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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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旅路の章 ― 砂と風の短編集 ― その1 石畳に灯を戻す日(復興ボランティア)

【前書き】


ゴブリンの大群との激戦。

謎の車椅子の少女が現れた、あの夜。


――明けて翌日。

街は「勝利のあと始末」に追われていました。


今回は、

・ジージーたち&ギルド仲間

・昨夜の酒場で知り合った町の人々

みんなで汗だくになりながら笑って働く、

“戦いのあとの、ささやかな一日”です。


――――――――――――――――――――

朝の光が、容赦なくまぶしかった。


 ジージーは布団から半分だけ身を起こし、

 ずきずきと痛む頭を押さえた。


(……飲みすぎた……)


 昨夜の酒場の光景が、断片的に浮かぶ。


 冒険者たちの笑い声。

 ギルドマスター・ダイアーが樽を抱えて歌っていた姿。

 鍛冶屋のゴルトおじさんが「誰が一番早く杯を空にするか」競争を始めたこと。

 セルグレンが途中から水に切り替えていたこと。


 そして、

 あのゴブリンキングとの死闘のあとに現れた

 “車椅子の少女”のこと。


(……本当に夢じゃないよな)


 目を閉じると、

 あの時空魔法の光と、

 耳鳴りのような時のうねりが、まだどこかに残っている気がした。


 けれど――


「ジージー、起きろ。

 日がとうに昇ってるぞ」


 部屋の扉がノックもなく開き、

 セルグレンの声が飛び込んできた。


 振り向くと、彼はもう動く準備を整えている。

 髭は軽く整えられ、鎧は最低限だけ身に着け、

 代わりに腰に工具袋のようなものをぶら下げていた。


「おはようございます……頭痛い……」


「昨夜、あれだけ飲めばな」


 セルグレンは肩をすくめる。


「だが今日は“仕事”だ。

 街の復興の手伝いに入る約束だったろう?」


 ジージーは布団の上で固まった。


「……あ」


(昨日の酒場で――)


 思い出す。

 酒場の隅で、

 大工衆の親方が、壊れた屋根のことを嘆いていた。


『あーあ、これじゃあ明日から工事だ工事だ。

 人手は足りねぇし、冒険者の兄ちゃんらも忙しいだろうしなぁ……』


 そこへ、ほろ酔いのジージーが口を挟んだ。


『じゃあ、あたしたちも手伝います!』


 勢いで言った、あのひと言。


(……言った。完全に)


 ジージーは枕に顔をうずめた。


「……あたしの口、昨日で縫っとけばよかった……」


「遅い」


 セルグレンは苦笑しながら、彼女の肩をぽんと叩いた。


「約束は約束だ。

 それに、こういう“手伝い”も冒険者の仕事の一つだぞ」


「……はい」


 渋々起き上がると、

 部屋の隅でミナが胡坐をかいて浮かんでいた。


 幽霊の少女は、相変わらず半透明のまま、

 なぜかタオルを首に巻いている。


「ふあぁ……。

 おはよ、みんな。

 あーあ、幽霊でも二日酔いになるのかなぁ……」


「それは気のせいです」


 ジージーは即答した。


「ミナ、飲んでたのは“雰囲気”だけでしょ?」


「そうとも言う」


 ミナはケラケラ笑いながら、宙でぐるりと一回転した。


「でも復興手伝い、楽しそうじゃない?

