第13話 モスクワの死闘
3月25日、亮たち5人は暇を持て余していた。
亮は、ここ数日火星軍が襲撃して来ないので、その暇な時間を有効活用するべくトレーニングをしようと考えていたのだ。
「もし今度ジンが来たら、必ず倒してやる! そのためにも体力をつけておかないとな……」
「亮、一緒にコスプレしようよ!」
そんな事も知らずに、玲は亮をコスプレ祭りに誘う。
「悪いな、玲……。俺は今からトレーニングをしようと思っててな…。コスプレはまた今度だな」
「なんだ、つまんないの……」
玲はションボリとした表情でその場を去っていった。
そして亮はトレーニングルームに向かう。
︙
亮がトレーニングルームに入ると、そこにはジェフとリックの姿があった。
「おっ、亮じゃねぇか。最近よく来てるけど、何故そこまで体を鍛えたいんだ?」
「確かに。何を目標にしてやってるんだい?」
二人は最近の亮の動向が気になっているようだった。
「何故かって? それはな…、火星軍のジンって奴を倒したいからさ。精神的にも肉体的にも、しっかり引き締めたいんだ。何があっても、アイツには負けたくないんだ……」
彼の顔からは、並々ならぬ強い思いが溢れ出ていた。
心も情熱的なエネルギーで満たされている。
「なるほどな……。そりゃあ面白い。まぁ、やれる限りのことは極力やっておくんだな」
「あぁ、そうするよ」
亮は笑顔でそのように答えた後、ベンチプレス用の台の上で横になり、トレーニングを始めた。
一方、鎧は玲のコスプレ祭りに巻き込まれ、彼女に翻弄されていた。
「鎧さんこの和装似合うねぇ。格好いいよ」
「そ、そうか……」
鎧は若干困惑した表情でそう答えた。
自分は一体何をやっているのかと思いつつも、玲の言う通りに様々なコスプレをした。
和装だけでなく、ファンタジー系の物や、SF系の物、学園モノの物、スチームパンク風の服装、果ては女装までさせられた。
まさしく死角無しである。
ちなみに、コスチュームのパーツの一部は亮が3Dプリンターで作成している。
「玲、もうやめにしないか?」
「えっ? あっ、うん……。わかったよ」
玲は時計を見て、もうすぐ正午になるのを確認してから、衣装を片付けた。
鎧も今の時刻を知り、更衣室に行って着替えた。
一方、火星政府軍では幹部会議が行われていたが、何か問題が発生したのか、話は上手く纏まらなかった。
そして、基地管理官のゼルガ・ファルムは長官であるリザーグ・ドリオスの意見に反発した。
「リザーグ長官! 新型MUの開発をこれ以上遅らせる上に、新しい基地の建設計画を渋っていては地球軍に反撃されるチャンスを与えるばかりです……。いい加減早くして下さい!」
「だが……、慎重に物事を考えるのも重要なことだ……」
「でも、長官……」
ゼルガは困った表情を見せた。
「黙らんか、ゼルガ!! 私の言う通りにしろ!」
横暴な口調でリザーグはそのように対処しようとしたが、
ゼルガはその態度に堪忍袋の緒が切れた。
「何だと……、もういい! もうたくさんだッ!! 貴様の言うことなど聞いていられるか! 自分のことしか考えないろくでもない無能め!」
唐突に怒りをあらわにしたゼルガは、自らの拳を机に叩きつけた。
「貴様……、誰に口を利いていると思っているんだ!?」
リザーグもこればかりは黙っていられず、思わず強い口調になる。
「アンタだろう……。もう私はこの軍を辞める! 二度とアンタの言うことなど利かん!! さらばだ!」
「お、おい……、待て……」
リザーグの言う事に聞く耳を持たず、ゼルガは部屋を去っていった。
この事態が後に大事件を発生させるとは、誰も思わなかっただろう。
