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使えない子ども

 小さな町の3軒しかない貸し宿の中で人気の無い夢幻亭という宿の主、ミレファン。53才でスキンヘッド、頬に大きな傷跡を残す元傭兵の男。しかし、この男はマメで仕事の出来る男だった。その見た目で客が引かなければ。

妻は人前には姿を現さない。いや、ミレファンが妻を心配すぎて出さなかったのだ。酒飲みで店を繁盛させるのはまだ早い。しかも、かつてを彷彿とさせるうら若き乙女に見える童顔で子ども的な体つきが、この小さな町で愛嬌により人気が付くにきまっている。かつて王都のある一画さかばで彼女を酔いつぶそうとした客は返り討ちに遭うという名の通った有名人である。



彼女からと宿の運営では生活空間の違いもあり、常に遠話魔法で耳元へと届けられる。彼女がそんな技術があったとは知らなかった。いや、酒場で注文を届ける為に鍛えたのか。その声は老若男女問わず魅了する。その声を独り占めしていることが唯一の楽しみであり唯一の自慢だった。


「ミレファン、やっぱり二人目の子どもが出来たみたい。あなたとしては残念よね。」


カウンターに立ち、耳元に届けられた嬉しそうな彼女の声は、しばらく自重しなければならない夜の営みを考えるとはぁ、とため息が出た。

彼女は特殊な生い立ちであることがわかっている。そして命も狙われている。祖先にドワーフの血と高位魔術師の血が混ざっており、どうやらその血が強く出たらしく魔力の多さとその力の使い方から、聖女と崇められた生活から逃げ出したっぽい話を一度だけ聞いたぐらいだ。


こんな寂れ宿を使う者の多くは、地下という分厚い壁で音漏れのない仕様で、秘密の出口すら2箇所ある。そう、ただただ男女が盛る為の隠れ宿でもあった。


そんな暗い噂のある宿を拠点と置く旅人はほとんどいない。つまり、そういう客で生活が成り立っていた。そして長女は2才。手伝いも何も無く妻一人が育児を行い、宿は私と孤児院の子どもによってベッドメイキングを行っていた。無茶に部屋を汚す者はいなかったからだな。


と、まぁ、ざっくりというと生活に困るほど貧してはいないが、余裕があるほども稼いでいないのだが。



子どもも大きくなった長女ルシエは8才。妻の教えにより文字の読み書き、簡単な計算は出来る優秀な子だ。カウンターに立ち、盛りに来た男女を注意深く見ながら部屋へ案内する仕事をしている。ん?こどもにそんなもの見せるなって?大丈夫だ。まだアレは孕まん。時々お小遣いを客からもらっているぐらいにしっかりしている。


その下になる長男のギャレットはどうもかみ合わない。いや、6才でルシエと同じくらい文字の読み書きもでき、難解な計算も楽々こなし、更に妻と同様に魔法も使える。優秀を通り越している。そして、妻にべっとりだ。

ギャレットに嫉妬しているだと?あぁ!その通りさ!


この頃になると、孤児院の子どもの手伝いはかなり減らしている。当然だ。娘も手伝ってくれるのだから。あの白い液体や甘く独特な臭いを放つシーツさえ嫌がらずに洗濯するくらいにな。もちろん賃金は払っているぞ?


だが、孤児院からも仕事をくれと言われるとなかなかに難しい。あいつらの仕事は集めるだけなのだ。その後の洗濯までする娘を見ると考えてしまう。

そうは言ってももめるまでの発展はしないので放置で良いだろう。


事件は起きた。孤児院の子どもとルシエが仕事で重なった。つまり、同じ部屋に入って喧嘩になったのだ。

どちらも成果報酬を与えているが、ルシエは賃金をばらした。おまえより多くもらっている者に仕事を渡せ。と。


発覚したのは雇う時間の門限となる日の落ちる前。孤児院の子どもが洩らした。いつもより多い目の報酬を与えて返した。


これがまずかった。


孤児院はごねれば加金が貰えると勘違いし初め、集める事、ベットメーキングすらずさんになってきた。



これはまずい。本当にまずい。宿として成り立たなくなる。しかたなく休業の札を立てて、孤児院の管理者と面談を行った。

孤児院からの子どもでのベッドメーキングは打ち切り。何故か宿は燃えていた。




「ははは。うそだろ、おい。」



木造部分は大きく焼け落ち、妻も子どももまだ確認出来ていない。しかし、何故だ?


「ミレファン、私たちもお金も全額大丈夫。ちょっと、借り主が問題を起こしたみたい。私たちはもうひとつの出口にいるわ。」


妻からの遠話魔法に安堵を覚え、燃え落ちる宿を後にする。

全く派手さも盛り上がりも無い作品になるかもしれませんが、お目汚しとなりますように。

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