表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
催眠術師の端っこ教室  作者: ぴあす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第五話

どれくらい眠っていたのだろうか。

窓の外は少し暗くなっていた。


部屋の外が騒がしい。師匠がいない。その事実がフレアの不安を駆り立てた。


外に出ると、廊下には魔術の痕跡が飛散していた。師匠のものと、誰かのもの。痕跡は廊下の先へと続いている。


「久しいですねえ、この感覚。三十年ぶりだ」


壁に寄りかかった召使いが、掠れた声で言った。重症だ。


「ああ、あなたはたしかフレアちゃんですね? 師匠は廊下の先の客間です。敵は強いですよ。どうかお気をつけて」


「あなたはどうするんですか?」


フレアの問いに、召使いは「少し眠っていきます」と一言だけ言い、そのまま事切れた。


召使いの最後を見届け、フレアは客間へ急いだ。長い廊下が、途方もなく続いているように感じる。息を切らしながら、客間のドアを体当たりで開いた。


「なぜここがわかった? 今まで一度も、人間ごときにバレたことなどなかった」


師匠は、まだフレアの存在に気づいていなかった。


師匠の鋭い視線の先には、どこか見覚えのある服装の男性が立っている。


「偶然だ。別件の調査中、禁止魔法の使用を検知した。確認しに来てみればこれだ。お前には、できれば会いたくなかったよ。穢らわしい魔女め」


魔法省の人間だ。この世界の警察のような存在。しかし、重要な事件にしか出向かないため、そう多く目にするものでもない。


別件とは何なのか。

そんなことを考えている場合じゃない。


この男は、間違いなく師匠の敵だ。フレアは杖を構えた。


「ん? 君は学園首席のフレアさんじゃないか。僕はフリント、魔法省の者だ。こんなところで何を……まさか、この魔女に攫われたのか!? なんと非道な!」


フリントは師匠に向き直り、片刃のサーベルを向けた。


「魔法省フリントの名において、お前を禁止魔法使用の罪で逮捕する! 大人しく投降しろ!」


「嫌だね」


師匠はそれだけ返し、魔剣の円陣を展開する。


「やむを得ない!」


フリントもサーベルに魔力をまとわせた。二人の気迫に圧倒されながらも、フレアも臨戦態勢を取る。


先手を取ったのはフリントだった。床を蹴り、一気に距離を詰める。魔力をまとったサーベルが、師匠の頬をかすめた。血が流れる。


師匠は数歩後ずさった。


「妙な術式だな。気色の悪い、弱者の使うものだ」


「お前は、その弱者に殺されるんだよ!」


フリントは二度、三度と連撃を繰り返す。


「退避<レセラ>」


フレアのそばに師匠を移動させた。


「フリーズ! 師匠! 一旦態勢を立て直しましょう! やつの魔術、防御魔法を削る効果があるようです! ここからは回避を!」


数ヶ月の間に、フレアは何度も師匠と手合わせをしてきた。師匠には悪癖がある。自身の編み出した防御魔法が優秀すぎて、攻撃を一切避けようとしないことだ。


「わかってるさ。お前は前に出すぎるな。私が仕留める」


師匠はフレアの前に立った。


フリントのフリーズが解けると同時に、剣の円陣を再展開。瞬間移動で詰め寄り、首を爪で掴む。


キン、と金属音が響いた。フリントの手からサーベルが落ちる。


「呆気ないな。弱者には弱者なりの生き方がある。お前はそれを見誤った。惨めに死ぬんだな」


手に魔力を充填する。魔力の爆裂を起こすつもりだ。


「弱者なら、弱者なりに足掻くさ!」


師匠より、コンマ数秒早くフリントが魔力の小爆発を起こした。

膝をつき、倒れたのは師匠だった。


「射抜く魔力<ア・ロータス>!」


フレアは三本の魔力の矢を放つ。


「どうしたんだ! 僕は君の味方だ! まさか魔女に洗脳されて!?」


「いい加減、気づいてください! 私はあなたの敵! 師匠の味方です!」


一瞬の隙を逃さず、フレアは魔術を繰り出す。


「背後の一撃<スタブ>」


魔力の槍がフリントの背を貫いた。呻き声を上げ、フリントは倒れ伏す。


終わった?

あまりにも唐突な結末に、困惑と安堵が入り混じる。


「師匠!」


腹部に血が滲んでいた。


「だから回避に専念してって言ったのに……」


「舐めてたよ……まだ、終わってないぞ」


背後で物音がした。フリントが起き上がっている。


アンデットだった。


「信じた僕が馬鹿だったのか……もう容赦はできない」


その顔は、どこか悲しそうだった。

フレアは悟る。さっきのようには、いかない。


「待っててください。すぐに終わらせます」


師匠を壁に寄りかからせ、杖を構え直す。


「師匠に手を出すやつは、私の敵です。まだ、師匠とやりたいことがあるので」


「……五月蝿い。正義の押し付け、いい加減鬱陶しいです」


フレアは魔術を連発した。


「穢れの流星<カース・ラース>

 聖冠光<ソルガデ>」


相反する魔術がフリントを追い詰める。

跳躍の着地地点を読んだ光輪が、左腕を奪った。


「なにか、言い残すことはありますか?」


「勉強熱心だね……」


「たまたまです」


「力技だな……」


フリントは消えた。


――否。


「フレアちゃんなら、そうすると思ったよ」


天井からの奇襲。だが、銃声が響いた。


蒼く燃える右目。

銀色の筒を構えた召使い。


異端歴史で習った武器。「銃」。


「詰めが甘かった……負けを認める」


「さようなら。ちゃん付け、気持ち悪いのでやめてください」


聖属性魔術

「聖なる爆裂<ホリエルコーズ>」


フリントは塵となって消えた。


「終わりましたね。お怪我は――あ、御主人様!」


「なんだあ!」


血を吐きながら、師匠が返事をした。


「なぜ回復魔法を使わなかったんですか!?」


「大きい声で言うな! 弟子の前だろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