その一方で、ジン率いるシャドー隊は、地球への攻撃を行う為の、基地襲撃作戦を練っていた。
「さて、今回の作戦では他の部隊と協力してロシア政府軍本部のモスクワ基地を狙う。アルカディー、プロジェクターのスイッチを点けろ」
「承知しました、ジン大尉」
ジンの指示を受け、アルカディーはスイッチを点け、ロシア政府軍周辺の立体地図を映した。
「なるほど。これがモスクワ基地ですね……」
ルードは表示された立体地図を目に焼き付け、地形、基地の設備など一字一句間違えることなくメモに書き留めた。
「この作戦の目的は、ロシア政府軍の戦力を低下させることだ。モスクワ基地の襲撃に成功さえすれば、これ以降はロシアへの攻撃がしやすくなる。上層部曰く、最終的には当国の基地を乗っ取り、火星軍のMU製造工場にするとのことだ。しかしながら、上層部の連中は素晴らしいことを考えるなぁ……」
ジンは半ば呆れた顔で皮肉を言う。
彼はわざわざ地球の領域にある基地を乗っ取ってまで戦力を向上させていくことに反対していた。
「ジン大尉、我々はどのように行動すべきでしょうか……」
ラルフは、ジンに対しそのような質問をした。
「そうだな……、今回は二人一組で行動をするとしよう。それと、使用する武器はビームバズーカやグレネードだ。それ以外にも、ビームマシンガンなどを使用して、圧倒的火力で敵を殲滅する。今回、バズーカを使って貰うのはアルカディーとラルフだ。任せたぞ」
「了解」
アルカディーとラルフは、ジンに対し敬礼をした。
「俺とルードは、グレネードとビームマシンガンを併用する。ルード、頼むぞ……」
「は、はい……、ジン大尉」
彼は焦り気味に返事をした。その直後にこの作戦における自らの重要さに気付くと、思わず鼓動が少し速くなった。
「ロシア政府軍のモスクワ基地には、ブリザード隊がいる」
ブリザード隊とは、ロシア政府軍の中でも最も実力のある機動部隊である。隊長は、ニコラス・ドルチェノフ。彼の技量は、特殊部隊WOLFの隊長であるマーク・ランディーも認めている。
「そうですか……、これは厄介なことになりそうですね」
アルカディーは焦りを感じたのか、少し緊張しつつそう言った。
彼は一年前に、作戦中にブリザード隊と戦闘を行ったが、まるで歯が立たず撤退を余儀なくされたのだ。
「アルカディーも焦燥に駆られているようだな。まぁ無理は無い。おっと……、話がかなりずれてしまったな。肝心の作戦内容だが、俺とルードは空中から攻撃を仕掛ける。アルカディーとラルフは地上で集中砲火を行うんだ……。分かったか?」
「了解!」
部下の三人は、緊迫した表情を見せつつ返事をした。
「では、今から出撃準備を行うぞ」
「はい、わかりました」
シャドー隊は即座に出撃準備を始めた。
それから数時間後、モスクワ基地へと火星軍は進軍を始めた。
そのことを受け、ブレイダー隊に召集命令が発令された。
「ブレイダー隊の諸君、君たちには直ちにロシア政府軍の本部に行ってもらう。やや遠いがな……」
「えぇ……、本当ですか?」
玲は思わず困惑し、江川にそう問いかける。
「あぁ、本当だとも」
「そうなんですか……」
事実を何とか受け入れようとする玲。
「あぁ、そうだとも……。それと今回から君たちは、最速で目的地に向かえる輸送艦である“SC-14”に乗って世界各国へと移動して貰う。この輸送艦なら最速で約2時間程度で行けるぞ。では、任せたぞ……」
「了解!」
こうしてブレイダー隊は、モスクワへと向かった。
しかし、ブレイダー隊がモスクワ基地へと向かっている間にも、火星軍の攻撃は既に始まっていた。
「ルード、基地の防衛ラインへ突撃せよ!!」
“はいッ!!”
