第15話 魔術の火
「ちょっとまって、ひとつわからないわ。」
ミリアは手を前に突き出して、手品師を制するようにいう。
「魔術で起こしたいことの過程を、マナにさせるってことはわかったわ。なら聖言はどうなるの?あれはただの言葉で、過程も何もないんでしょ?」
「そこに疑問をもつか、理解が早いの。
聖言、スペルなんぞ、なんや掲げてみたり、振ってみたり、文字を書きながら混ぜるとか、面倒なことをやりながら、なんかメレンゲができたぞ?このやり方が正しいんだ!ていう感じの、偶然の産物じゃな」
じゃが…、と続ける
「魔術にはその先がある…。とだけ、言っておこうかの。」
ミリアは思う。なぜこの手品師は確信をもってそこまで言えるのかと。
「さらに先…、何よそれ、もったいぶって…。気になるじゃない…。」
「ふぁっ!ふぁっ!焦らんでも、いずれお前も行き着くところじゃ。それよりも始めるぞ?」
ミリアは居住まいを正して言葉を待つ。
「火とはなんじゃと思う?」
実践といいながら理論じゃない…?
そう思いつつも考える
「火は火じゃないの?…いや、そういうことじゃないのよね…。」
手品師の口元がニヤリと歪む。
今までの話から、火を生み出すための何かを聞いているのだろう。
「熱…、光…、揺らぎ…。何か、ほかに…」
仮面から覗く瞳が細くなる。
頭の中で、アンナが屋敷のロウソクに鉄のカップのようなものを掛けて消している光景を思い出す。
「空気…。それらが集まって火になる…。」
何か足りない気がする。あ…、わかった。
「それと、燃えるための物、ね?」
仮面越しにわかる。手品師は笑っている。
「ほんとに、聡い子じゃな。」
手品師の手が頭に乗せられる。
これは、何か…、嬉しい。涙がでそう。
「火とは、物がその状態を変化させる時に、熱と光を放つ現象じゃ。」
中指の先に、淡い青の火を灯す。
「それを継続させるためには、熱と、空気と、燃える物を必要とする。」
火の大きさや形を自在に変えてみせる。
「やってみるがよい」
ミリアはマナをかき集めながら、考える。
熱は火に至る過程として、マナで実現できるだろう。空気はここにある。
あとは、燃える物。
何もない。手品師は薪や炭、ロウソク、油のような物は使っていない。
しかし、彼が『やってみろ』と言ったということは、私にもできるのだと。
どこかにある…。見えないだけで、あるのだ。
考えろ、叱責されてまで、ここに私を送り出したアンナのためにも!
ふと、アンナがお菓子を選んで、メレンゲクッキーをくれた光景を思い出す。
あ、ひょっとして…
……空気の中にも燃えるものがあるのか
ミリアの魔術が発動し、手品師との間に淡い青色の火柱が立ち上がった。




