第一話 夢はいつも遅すぎる
大雨だった。
空が裂けたみたいに、容赦なく降り続いている。
制服はびしょ濡れで、靴の中まで水が入り込んで気持ち悪い。
「……最悪」
小さく、呟く。
今日は、おばあちゃんの四十九日だった。
納骨を終えた、帰り道。
家族を失ったあと、私を育ててくれた人。
「ごめんね、彩花のこと……一人にしちゃうわね」
「ごめんね……」
病院のベッドで、何度も、何度もそう繰り返していた声が蘇る。
「……」
おじいちゃんも、三年前に亡くなった。
そして——
「……本当に、一人か」
誰にともなく、そう呟いた。
雨音だけが、やけに大きく聞こえる。
赤信号の横断歩道で、足を止めた。
その時。
——ぞくり、とした。
胸の奥が、嫌なふうにざわつく。
(……これ)
知ってる。
この感覚。
三日前に見た夢が、ゆっくりとよみがえる。
雨の中。
倒れている自分。
真っ暗な世界。
音も、何もない。
そして——
(……また、これ)
小さい頃から、私は時々“夢”を見る。
外れたことは、一度もなかった。
家族が死んだ、あの日も。
私は、知っていた。
それでも——
止められなかった。
「——危ない!!」
叫び声で、意識が引き戻される。
顔を上げる。
子供が、車道に飛び出していた。
その先。
迫るトラック。
(……あ)
時間が、ゆっくりになる。
クラクションの音も、雨音も、遠い。
(このままじゃ、あの子——)
そして同時に、もう一つの光景が見えた。
自分が、そこに立っている未来。
「……っ」
息を呑む。
怖い。
当たり前だ。
でも——
(また、何もできないのは——)
嫌だった。
気づいた時には、走っていた。
水を蹴る。
「——危ない!!」
子供の手を掴む。
強く、引き寄せる。
次の瞬間——
光が、
視界を埋めた。
鈍い衝撃。
(ああ)
ぼんやりと、思う。
(これで、終わりか)
不思議と、怖くはなかった。
(……せめて)
ほんの少しだけ、願う。
(今度こそ——)
(誰かは、助けられたかな)
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
そして——
「——見つけた」
知らない声が、すぐ近くで響いた。