ジンとルードは、真っ先に艦から降下し、機銃で光弾を撃ち放った。
その攻撃により、何人もの兵士が犠牲になった。
「まずいっ、まずいぞぉ! お前ら、早く攻撃しろぉ!!」
“了解ッ!!”
ロシア政府軍の兵士達は火星軍の機動部隊に立ち向かうが、次々に倒されていき、灰と化していった。
味方が次々に倒されて散っていき、敵が有利になっていくのを見て、ニコラスは悔しさの余り、憤慨した。
その怒りを燃やして、彼が率いるブリザード隊や、他の機動部隊は敵を迎え撃つ。
「よし……、集中砲火開始だァッ!!」
敵軍の兵士全員が、果敢に攻撃を仕掛けていく。
「この野郎ッ、よくも俺の仲間をッ!!」
ニコラスの怒りの集中砲火は、迫りくる敵を次々に倒し、形勢を逆転させ、ロシア政府軍側が有利になっていく。
しかし、それでもその凶弾によって倒されない者がいた。
「アルカディー、ラルフ! そっちはどうだ!?」
“今は我々の方が有利ではあるのですが……、もう形勢は逆転されそうです!”
ラルフはかなり焦燥に駆られていた。
「何ィッ!? それでも攻撃の手を休めるんじゃあないぞ!! 撃て! ひたすら撃てェ!!」
ジンは己の精神を紅い灼熱の炎の如く燃やし、部下の戦意を向上させようとする。
しかし、その時であった。彼らが来たのは。
「ん!? あれはブレイダー隊の連中か? クソッ……。まぁいい、今度という今度は倒してやる」
「この機体……、マルスブレイダーだ! ジン、とうとう来たか!」
亮はジンの真紅の機体を見た直後、すぐさま機銃を構えた。
「喰らえぇぇぇッ!!」
何発か光弾を放つが、ジンはそれを全て盾で防いだ。
「何だよ……。戦いはそう上手くはいかねぇってワケか……」
“亮、俺達も忘れるなよ!”
彼に負けじと、ジェフとリックも後方から攻撃を仕掛けていく。
そして、ジェフはそこから更に空中へ舞う。
「亮、空中の敵は俺に任せろ! お前とリックは地上で戦え!」
“わかった! リック、行くぞ!”
“おう!”
二人は、シャドー隊のジンとルードに立ち向かった。
「ビームブレードで……、斬る!」
亮はジンの機体に自らの剣を縦に振りかざした。
「てやあぁぁぁッ!!」
「来たかロードブレイダー! ならばこっちもッ!!」
互いの刃は激しく衝突し、光の粒子が飛び散る。
「くっ……、やるじゃないか。前よりも強くなったようだな! だが、お前の快進撃はここで終わりだッ!!」
ジンは遠くへ離れた後に、ビームマシンガンで光弾を放つが、全てシールドで防御されてしまう。
「リック、ナパームミサイルを撃つんだ!」
“わ、わかった!”
リックは亮の後ろからジンに目掛けて攻撃を繰り出す。
しかし、それはすぐに避けられてしまった。
「何だ今のは……」
ジンが爆風を見て困惑している隙に、亮はビームマシンガンをチャージモードに切り替え、稲妻のような光線を放った。
「ぐあぁぁぁッ! 左腕がやられた!」
マルスブレイダーの左腕は、今の攻撃によって塵となった。
「だが、負けん、負けんぞォッ! ルード、後方支援頼む!」
“了解”
二人は亮達に負けじと砲撃戦を始める。
しかし、亮は既にビームマシンガンのエネルギーが尽きており、遠距離攻撃は不可能だった。
「リック、今いけるか?」
“あぁ、ここは僕に任せてくれ……”
「すまない……。本当にすまない。任せたぜリック!」
攻撃出来ない悔しさを噛み締めながらも、亮はリックに攻撃を任せることにした。
“亮、ここは私達に任せといてよ!”
