036:ありがちな英雄譚と現状の乖離
4日連続更新の二回目です。
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斥候に出していた仲間からの報告により、進路上で何者かがモンスターと交戦中であるのを知った、村瀬悠午と旅の一行。
必要なら割り込むつもりで馬車を急行させると、そこでは3体の巨人が6人の騎士を蹴散らしている最中だった。
身長5メートルを越え、原始的な武器を振るう凶暴なモンスター、『オーク』。
微かな知性と圧倒的な暴力を見せる相手に、悠午たちは交戦に入ろうとしていた。
ところが、
「ホントにわたしがやるの!?」
「そんなに難しい相手じゃないと思うけど。オレもフォローするし」
今回、悠午はあまりやる気無し。仮弟子の女戦士を前面に立たせ、自分は援護に回るつもりだった。
弟子と言っても素人の域を出ない不安だらけの弟子であるが、この世界を旅する上で荒事が避けられそうにない以上、積極的に機会を活かすだけである。
しかし、弟子こと女戦士の姫城小春は、ゲームとは違う大迫力のモンスターに怯えていた。
仲間もいるし悠午の助けもあると分かってはいるが、本物の殺し合いには当分慣れそうもない。
「ゴーウェン、こっちのは貰うよー」
「ほどほどにしとけよ、ユーゴ……っと!」
冒険者の大男、ゴーウェンも馬車の前に立ち大剣を正面に構える。
これまでの冒険者業で、オークは何度も相手にしてきた。ましてやこの面子。恐れるほどのモノではない。
「クロードは守りに徹しなさい。マスターの邪魔にならないように」
「ハッ!」
肉感的な美女に指示され警戒にあたるのは、アストラ国のヴィレアム男爵家次男、クロードだ。
自分の家より、自分の仕えるヴィンセンタール子爵家より遥かに偉い筋から命じられ、今回の旅に同行している。
その偉いヒト、指示を出している魔道士フィアの、お世話役兼護衛だ。
「オーク! レベル20くらいだっけか! よっしゃ経験値ゲット!!」
「あ、あぶないよーミコちゃん……。ユーゴくん達に任せようよー……」
「こちとら回復職と違って魔法職だから攻撃しないと経験値稼げないっつーの!」
馬車から飛び出し息巻いているのは、市松人形のような髪型のジト目魔術士、御子柴小夜子だ。この世界に来てもプレイヤー根性が抜けてない。経験値を稼いでレベルを上げて強くなる、という方針は間違ってはいないが。
そんなプレイヤー仲間を心配している法術士の隠れ目少女、久島果菜実は、お世辞にも清潔とはいえないオークの威容に腰が引けている。
若奥様法術士の梔子朱美は、ゴーウェンに代わって御者席で待機中。ちなみにウマは操れない。
そして馬車の上では、何故か首都プロスレジアスから付いてきた冒険者の斥候、ビッパが面白そうに皆のやりようを眺めていた。
倒れていたオークが頭を振って起き上がる。もとより悠午も、一撃で仕留めようとは思っていない。弟子に喰わせようと思っているので。
ほか二体は特に連携など見せず、叫びを上げてパーティーへと突っ込んで来ていた。
うち一体が岩の棍棒で地面を摺り、真横から叩き付けようとしていたが、
「ぅううオラッ!!」
ゴキンッッ! と派手な音をさせ、ゴーウェンの大剣に弾き返される。
更に、ゴーウェンは弾かれた勢いを逃さず身体ごと剣を旋回。
大剣を振り上げると、大きく踏み込みオークへ振り下ろした。
その一撃は間合い、タイミング、威力と申し分なく、オークを中心から真っ二つに叩き斬る。
「なんと…………!!?」
「まさか一太刀でオークを!?」
脇に避難していた騎士が目を剥くが、『断頭』の名で通る冒険者のゴーウェンには、少々物足りない相手だった。
「さーて何が良いかなー何が良いかな……『パラボラグレネード』だ!!」
