インターミッション 2
三人称視点です
白い部屋。
大きな水晶の周りに数多の神が集う。
水晶のすぐ側に四柱…その周り十二柱。
その中の一柱である、三面の顔を持つ神が集う神々をひと睨みする。
「…これだけの神が集うのも久方ぶりか。」
「貴様の感想を聞くために集うたのではないぞ…要件を言え。」
苛立つ仕草を見せるのは長い髪を蒼黒く輝かせた神。三面の神を睨み返し毒づいていた。三面の神は気にした様子を見せず、黄色い外套に身を包んだ神に話しかけた。
「外套で体を隠さねばならぬほど、力は衰えているのですか?」
外套の神は額に青筋をたて睨み返した。
「貴様が憐れむ必要などない。それよりも儂と共に悪しき神々立ち向かった精霊王はどうした?」
「マイカーンは応答しませんでした。…恐らくまだ傷が癒えておらぬかと…。」
外套の神は眉をピクリと動かした後舌打ちしてフードを被り腕を組んで黙り込んだ。三面の神は外套の神の隣で青白くゆらゆらと揺らめいている神に声を掛けた。
「ヘゼラサートよ。封印はまだ解けぬのか?」
ヘゼラサートと呼ばれた青白い神はひび割れたような声を発した。
「意外に強力な封印ではあった…。じゃが、それももうすぐ解ける。それよりも…。」
青白い神は自分の隣にある空白の席を見た。髪を蒼黒く輝かせた神が舌打ちする。
「創造神様が闇を封印されて1000年…。闇夜を闊歩する魔物は一掃されたが、真実の夜が訪れなくなった。余の星月光の力で暗く照らしておるが、いい加減に余も疲れた。」
髪を蒼黒く輝かせた神は三面の神を睨み付けた。三面の神は平然と受け止め、言葉を返す。
「バルドスよ。ホルポートは今どうしておる?」
“バルドス”と呼ばれた神は恭しく頭を下げた。黒い外套の隙間から赤い目が爛々と光る異形の神は、状況を簡潔に報告した。
「邪神の呪いを受けて1000年。未だにその呪いに苦しんでおります。…私にはその御命も危ういと見ております。」
「なんと!神を呪い殺すチカラか!」
黄色い外套の神が唸った。バルドスは一瞥し話を続ける。
「創造神様は既に新しき神を創造することを決意されております。私の“過去を見る力”でこれまでの闇の神の行いを振り返っておられます。」
一同が黙り込んだ。
水晶が淡く輝き、中に一人の男を映し出す。
「…望みは……。」
バルドスが呟いた言葉に三面の神が続いた。
「…あの“この世ならざる者”か。」
一同は、水晶に映る男とのやり取りを思い起こし、大きく項垂れていた。
「あ奴は本当にこの世界に“安定”をもたらすのか…?」
水晶に映る男は6人の奴隷少女を従え、神々の与えたもう力に精神を崩壊されることなく生きている珍しい男。
だが、ここに集う神は誰一人として彼を評価できるものがいなかった。
面白い男ではあるが、創造神様が期待されるほどには感じられない…と言うのが本音である。
結論は、いましばらく様子を見てからとなった。
1000年前に神と邪神との世界の所有権を掛けた争いが勃発した。
事の発端は魔族を羨むヒト族が天上の悪しき神々の力を求めたことから始まり…ヒト族と魔族との戦争が、次第に拡大して全ての種族を巻き込んだ大戦争となり、それぞれが崇める神同士の争いと発展した。
最終的には六柱神を筆頭に76もの護軍を率いた神々が勝利し、世界は六柱神が司ることこととなった。
しかし、その戦いで、六柱神の一柱である“命を司る神ヘゼサラート”は精神体を奪われ、“力を司る神ドヴァン”は信仰を奪われ、“精霊を司る神マイカーン”は精霊体を奪われた。
そして、“闇を司る神ホルポート”は邪神の呪いにより悪しき心に蝕まれたため、“創造神アマトナス”によって封印された。
人々は傷つき、恐怖に打ちひしがれ、悲観が蔓延し、活力が奪われていたため、世界は徐々に滅亡へと向かい始めた。
創造神アマトナスは傷ついた世界を復元するために、邪神との戦争以前の記憶を全て奪い去り、戦争の引き金となったヒト族と魔族は、生息地域を分けて住まわせ互いに接触しないようにした。
だが種族間の全ての繋がりを断ち切ることはできず各種族が“ヒト族派”と“魔族派”に分かれていく。
精霊族はヒト族派の妖精族と魔族派の妖魔族に分かれ、獣族は獣人族と獣魔族に分かれ、近神族は半神族と魔神族に分かれた。そしてヒト族派の魔族が大陸を追われ魔人族として枝分かれし、元々先住していた竜人族と合わせ、六大群島には6つの種族が共存する特殊な地域となった。
世界は太陽神と星神の二柱によって制御され、“闇”の代りに“星月光”で夜が作り出され、闇を闊歩する魔物は姿を消した。
万物四象を司る“精霊”の代りに“魂の循環”を行うことで御霊のチカラを集めて“自然”を作り出した。
だが、本来の姿とは程遠く、夜は世界が暗く照らし出されているだけであり、全ての自然現象は固定化される世界となった。
1000年という月日と創造神の干渉により、この不均衡な世界に対する違和感は薄れていき、今は誰もそのことに気づいていない。誰もが「自分たちの歴史の始まりは1000年前に遡る」と認識していた。
