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催眠術師の端っこ教室  作者: ぴあす


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第六話

黒炎のワープホールを閉じ、教室に戻った。

フレアはふらふらとよろめきながら椅子に崩れた。


師匠も召使、改めクレシェコに治療を施され、少しは回復したようだが心労の方はしっかり溜まっているようだった。

なんせ、破られたことがなかった自慢の防御をいとも簡単に破られたのだ。ショックに違いない。


「流石に疲れましたあ。師匠もお疲れ様です」


フレアの問いに、師匠の返事は少し上の空だった。


「ん? ああ、そうだな」


師匠は手のひらに防御魔法を小さく展開し、じっと観察している。


「何してるんですか? 師匠?」


返事が返ってこなくなった。

フレアは軽くため息をつき、懐中時計を確認する。


時刻は午前四時。

時計の針が、少しゆっくりに思えた。


「できた!」


師匠の声が響く。


「おいフレア! こっちに来い!」


嬉しそうな声でフレアを呼んだ。


「新しい防御魔法が完成したぞ。試したい。チェス盤使うぞ」


引き出しからチェス盤を取り出し、慣れた手つきでセットし始める。


「すいません師匠。今日はちょっと疲れが限界なので、そろそろ帰ります」


目をこすりながら言うフレアに、師匠はほんの少しだけ残念そうな顔を見せた。


「そうか、残念だ。……あ、そうだこれを使え。どうしても疲れが取れない時は飲むといい」


ポケットの中から液体の入った小瓶を投げ渡される。

栄養剤か何かだろう。


「ありがとうございます」


軽く礼を言い、フレアは教室を出た。



午後の授業を、ほぼ寝たまま過ごし、昼休みの時間になった。

今日は師匠がいない。


昨日のフリントとの戦いをもとに、新しい魔術を構築するらしい。

師匠がいないせいか、いつにも増して暇だった。


突っ伏していた机から顔をあげ、大きなあくびと伸びをして食堂に向かう。


「あの、そこにいるのは誰? その杖が壊れちゃって、私の部屋までの道がわからなくなっちゃったの……もしよかったら案内してほしいな」


壁に向かって話す、華奢な女性。

マグノス先生だ。


彼女は盲目で、さらに病弱。全校生徒から常に心配されている。

美しい容姿、わかりやすく寄り添った授業、誰にでも優しい。

三拍子揃ったことで男女両方から人気がある。


「フレアです。はい、もちろん。喜んで案内いたします」


フレアの声を聞き、マグノスは嬉しそうに言った。


「フレアちゃんだったの! ちょうどよかった。聞きたいことが少しあったから、私の部屋についたら少しだけ付き合ってほしいです」


何の話だかよくわからなかったが、フレアは何となく「はい」と答えた。


学園の廊下は静まり返っている。

二人の足音だけが響く。


フレアはマグノス先生の手を引き、先生の部屋へ向かう。

その手は、強く握れば折れてしまいそうなほどに細い。


「ここです。着きました」


「ありがとうございました」


一礼をして、フレアを部屋に招き入れた。


先生は体格に合っていない大きな椅子に座り、フレアも机の前の椅子に腰掛ける。


「その聞きたいことっていうのはね……結構前の話なんですけど、うちの学校の警備用魔物の動く鎧が一体いなくなった事件、覚えてる?」


心臓の鼓動が加速する。


「私は常に感覚強化魔法を使っている都合で、痕跡とか見つけやすいの。だから、たまたま鎧の破片を見つけちゃったんですよ」


ドッドっと拍動の強さも増した。


目隠しをしたマグノスの口元が、ふんわりと笑う。


「フレアちゃん? 別にあなたがやったでしょ?って言ってるわけじゃないよ。ただ、ちょっとだけ気になったから聞いたんだ」


「私は、君がやってないっていうならそれを信じるよ。でも、もしやっちゃったなら正直に教えてね」


目隠しで隠れているはずの目に、睨まれたような気がした。


フレアは言葉に詰まる。


――私がやった。


この数文字が、フレアの運命を左右する。


やっていないというなら信じる。

その言葉を信じるべきなのか。


もしカマをかけられているのなら、ここで白状するのが最善だ。

だが本当に事実なら、否定すれば罪は無に帰す。


難解な二択。

フレアの答えは決まった。


「少し前にあった事件の話ですか。記憶にはある程度ありますが、私とは関係がないものです」


しらを切る。

それがフレアの選択だった。


「……フレアちゃんを信じるよ? 関係ないなら、もう聞くことはないかな!」


マグノス先生は明るく言った。


「ごめんね〜、お昼の時間もらっちゃって。お詫びと言っては何だけど、林檎食べる?」


「いえ」


フレアは一言だけ答え、ドアノブに手をかける。


「待って」


咳き込みながら、先生は言った。


「鎧の痕跡は、私が全部片づけておいた。それと……私は君の味方だよ。今回はね」



午後の授業を終え、寮で歯を磨きながらフレアは考える。


「今回は」


その言葉が、どうにも引っかかった。

次はない。そう静かに示唆された気がして、悪寒が走る。


マグノス先生は戦闘力こそ低いが、感覚強化魔法や防御魔法は師匠に劣らない精度だ。

厄介と言えば、厄介な存在だった。


自室に戻っても不安は消えない。


今日は師匠に会えない。

魔術の研究に納得がいかず、完成まで相手をできないという。

なんとも自分勝手な理由だ。


ここしばらく夜は一人が多い。

何かの計画の準備で、師匠と一緒にいる時間が減っていた。


昨日会えたのも久しぶりで、とても嬉しく、とても楽しかった。


今日も師匠と遊びたい。


気づけばフレアは寮を飛び出していた。


あの時のような慎重さはない。

ただ、師匠に会いに行く。


鎧を魔剣で両断し、全力で走った。

足がもつれ、何もない場所で転倒するが、すぐに立ち上がる。


師匠の教室の前で、フレアはへたり込んだ。


フレアの喘鳴が、無音の廊下に響く。


大きく深呼吸をし、息を整え、ドアをノックした。


なかなかドアが開かず、フレアが不安になり始めたその時。


中から、廊下にまで響くような爆音がした。

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