ジト目魔術士は音声入力でプレイヤーの持つ魔術スキルを発動。手にしたスタッフの先端から、火花を散らす炎の塊を発射する。
曲射弾道で飛ぶ炎の塊は、オークの顔に直撃する寸前に爆発。火炎と衝撃が拡散し、その巨体上半身を包み込んだ。
「グゴァアアアアアアア!!」
「チッ! この程度じゃ倒せないか」
「わぁ!?」
ところが、オークの巨体は小揺るぎもしない。
それどころか怒りに油を注いだ様子で、下手人のジト目魔術士の方へ猛スピードで向かって来た。
驚いて尻もちつく隠れ目の法術士。
だが、プレイヤー達の目前に迫ったところで、茶褐色の巨人は唐突にその動きを止める。
何事かとオークが足下へ目を向けると、自分の片足に糸のような物が絡み付いているのが見えた。
そして糸の反対側は木に結ばれており、オークの動きを阻害している。
「――――――ゥ……ユルルル、エフ、ソイス、ストラタ、アット!」
そこを狙い、肉感的な魔道士が古木の長杖を振るい、呪文と共に魔術を放った。
真直ぐに伸びる炎のムチは、足元に気を取られていたオークの頭を直撃。
頭部を大きく抉り、一撃でモンスターを倒して見せる。
その本物の魔術を前に、見上げる形となったジト目が乙女らしくない舌打ちをしていた。
「間合いと動き、集中して」
「は、はーい!!」
飾り気のない武骨な斧槍を担ぐように構え、女戦士は緊張しながらもオークの巨体と正対する。加えて背後には師匠チェック。緊張感倍増。
思い出すのは、これまでのトレーニング。
足手纏いになるのを望まず、年下ながら自分より遥かに武道に通じた少年に戦い方を教わり始めて、まだ短い。
が、この村瀬悠午という達人、相手が年上だろうと女性だろうと素人だろうとお構いなしに、斧槍で何万回も素振りをさせたり、組み打ち(試合)で遠慮無しにぶっ叩いたりして来るのだ。
先の一戦では、それらの成果を実感する事は出来た。ゲームではないリアルでの戦い、というのも、少しだが分かった気がする。
とはいえ、怖いモノは怖いのだ。ましてや自分の3倍以上大きなモンスターに挑むのだから。
「グゥウウオルァアアアアア!!」
「ひィ!?」
しかし、オークが相手の心情など斟酌するはずも無く、ただ叩き潰そうと棍棒を振り上げる。
散々ぶっ叩かれた記憶が脳内に閃き、考えるより先に小春は地面を蹴っていた。
ヒトほどもある質量の鈍器が怪力にて振り下ろされ、一瞬前まで小春がいた地面に大穴が開く。
ゲームで喰らっていたら4~5割は体力値を持って行かれたかも、などと思うが、現実はもっと痛そうだ。
というか頭に攻撃が入ったら体力値減少とかじゃなくて頭蓋骨骨折で死ねると思われる。
オークの大振りにより期せずして側面を取った小春だが、そこで動きを止めてしまった。
相手は隙だらけ。攻撃には絶好のタイミング。
モンスターを倒すのは、冒険者としてプレイヤーとして当然のこと。
同時にそれは、生き物を、特に二足歩行する生物を殺すという意味だ。ゴブリンを手にかけた事はあるが、正直今も気分が悪くなる。
とはいえ旅の上では避けられる事ではなく、自分の身は自分で守らねばならない。
そんな逡巡をしている間に、棍棒をぶら下げたオークが小春へと向き直っており、
「ッ…………うあッッ!!」
「ガァアア!!?」
咄嗟の判断で斧槍の持ち手を引っ繰り返した女戦士は、刃とは逆の鎚の部分をオークの脚へ叩き付けた。
殺気が無い攻撃であっても、ステータス補正が付くプレイヤーの戦士職であり、達人に叩き込まれた太刀筋の威力も並ではない。
体勢を崩され、オークの巨体は背中から地面へ倒れそうになる。
膝を折り地面に手を突き堪えるオークだが、女戦士はその頭部へ斧槍を振り下ろした。
ドゴスッ!! と鈍く大きな音が響き、直撃を受けた巨人は今度こそ顔面から地面へ倒れる。