 壊れた屋根とか、壁とか、見て回れるんでしょ。

 わくわくする」


「……幽霊のわくわくポイント、よくわかんないです」


 そこへ、もう一人。


「おーい、そろそろ行くぞー!」


 廊下の向こうから、

 リゲロの陽気な声が聞こえた。


 扉が少しだけ開き、

 ボサボサ頭の青年が顔を覗かせる。


「おー、起きてる起きてる。

 ジージー、顔洗ってこい。

 今日は“街のヒーロー”の見せ場なんだからよ」


「ヒーローはリゲロさんたちですよね……?」


「いやいや、あのゴブリンの大群ん中で

 最後まで立ってたお前もヒーローだっての」


 リゲロはニッと笑い、

 親指を立てた。


 ジージーは、少しだけ頬が熱くなるのを感じながら、

 ようやく布団から飛び降りた。



 ギルド前の広場は、すでに賑やかだった。


 半分ほど崩れた石壁の前には大工たちが並び、

 壊れた屋台の残骸を運ぶ酒場の兄ちゃんたち、

 散らばった木箱を片付ける子どもたちの姿。


 昨日の宴で見かけた顔が、

 そこかしこにある。


「おう、来たな!」


 がらがら声が響いた。


 振り向くと、

 太い腕を組んだ大工親方――バルドが、

 こちらに向かって手を振っている。


 白髪まじりの髭、丸太のような腕。

 顔は怖いが、目は笑っていた。


「昨日は世話になったなぁ、勇者サマがたち」


「勇者ではないです」


 ジージーは反射的に否定した。


「ただの……えっと……まだFランク冒険者で……」


「Fランクがゴブリンキング倒すかよ」


 バルドはゲラゲラ笑った。


「細けぇことはどうでもいい。

 “街を守った連中”には、

 うちの足場に乗ってもらう資格があるってこった」


 そう言って彼は、

 崩れかけた二階の木造バルコニーを指さした。


「セルグレンの旦那は、あっちの梁だ。

 リゲロの兄ちゃんは荷揚げ。

 ジージーは……そうだな、こっちの子どもらと瓦運びだ」


 そう言うと、

 彼は近くで木枠を抱えている少年少女に声をかけた。


「おい、ラニ、トム!

 昨日の宴で仲良くなったお姉ちゃんだ、頼りにしとけ!」


 小柄な少女ラニと、やせっぽちの少年トムが、

 顔を赤くして近づいてきた。


「あ、あの……ジージー姉ちゃん、

 昨日、かっこよかった……です……!」


「ゴブリン、大きなやつ、

 斬ってたの見た……!」


 二人は両方とももじもじしながら、

 それでも目はきらきらしていた。


 ジージーの胸がくすぐったくなる。


(……見られてたんだ)


 あのとき、

 必死で杖を振り回していただけなのに。


「えっと……ありがとう。

 でも今日は、こっちの仕事のほうが大事ですからね」


 ジージーは笑って、

 瓦山から一枚を持ち上げた。


「落とさないように、慎重に。

 でも、足は止めない。

 戦いも復興も、“止めない”のがいちばん大事です」


「はいっ!」


 ラニとトムが元気よく返事をする。


 ミナはというと――

 その様子を空中からニヤニヤと眺めていた。


「ふふ。

 ジージーも、すっかり“お姉ちゃん”だね」


「ミナは手伝わないんですか」


「私の仕事は“危ない瓦がどこから落ちてくるかチェック”だよ。

 ほら、あそこの梁、釘が抜けかけてる」


 ミナが指差すと、

 ちょうど上でセルグレンが、その梁を確かめていた。


「……ほんとだ」


 セルグレンは低く呟きながら、

 道具袋から楔を取り出して打ち込む。


 トン、トン、と乾いた音が響く。


 戦場で剣を振るう腕が、

 今日は釘を打つために動いている。


(護るために殴る。

 護るために、打つ。

 やってることは、そんなに変わらないのかも)


 ジージーは、ふとそんなことを思った。



 午前中は瓦運びと、破損箇所の確認で終わった。


 昼休憩。

 広場の真ん中に、即席の食卓が作られる。


 パンとスープ、

 昨夜の残りのロースト肉を細かく切ったもの。

 簡素だが、温かい。


「おう、こっち空いてるぞ!」


 酒場の女将マルタが、

 大きな腰に手を当てて呼んだ。


「昨日はよく飲んだねぇ、あんたたち。

 うちの樽が二つも空になったよ」


「すみません……」


 ジージーが小さくなると、

 マルタは豪快に笑った。


「いいのさ。

 この街を守ってくれたんだから、

 樽十個空になっても文句言わないよ」


 周りで、大工たちや冒険者たちが「そうだそうだ」と笑う。


「でもよ」


 さっきから黙々とパンをかじっていた年配の漁師――オルソンが、ぽつりと言った。


「正直な話、昨夜、港にいた連中は、

 何が起きてたのか、ほとんど知らねぇんだ」


 ジージーは顔を上げた。


「え……?」


「鐘が鳴ったろ。

 “魔物襲来”の合図さ。

 けど、そのあとすぐ、

 “もう大丈夫だ、家から出るな”って声が回ってきた」


 オルソンはスープをすすりながら続ける。


「だから俺たちは、

 怖がりながら家を閉めて、

 ただ祈ってるしかなかったんだ」


「……」


「朝になったら、

 城門の外で魔物が山みてえに積み上がっててよ。

 そんで“冒険者たちが守ってくれた”って話になった」


 オルソンは、少し照れくさそうに笑う。


「だから、ありがとな」


 その一言が、

 ジージーの胸にじんわり染みた。


(……そうか)


