夢の中だけで行ける場所
2026/4/10以前に本作品を読んでいただいていた方へ。
事情により名前を変更しました。今後は、
褥崎蛇苺→緑青蛇苺
皇神桜子→褥崎結合
春乃→茨城姫子
となります。混乱させてしまい申し訳ありません。
窓の外、真っ暗な空間に青い惑星が大きく鎮座している。地球?…だと思う。
部屋の中にはしっかりと重力があり空気もある。歩くこともできるし息詰まる事もない。
広い空っぽの部屋の片隅に5~6枚の畳が敷かれていて、畳の上には炬燵が置いてある。白衣を着た小さな部屋の主はその炬燵の中で小説だか詩集だかの文庫本を読んでいた。
「面白いですか?」
私が訪ねると、部屋の主は微動だにせず本に目を落としたままその一説を読み上げた。
「やがて地獄へ下るとき、そこに待つ父母や友人に私は何を持っていこう。
たぶん私は懐から蒼白め破れた蝶の死骸を取り出すだろう。
そうして渡しながら言うだろう。
一生を子供のようにさみしくこれを追っていました、と」
反応に困っていると、主は「西條八十」と続けた。
私は靴を脱いで畳に上がると主に倣って炬燵へと足を入れた。炬燵の上には個別包装の煎餅が置いてある。私は一つ手に取ると無遠慮に開封し一口齧った。
「素敵な詩じゃない?」
「はあ」
現国の授業でも怒られている私だ。詩とか俳句とかいまいちピンとこない。何が言いたいんだ。
主は栞を挟んで本を閉じると両手も炬燵の中に突っ込んだ。
「最近はどう?」
「どうもこうもないですよ。こうやって毎晩変な夢を見させられるからよく眠れないわ授業中怒られるわ」
「そりゃあ申し訳ない」
シンとした広い部屋にばりばりと煎餅を齧る音だけが部屋に響く。醤油味だ。主も億劫そうに炬燵から手を出すと煎餅を手に取った。
「ゆりっぺさあ、」
「ゆりっぺ。」
「いいじゃないの。ゆりっぺさあ、あんま時間無いわけよ」
「そんな事言われても」
何が何やら。何の時間だ。
「せめて自衛の手段くらいは身に着けておいて欲しいなあ。いや、いざとなったらどうにかなるよう手配はするけどさ」
「はあ」
最後の一かけらを口に放り込む。なんもわからん。
「覚えておいて、最後の鍵は『愛』だよ。愛」
「愛かあ。私には縁遠いかも。モテたこともないし」
「おいおいゆりっぺ、無自覚は罪だぜ?…まあいい。愛って言っても色々あるわけ。家族愛、友愛、自己愛、それから───」
それから?
眼前の風景にブロックノイズが走り、砂嵐が舞う。
今日はここまで。
夢の中だけで来れる場所。
夢の中だけで会える人。
本当にただの夢?
それとも。
引用がマズい場合は改稿します。