オークは相当にタフな生き物であるが、流石に後頭部直撃だと効いたらしい。
そして小春は、思わずやってしまった、殺す気は無かった、と言うサスペンスドラマの犯人のような顔をして立ち尽くしていた。
「ふむ…………」
腕を組み、それら一連の動きを見ていた悠午の方は、何とも言えない微妙な顔で溜息を吐く。
弟子の力量は、すなわち師の力量でもあるのだ。
合格か不合格かでいえば、そもそも採点しようのないレベルの立ち回りだったが、つまり全部自分にブーメランしてくると。
こういうワケで。
「まぁ素人のお嬢さんなら、こんなもんか…………。でも確実に殺さないと、自分と仲間が致命的な反撃を受けかねませんよ?」
「ぅ……うん…………ゴメン、なさい」
ションボリする小春も、それは分かっているのだ。
モンスターか人間か、さもなくばプレイヤーか。相手が何者かに関係なく、襲って来る相手は倒さなければ――――――――ハッキリ言えば殺さなければならない。
自分や仲間が殺されるからだ。
悠午も特訓中、それは何度も繰り返し小春に教えていた。
物腰穏やかで、仲間には優しい少年ではあるが、そういう部分はドライだ。
「で、でも、殺さずに済むならそれが一番いいじゃない? わたしもそういう戦い方、覚えられないかな…………」
「言いたい事は分かりますけど――――――――」
おずおずと遠慮がちに言う弟子に、眉を顰めている師匠。
相手を殺さずに、気絶させたり無力化するやり方。確かに、武道や格闘技には、そういった不殺の思想がある。
とはいえ、それで我が身に危険を招いていれば世話が無いワケで。
「……グ…………グォォオオアアアア!!!」
「ぅえ!!?」
目を覚ましたオークが跳ね上がり、無防備な女戦士へ喰らい付こうとする。文字通り喰い殺す勢いだ。
完全に油断していた小春は、反射的に斧槍の柄で身を守ろうとするが、
「――――――――やっぱ100年早いですね」
直前に、一瞬でオークの頭を押さえた悠午が、そのまま地面に叩き返した。
その威力は、中途半端な女戦士の一撃とは比べ物にならず、巨人の頭部は完全に地面へ埋没してしまう。
何気ない動作であったにもかかわらず、直下型地震と間違える程の衝撃。
そして、それだけの事をしておきながら、達人の方は何でもない様子だった。
「……とまぁこの通り、キッチリ殺さないと死にますよ? まず自分が生き残らないと、手加減も何も出来ませんからね」
「はい…………」
オークはもはや、ピクリとも動かない。
悠午も小春も生きているのだから、つまりそういう事なのだろう。
力量も覚悟も違いを見せつけられた思いで、女戦士が肩を落す。
多少は戦いらしきものが出来るようになった、と思えば、早くも道を見失い気味だった。
◇
大男の冒険者、ゴーウェンが剣を担いでモンスターの屍を検める。どこぞの素人冒険者と違い、相手を倒した後も油断などしない。経験上何度も痛い目を見ているので。
自分が真っ二つにしたオーク、頭が3分の1ほど欠けているオーク、それに頭を地面に埋めているオーク。
内一体のオークの脚に、何か紐のような物が絡み付いているのを見付ける。先端には小さな刃が付いており、巨人の脚の弛んだ皮膚に突き刺さっていた。
なるほど、どうやらこのパーティーは悠午以外にもクセのあるのが揃っているらしい、と先が楽しみやら呆れるやらのゴーウェンだった。
ちなみに糸は茶髪に小柄の斥候、ビッパが回収して行った。
「おーい、生きてるかー騎士殿よ。手当てが必要か?」
ゴーウェンは次に、オークに襲われていた騎士たちの様子を見に行く。
全員生きてはいるが、3人は重傷。他の者も、落馬の際に何かしら負傷しているようだ。
装いからして、アストラ国の中位から下位の騎士と予想。
となると少々思うところのあるワケあり冒険者だが、そこの所は態度にも顔にも出さなかった。
