に動ける時間を作ったかいがあった。
「ねぇ…、手品師さん。今さらだけど、どうして、魔術、教えてくれたの?何の関係もない、小娘に」
「勘当されるから教えてって言いに来た令嬢の言葉ではないな、ふぉっふぉっ」
愉快そうに肩を揺らして笑う。そして、後悔してるような、他の誰かに語りかけるような口調で続ける。
「儂の身勝手な想い、じゃよ。何もできない自分の、悲しみと、…贖罪かの…」
この手品師の過去に何かあったのだろうか、急に重くなった声に、ミリアは口を閉ざした。
「魔術の基礎は、もうわかったじゃろ。これからは、ひたすら、世の理を見据えることじゃ。
……お前の、お迎えがきたようじゃ。自分の道をゆけ」
ミリアは後ろをみる。そこには、ハンスと使用人達がいる。傍らには、頬を赤くしたアンナが泣きじゃくっていた。
「ねぇ、手品師さん。お菓子、もらえる?」
ため息をついて、手品師が焼き菓子を差し出す。
「逃げ出したいわけじゃないのよ」
それを受け取り、アンナの元へ歩いていった。
「お嬢様、こんな所で何をなさっているのですか?屋敷に戻っていただきます」
ハンスは不機嫌さを隠さない。それもそうか、出し抜かれた形なのだ。
ハンスを無視して、アンナを抱きかかえる。
「アンナは私に命じられただけです。これ以上の罰は許しません。」
ハンスを睨みつける。
一瞬怯んだハンスだったが、見下すような目でミリアを見る。
「ここまでして、やりたかったのが、大道芸の観覧ですか。高尚なことですね。」
カチンとくる言い様だ。だが最低限の目的は達したのだ。悔しくとも何ともない。
「あら、多分、これからの貴族には必要なことよ?」
「アンナ、ありがとう、あなたのおかげよ、何もかも。」
赤くなった頬をなで、手にお菓子をもたせる。
「もう、取られちゃ駄目よ」
アンナの目から涙が溢れた。
「お嬢様には、旦那様の決定が下るまで、自室から出ることは許されません。部屋の外に監視をつけさせていただきます。」




