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◆信頼はお金じゃ買えない


 地下へと伸びる廊下は陽の光も入らずジメジメしていて、それでいて薄暗く嫌な空間だった。ダイスケ一行はメルサとラモンを先頭にして、件の地下室へと向かっている最中だった。


「あとどれくらいだ?」


「もう少しよ。童○は我慢が出来ないの?」


 ダイスケの問いに飄々と軽口で返したラモンの首筋に、フィアナは剣の切っ先を突き付けた。


「次に妙な事を言ったら、後ろから斬り伏せるぞ」


「あらぁ、ごめんあそばせ。斬られないように気を付けえるわ……でも、あなた凄んでも内心怖がってるのが見え見えよ」


「なっ――」


「まぁ、赤くなって……可愛い。そう思わない、メルサちゃん」


「けっ、どうだっていい」


 もう嫌だ……すごくギスギスした空気の中、ジメジメした地下を歩くというシチュエーションに俺は嫌気がさしてきた。我ながらこいつらを利用しようとしたことを内心悔い始めた。


 眼前の嫌な空間から目を逸らし、ダイスケはリーアを見やる。地下に入ってからのリーアは一度も口を開かず、どこか強張った面持ちをしている。


「どうした、リーア?」


「……何でもない」


「何でも無いって訳無いだろ。ちょっと、念話させろ」


「え……どうして」


「良いから」


 ダイスケはおもむろにリーアの手を取った。


「ちょっ……やめてよ」


「話すまで離さないぞ」


「……もう」


『どういうつもりよ』


 俺の脳裏にリーアの声が響いた。どうやら回線を開いてくれたようだ。


『大丈夫か、お前?』


 ダイスケの念話を聞いて、彼女の顔は不安から呆れの表情へと変化した。


『――んな訳あるわけ無いじゃない』


『どうしたんだよ?』


 リーアは溜息を吐く。そして、ダイスケに言葉を返す。


『あんた、こいつらと一緒に行動してるって事がどういう事なのか解ってるの?』


『どういう事たって……』


「あぁ――もう!!アイツら二人は私達三人でようやく互角に戦える戦力を持つ敵なのよ!!そいつらが何の策も無く私達を親玉の所へ連れてく訳無いじゃない!!」


『仮にアイツらが連れて行ったとしても、敵の戦力には有力な魔術師が加わる事になるのよ――私達に勝ち目なんてある訳……』


『リーア……』


 そうか……俺は何も考えていなかった。連中は武器が無くても人間よりも圧倒的に強い存在だ。それが、もしも親玉と合流してこっちに牙を剥いたら――想像するだけでも怖気が走る。


 でも、あの時に『連中を利用する』以外の選択肢は浮かばなかった。あの場で協力を突っぱねて、独力でミレイを探す事も出来た。でもしなかった。


『今からでも遅くない。怖かったら逃げても良い――俺のミスでお前やフィアナを危険に曝す事はしたくない』


『ダイスケ――?』


『それでも……そんな危険を承知して、ついて来るなら俺はお前を最後まで護る。それが俺なりのケジメだ』


 馬鹿だ、この男は。


リーアはダイスケの行動と言動からそう結論を出した。


戦力もろくに計算せずに戦いを挑み、あからさまに怪しい敵の罠かもしれない誘いに乗ってしまうような男を馬鹿以外の何と呼べばいいのか……これまで千を超す書を読んできたリーアですら、彼を形容する言葉を『馬鹿』以外見つけられない。


 無鉄砲で貧血気味……こんな男と共に旅をしていたらこちらの身が持たない。いつ彼の無謀の巻き添えを食うか解った物じゃない。


 そうは思っていても……逃げたくないリーアがここにいる。ダイスケを放って、尻尾を巻いて逃げたくないリーアがここにいるのだ。


 馬鹿みたいに真っ直ぐで、誰かの痛みに人一倍敏感で、どこまでもお人好しなこの馬鹿を放っておけない。逃げ出したくなっていたリーアの足をそんな思いが引き留めているのだ。


「……ちゃんと護りなさいよ。バカ」


 リーアは手を離し、彼女の口でダイスケにそう伝えた。


「リーア……?」


「あんたに死なれちゃ、困るんだから」


 その声色はいつもの様な快活な様子も、様々な知識を語る博識さも無かった。あるのは年相応な少女の不安や恐れと、顔には微かな紅潮と憂い。リーアが何を考えているか俺には解らない――でも、解らなくても良い。俺はリーアとフィアナを命がけで護る。ただそれだけだ。



 地下を下る事30分――ダイスケは荘厳な彫刻の施された鉄の扉の前に到達した。その扉の様相を見て、ダイスケはここが敵陣の最奥部であることを肌で感じ取られる。ここに敵の大将がいる……そう思うと、妙な震えがダイスケの体を揺さぶった。


「ここが、あの小娘の居場所よ」


「……そうか。で、お前らはこの後どうするんだ?ここにおびき寄せて、御主人様と一緒に俺達を消すつもりなのか?」


 ダイスケはラモンに疑惑の目線を向ける。戦力的に、こちらは三人で向こうも三人……しかもここの戦力では向こうの方が圧倒的に勝っているであろう。どう考えても、こちらに有利な要素なんて考えられない。


「そんな事はしないわ」


「アタシはあんた達にアイツを倒してもらいたいのよ」


「どうしてだよ?」


「魔女様の軍勢ではねぇ、『下剋上』が許されているの。下が上に成り代わることが出来るの。ここで、あんた達に奴を潰させてアタシが成り代わるって算段なわけ」


「……ふん縛られてるくせによく言うよ」


「ふふふ。まぁ、とにかくアイツを消してくださいな、勇者様」


 そうラモンは不敵に笑ってみせた。


『漁夫の利』こそ最も効率よく目的を達成する方法と言えよう。消したい勢力に他の勢力をぶつけて、片方を損耗させ、願わくば共倒れをさせてから勝ちを取りに行く。ラモンはその方法で成り上がろうとしているのだ、故にこの決着が着くまではこちらを襲い掛かってはこないという確証に近い物をダイスケは感じた。


 だが、目的を果たした後――こいつらをどうしようか?


 拭いきれぬ不安がダイスケの胸の中で燻りだす。だが、今はそんな事をしている場合では無い。今は為す事を為す他ない。とにかく、敵の手から先代の遺言書を奪還しなければならない。この国の為にも、この世界の為にも……


 ダイスケは己の中の不安を使命感と虚勢で振り払って、鉄の扉に手を掛けた。


「行くぞ。リーア、フィアナ」


「私は準備出来ております。ダイスケ殿」


 腰に携えた騎兵刀を抜き、フィアナはダイスケに己の覚悟を見せる。そして、リーアはただ静かに頷く。頷いて、一言ダイスケに告げる。


「危険手当、ちゃんと払いなさいよ」


 リーアは笑っていた。その笑みはどこか力強く、覚悟を決めた者が浮かべる事が出来る様な笑み。己の魔術への自信と剣を持ち敵に肉薄してゆく仲間への信頼。微塵の恐怖も不安も何も感じさせないような佇まいにダイスケもまた、力強さと心強さを覚えた。


「あぁ。解ってるって」


 ギィイ……重々しい音と共に鉄の扉は開く。その音はさながら戦士を戦場に送る合戦前の角笛のように、地下に響いた。


 さぁ、戦いだ。


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