この真実を知るものは天上の神々と神獣、一部の魔獣…そして1000年以上の寿命を持つ古き魔族のみであった。
しかし、この偽られた真実に辿り着こうとしている人物がいた。…と言っても彼はまだ謎の入り口に立ち、入り口の違和感を感じているにすぎないが、そのうち一歩ずつ足を踏み入れるだろう。そして真実に辿り着き、彼はどう行動を起すのか。
白い部屋に集う神々はそれが見えない故に彼を…エルバードをどう評価していいかわからなかったのだ。
超上界。
天上界の上位に存在し、創造神アマトナスが住む世界。
普段は一人で過ごしているが、暇なときは六柱神以外の神を呼び出して遊び相手をさせていた。
その世界に一柱の女神が訪れていた。
「“宇宙の創造神”様…今日はどのようなご用でしょうか。」
アマトナスが女神に向かい、恭しく一礼する。
「私があなたに渡した魂の状況を見に来ました。返還可能な魂はありますか?」
女神はゆっくりとした口調でアマトナスに問いかけた。アマトナスは懐から黒い塊を取り出し、女神に差し出した。
「今はこの魂だけです。なかなか優秀でしたがね。同じ日本人の恋人も見つけて、精神も安定しかけたのですが…自分の限界に挑戦したくなったようで…そこからはあっという間に堕ちていきました。」
女神は黒い塊を受け取り、表情を変えずにその塊を飲み込んだ。
「…最後は【処女獣】に食われたのですね。彼女が始末するとは珍しい。…で恋人はどうなったのです?」
再びの問いかけにアマトナスはもう一度一礼してから回答した。
「女神様が≪全知全能≫を与えられた男の側におりますよ。…もちろん、前の恋人の事は全く覚えておりませんが。」
美しい女神の表情が変わり、目を輝かせた。どうやら、その男に興味を持ったようだった。
「あの男はどうです?ちゃんと活躍していますか?」
アマトナスは苦い表情を見せて首を振った。
「実は≪全知全能≫のチカラを覚醒すらできておりません。」
アマトナスの言葉に女神の表情が曇った。期待していた答えではないようでつまらなさそうな表情に変わる。
「あの男…使えるスキルのみを使っているだけなので…覚醒のしようがないもので。」
今度は顎に手を当て女神は考え込んだ。
「ふむ。覚醒について教えてやりたいものですが…それは“干渉”に当たるのですね。」
「実は、この間彼に試練を与えるついでに不用意にも“干渉”してしまいまして。…お蔭で太陽神からこの先100年間地上に降りることを禁止させられてしまいました。」
女神は口元に手を当てクスクスと笑った。
「アマトナス…いえ“良聖”よ。お主はあの前世での兄に恩返しをしたくてたまらないのですね。」
アマトナスは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「…おっしゃる通りです。」
「私もあの男に期待をして≪全知全能≫を付与したのですがねぇ。私もこれ以上の干渉はできないですし……。私の力がこの世界にどれほど通用するのか楽しみにしていたのですが…。」
やや悲しげな表情を見せ、残念がる女神にアマトナスは何とかできないものかと考えあることを思いついた。
「女神様。実はあの男の側に…。」
アマトナスが小声で女神に耳打ちすると女神の表情が明るくなった。
「それは珍しい!なればあ奴から“覚醒”について学ばせるよう促すことはできると。」
「では早速。」
アマトナスは目を閉じ何やらつぶやいた。表情を見ると、何やら交信をしているようだった。しばらくして目を開き、泣きそうな声で、
「そんな危険なことなどできぬ!と断られてしまいました!」
女神は今度は腹を抱えて笑った。
「ハハハハッ!彼女の見立てではまだ不安定な所があると言うことですか。良いでしょう、私もあなたも気は長い方です。あの男の精神が安定するまで待ちましょう。」
そう言うと、女神はアマトナスの勧める椅子に腰かけ、テーブルに置かれたカップに手を伸ばし、上品な仕草でくつろぎ始めた。
アマトナスはその様子をしばし眺めてため息をついた。
「ここで待たなくてもいいのに…。」
ここでは、どんなに小さな声であっても神の前では必ず聞こえてしまう。創造神アマトナスは女神様に呼ばれてお小言を貰ってしまった。
神々を巻き込んだ大戦争から千年。
地上界の人々が、天上界の神々が、そして超上界の創造神が、それぞれの思惑で再び動き始めていた。
主人公を取り巻く世界の変化は、実は壮大に広がりつつあります。
創造神アマトナス。六柱神。ハウグスポーリ。各種族の王たちに神獣や魔獣、そして魔族も絡んで物語は進んでいくでしょう。
ですが、この物語は主人公視点で進み、主人公の目の前に起こる出来事のみに視点を絞り込んで書いていく所存です。
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