第14話 メレンゲが示すもの
屋敷の門を駆け抜け、ミリアは手品師の元へ急ぐ。
手品師がどれくらいの期間この街にいるか、わからない。いるうちに、きっかけくらいは掴まねば、道は拓けないのだ。
いつもの広場に入る時、ふと不思議な感覚がミリアを包んだ。何かを忘れたような、そんな感覚。
いや、今はそんなことを気にしてはいられない。
いつもの場所で、手品師がこちらを見ている。
いつも通り、観客は誰もいない。
なぜいつも観客がいないのか、いや、今はいい。
乱れる息を整え、手品師の前に立った。
「なんじゃ、もう勘当されたんか。メイドの働き口があったのはよかったのぅ。ふぉっふぉっ」
いつもの口調、まだここにいた事に安堵した。
酷い言い様だ、メイドになるなら魔術を教わってはいない。
「そんなんじゃ、ないわよ。それより…」
「魔術が発動せんのじゃろ?」
核心を突いてきた。虚をつかれ、言葉が止まり、ミリアは頷く。
「昨日、小さいメイドの子に渡した菓子は食ったか?何を食べた?」
話の流れに沿わない質問に、首を傾げる。魔術が発動しないことと、何の関係があるのか。
しかし、鋭い目線を感じ、ふざけてるわけではないのだと悟った。
「え…と、アンナがくれたのは、メレンゲクッキー、だったわね。」
「ふむ、メレンゲクッキー、それか…。では、例え話をしよう。」
一呼吸おき、滔々と語り始める。
「魔術を使うことを、メレンゲを作ることに置き換えるぞ?
鶏の卵の白身をマナとする。お前はこれをメレンゲにするにはどうしたらいいかわかっている。」
手でかき混ぜるような動作をしながら、続ける。
かき混ぜる空間に、マナが揺らめく。
「そう、フォークか何かで空気を含むように混ぜればいい。その混ぜる腕の力が魔力じゃ。」
ミリアは、一言も聞き逃すまいと、手品師を見据える。
「何も減ることはないが、続けるとつかれる。それが魔力の消耗じゃ。作り方を知り、そして正しく力をつかう、それが魔術じゃよ」
マナが揺らめく空間が、淡く光を放って、霧散していった。
「作り方…」
「そう、お前はきっと結果だけを思い浮かべて、魔術を発動しようとしたんじゃろ。そうではないんじゃ。そこに至る過程を、魔力でマナに実現させるのが、魔術なんじゃ」
そして…と続ける。
「その過程を思い描けなければ、この魔術は発動せん。ゆえに。決して万能ではない。ということを頭においておかなければならない。」
ミリアは思っても見なかった言葉をきいた。
魔術とは、神の御業。人にはなせぬことを実現する万能の技。使いこなせぬのは未熟ゆえ。そう聞いていたから。
「万能ではない…のね…。でも…、うん、わかった気がするわ!」
「ふぉっふぉっ!ここで、理解できずに挫折するものもおるんじゃがな!よし、じゃあ実践といこうかの。」