“俺も忘れるなよ、亮……”
“こっちは敵の始末が終わったからよ、地上の奴に攻撃できるぜ”
「玲、鎧、ジェフ! ありがとよ! 俺だって負けてられねぇな」
亮はビームブレードを構えて、近距離攻撃をしようと試みる。
それから更に、亮以外の四人は一斉掃射を始めた。
「来いッ、ジン!! てやあぁぁぁッ!!」
一気にジンとの距離を詰めた亮は、自らのブレードを大きく振りかざし、マルスブレイダーの右腕を切断した。
「うわぁぁぁッ!! もう機体は限界だ。アルカディー、俺は撤収する!」
“承知しました、ジン大尉”
機体に大きな損傷を負ったジンは、撤収を余儀なくされたのだった。
「ルード、俺達もお前に加勢するぞ!」
“はい、アルカディー少尉!”
ジン以外の3人は、軽やかな動きをしながら空中で攻撃を行う。
圧倒的なスピードと火力に圧倒されそうになる。
「クッソォ……、ここまで動きが素早いと狙いづらいじゃねぇか……。上手く敵の動きを見極めて…、撃つ!!」
ジェフはタイミングを見極めた上で光弾を放った。
「うぅっ! 被弾した。ラルフ、後は任せた……」
“りょ、了解……”
アルカディーは自らの危機を察して戦線離脱した。
一方、玲は亮たちとは別方向の防衛ラインにて残りの2人を相手に遠距離攻撃を仕掛けようと試みる。
「よぉし、これで撃つ! えぇい!!」
彼女は両手に持ったビームガンで光弾をとてつもないスピードで連射した。
この攻撃によって、ラルフは機体に酷い損傷を負い、撤収しなければならなくなった。
「こいつめ…、てやっ!!」
ルードは、ビームソードでソニックブレイダーの右腕を切り落とす。
「きゃあぁぁぁッ!! このままじゃ……!」
“玲、ここは俺がやる……”
ピンチの中、鎧が玲の元へと素早く駆け付けた。
「鎧さん……、ありがとう。後は任せたよ!」
彼女はやむなく撤収を余儀なくされる。
鎧はビームクナイをルードの機体に目掛けて投げた。
「ギャアァァッ! もうこれ以上は保ちそうにない……」
こうして、ルードもまた撤収したのだった。
シャドー隊が撤収してからも猛攻撃は続いたが、ニコラス率いるブリザード隊の活躍によって、半分以上が撃墜され、これ以上の攻撃しても形勢逆転は厳しいと判断された末に、火星軍は撤収した。
「今回は作戦に協力してくれてありがとう……」
「いや、僕たちはそこまで力になれなかったと思うんですが……」
亮はそのように謙遜する。
「そんなことは無いぞ。君たちのおかげであのジンを撤収にまで追い込めたんだ…。本当に感謝するよ……」
「そのようなことを言ってくれるとは……、嬉しいですね。またいつかロシア政府軍の方に向かう機会があったら、よろしくお願いします……」
「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ」
亮とニコラスはしっかりと握手をした。
そして、翌日。亮はタブレット端末で新聞の記事を見ていた。
すると、その記事の中にとんでもない文章を見つけた。
「ん!? 火星革命軍が成立!?」
「亮、どうしたの?」
玲は唐突に驚いた兄の姿を見てそのように問いかけた。
「なぁ玲、この記事を見てくれよ」
「えぇ? どれどれ……? 何これ!? 火星革命軍成立って本当?」
訝し気な顔つきになる玲。彼女は何が何やら分からず戸惑っていた。
「そりゃあ新聞に書いてあるんだから、本当なんだろう……」
「もしかしてこれ、第三の勢力になっちゃうんじゃない?」
「その可能性は高いな……」
果たして、火星革命軍の全貌とはどのようなものなのか。