「鎧を外せ! 中までやられてるぞ!!」
「コートニー! おいしっかりしろ! 死ぬな!!」
「霊薬を持っていないか!? 治癒術の遣い手は!?」
禿頭傷の男が、仲間を看ながらゴーウェンを呼ぶ。
騎士たちの方は仲間の処置に大わらわだ。
オークの怪力にやられた騎士は、頑丈な鎧を大きく潰されている。身を守る役割も、果たし切れていなかった。
出血も見られ、顔色からも怪我の程度は軽くない。
「カナミ嬢ちゃん、アケミ、来てくれるか!?」
が、騎士たちにとって幸運な事に、パーティーにはプレイヤーの法術士がふたりいた。
隠れ目の少女と若奥様は、ゴーウェンに呼ばれると小走りで駆けて行く。
無残な騎士の有様に一瞬息を飲むふたりだが、すぐさまワンドやステッキを向け回復用スキルを使用した。
ライブスフィア、熟練度10。
近距離範囲、生体活性(光属性)、光の範囲にいる対象の回復力を上昇させる。
レベル10台に乗せた香菜実の新たな法術スキル。
朱美奥さまも、以前の過酷な生活の中でレベルアップし修得していた。
法術士が杖をかざしたその先に、ヒトひとり分程度の光球が現れる。
光に包まれた騎士は、徐々に傷が治りはじめていた。
「おい、我が名はユラン=パンドルフ男爵だ。負傷している。手当しろ」
「あ、ちょっと待っていただけますか。こちらの方が落ち付いたらすぐに――――――――」
「脚が痛いのだ、私を先にしろ。金が欲しいか? ほら」
ところが、スキル使用中の若奥様の肩を掴み、強引に自分の方を向かせる貴族のひとり。
重症の方を先に回復させたい朱美だったが、強引な貴族は爵位をチラつかせ、その上に銀貨を放って自分を優先させようと迫った。
ちなみに、怪我の程度は大した事ない。
「パンドルフ卿、ドリーンは胸が潰れている! ケンプも腕がダメだ! ロギンは血が止まらない! 今はこいつらの命を取り留めなくては――――――!」
「私の脚が使えなくなったらどうする!? 貴様らは私が騎士として使いものにならなくなっても構わんと言うのか!? 私がそんな事になったらパーリナント侯爵はどう思われる!!?」
他に3人も死に損ないがいるのだから、掠り傷くらい後回しにしろ、と言いたい禿頭傷の騎士。
だが、偉そうな貴族はあくまでも主張を変えない。爵位としては他の騎士とたいして違いは無いのだが、後ろ盾まで持ち出し居丈高に禿頭傷の男を押さえ付けた。
面倒な奴らを助けたか、と内心で嘆息するゴーウェンは、法術士のプレイヤーふたりの様子を見る。
プレイヤーの扱う『スキル』と呼ばれる技術は、どれも強力だ。治癒を開始した以上は死ぬ事は無いと思われるが、法術士ふたりに対して、重傷者3人、軽傷ふたり、ほぼ無傷ひとり。
油断はできず、確かに治療を急ぐ状況ではあったが、
「オレがやりましょうか」
ここで、女戦士を連れて悠午が様子を見に来た。
少年のこの科白で、ゴーウェンの脳裏にかつての出会いのエピソードが思い起こされる。二つの意味で死ぬかと思った。
しかし、この場合はいい気味かもしれない、と考える。
パンドルフとかいう偉そうな名前の騎士は、ゴーウェンの気に入らない騎士様の典型だった。
更に言うならば、その後ろ盾の『パーリナント侯爵』は、よく知る傲慢な貴族の代表格である。
「治癒術士か? 傷みが早くなってきた! 早く直せ!!」
「治癒術士じゃないんだけど……まぁいいや。あとオレの治療は痛いですよ?」
悠午の注釈など聞く耳を持たず、「とにかく早くどうにかしろ」と急き立てる偉そうな騎士。
そしてゴーウェンが期待した通り、負傷を逆再生するような痛みのリプレイに、パンドルフが悲鳴を上げていた。
クエストID-S0037:妥協無きフルギアキャンパー 09/18 21時に更新します




