第四話
「今日は何が知りたい?一通り教えられるものは教えたような気もするが....知りたいことがあれば何でも教えるぞ」師匠と初めてあってから何ヶ月か経った。この関係は以前問題なく続けられている。今日も師匠は楽しそうに魔導書のページをめくった。深夜の学園はフレアの知るどこよりも静かな安寧の場所になっていた。季節が変わりこの時間になると少し肌寒い。以前は胸当たりの長さだった師匠の髪が腰ほどまでに伸びていた。この数ヶ月、2人はいくつかの事件を起こした。教師の思考を書き換え休日と勘違いさせ全校の教師全員を休ませる、フレアをバカにした生徒が学園内に大量のスライムを発生させるように仕向けるなどどれもしょうもないものばかりだった。フレアの思い通りの生活ができた。退屈だった学園生活は今や見る影もない。いつもフレアは師匠に会うことを心待ちにしている。そんな生活をいつまでも続けたい、そんなふうに思っていた。しかし師匠との師弟関係を続けるうちにいくつか疑問が生まれた。私は師匠の名前を知らない。初めてあった時から師匠と呼び続けていたからだ。これだけの期間をともにし名を知らないのはどうにもおかしく思える。そして噂を流した人間が誰なのか。なぜ師匠の存在を知っていたのか。噂の条件を運よく見つけられるとは思えない。師匠と関係がある人間が私以外にもいる。フレアはそう考えた。今日、フレアは師匠に2つを聞く。師匠を名前で呼んでみたいし、私以外の弟子がいることを隠しているなら知っておきたかった。「さっきからなんで全然反応しないんだ?眠いのか?」若干不服そうに頬を膨らませた。「眠いなら無理はするな。私の部屋で寝てもいいぞ?」師匠と話しているとたまに話しに追いつけなくなる。師匠の部屋とはどんな場所だろうか。質問よりいまはそっちのほうがフレアの好奇心をくすぐった。「師匠の部屋ってどこですか?別にそんなに眠くないですけど見てみたいです!」気になるか、と師匠はニヤリと笑った。指を鳴らし手に黒炎をまとわせる。見たことのない魔法だ。指の黒炎に息を吹きかけると黒炎が輪のように広がりワープホールを作り出した。師匠は顎でワープホールの方を指した。黒炎のワープホールをくぐり師匠の部屋についた。部屋は教室よりも広くどこか古めかしい内装をしている。ホコリ1つ無く実に清潔感にあふれる空間だ。ただここはどうやら客間のようだった。眠れそうな場所は見当たらない。フレアの思考を読むかのようにこっちだ、と師匠は手を引いた。客間を出ると召使か何かだろうスケルトンが掃除をしながらか小さく会釈で出迎えてくれた。「お久しぶりです。前回お会いしたのは30年前でしたか?」低く上品な声で言った。スケルトンは師匠の背に隠れているフレアに目をやると、何かに気付いたように言った。「ああ、これは失礼。どうやら私の記憶違いのようですね」一礼だけして廊下を歩いて行った。「スケルトンが怖いのか?」不思議そうに師匠が聞く「ちょっとしたトラウマがあって、怖いです」雑談しながら少し歩き寝室についた。部屋は客間の半分くらいの大きさだった。ドアから入った正面の壁の上半分が窓で開放感がある。窓のすぐ前に天蓋付きの大きなベッドが置かれている。暖炉に指を鳴らし火を付け温かな光りに包まれた。暖炉の上には大型で使い古された杖が飾られている。「好きに使っていい。いい部屋だろ?昔親とここで寝ていたんだ。尤も私を置いて先にいなくなってしまったが」師匠は一瞬だけ悲しそうな顔をした気がするが、深堀りすることもないと思い深く追求はしない。フレアはベッドに顔からダイブした。雲のような寝心地だ。身体が沈み込むほどにふんわりとしたマットレスに羽のように軽い羽毛布団、なんだかいい匂いもする。大して眠くもなかったがベッドのちからにより強大な眠気に襲われ、気づけば眠っていた。フレアが眠ったことを確認し、師匠は寝室を後にした。スケルトンがドアの直ぐ側で待っている。「何だクレシェコ。さっきは随分とやらかしてくれたじゃないか」その節は申し訳ありません、クレシェコは笑いながら言った。「そんなことより、あの子はだれですか?とっても可愛らしい子を弟子に取ったようですねえ。なんだかちょっとだけ意外です」外向きの顔とは裏腹に饒舌に話すクレシェコに呆れ半分で師匠は言った。「そんなことを聞くために掃除サボって出待ちしてたのかお前。呆れたやつだ。そういうとこが好きなんだがな。あいつは新しい弟子、フレアさ。荒削りだがあの頃の私より十二分に強いだろうな」ほほほと嬉しそうにクレシェコが笑った。「ああ、あとどなたかがお見えになったようですよ。ご主人様のお知り合いですか?」誰だ?と首をかしげたその瞬間。クレシェコの腹部を紫色の魔剣が貫いた。