 街の人たちは、

 自分たちの戦いを「音」と「あと」でしか知らない。


 なのに、

 こうして「ありがとう」と言ってくれる。


 ジージーは、パンをぎゅっと握った。


「……あたしたちも、

 あの時は“目の前のことで精一杯”でした」


 言いながら、自分でも驚いた。

 声が、震えていない。


「でも、守れてよかったです。

 今日、こうして皆さんとパン食べられてるから」


 マルタがニッと笑って、

 スープ鍋をおかわりしてくれた。


「おかわりしな。

 午後からは港のほうも手伝ってくれるんだろ?」


「港もですか?」


「ああ」


 セルグレンが頷いた。


「城門前と広場の修復が落ち着いたら、

 港の柵と倉庫の壁も直さなきゃならん。

 ゴブリンどもが夜のうちに荒らしていったからな」


「うへぇ、まだまだですね……」


 リゲロが頭を掻く。


「でも、こういうの嫌いじゃないぜ。

 人間の街って、“直せる傷”があるからな」


 ジージーは、その言葉にハッとした。


(“直せる傷”……)


 砂漠で出会ったエイリアスの言葉が、

 重なった気がした。


『砂漠じゃ、生きる気のねぇ奴から死ぬんだ』


 ここは砂漠じゃない。

 でも、

 生きる気のある人たちが、

 汗を流して街を直している。


 それを手伝えるのなら、

 あたしは何度でも瓦を運ぶ。



 午後は港だった。


 湖畔公国レーヌの名に恥じない、

 大きな湖に面した木造の桟橋。

 波に揺れる小舟。

 壊れた柵。


「よし、そこ持ち上げろ!」


「支え柱、もっと奥だ!」


 バルドの声が飛ぶ。


 セルグレンとリゲロは、

 肩に材木を担ぎ、汗だくになって動き回った。


 ジージーとラニ、トムたちは、

 拾い集めた板を仕分けしたり、

 釘を揃えたり。


 もちろんミナは――


「ねぇねぇ、その板、そこにはめるとギシギシ言うよ?

 さっき見てたら、こっちの梁が微妙に歪んでてさ」


 ふわふわと飛びながら、

 “上から目線チェック係”をしていた。


「ミナ、すごいな……」


 トムが尊敬の眼差しを向ける。


「幽霊って便利……」


 ラニがぽそっと呟く。


「でしょ?」


 ミナは得意げに胸を張った。


 幽霊なので胸は半透明だったが、

 誰も突っ込まない。



 作業がひと段落したころ、

 湖畔の空は茜色に染まり始めていた。


「今日はこのくらいだな」


 バルドが大きく伸びをする。


「お前ら、本当に助かった。

 明日からは、うちの見習いどもで回せそうだ」


「よかったです」


 ジージーは額の汗を拭った。


 腕も足もパンパンだ。

 けれど、嫌な疲れではない。


(戦いの疲れとも、また違う……)


 そこへ、

 ギルドマスターのダイアーがやってきた。


 昼間の彼は、昨夜の酔っ払いとは別人のように、

 きっちりした革鎧を着ていた。


「よう、お前ら。

 よく働いたな」


 彼は手を挙げて合図する。


「ギルドのほうでも“復興協力ポイント”をつけておく。

 正式な依頼じゃねぇが、こういうのはちゃんと評価されるからな」


「ポイント……?」


 ジージーが首をかしげると、

 ダイアーはにやりと笑った。


「“金にならない仕事”をどれだけやったか、ってポイントだ。

 直で稼ぎにはならねぇが、

 昇格判定の時にな、“こいつらは街のために動くやつらだ”って証拠になる」


「そんなの、あるんですか」


「あるともよ」


 ダイアーは空を見上げた。


「冒険者は、魔物と戦うだけが仕事じゃねぇ。

 街の子どもや老人が、

 “あの人たちがいるから安心だ”って思えるかどうかだ」


 ジージーの胸に、

 何かがストンと落ちる。


(……あ)


 砂漠で、

 エイリアスが言っていたこと。


 リルモアで、

 ミーヤやタリサたちがやっていたこと。


 それが、形を変えてここにもある。


「……あたし、冒険者になってよかったかもしれないです」


 思わず漏れた一言に、

 セルグレンが横で目を細めた。


「気づくのが少し遅いな」


「うるさいです」


 ジージーは頬を膨らませながらも、

 笑っていた。



 夕暮れ。

 湖面が、赤と金に揺れる。


 港の端で、

 ラニとトムがこそこそと相談していた。


「ねぇ……ジージー姉ちゃんたち、

 もうすぐここを出ちゃうのかな」


「う、うん……。

 冒険者だもんね。

 きっと、もっといろんなところに行くんだ……」


 ミナがふわりと現れ、

 二人の肩に手を置いた。


「大丈夫だよ。

 “名前で覚えた人”は、ずっと消えないから」


「え……?」


「ジージーはね、

 数字じゃなくて、“名前”で覚える人だから」


 ミナは湖のほうを見た。


 そこでは、

 ジージーとリゲロが石を投げあっていた。

 セルグレンは少し離れて、それを眺めている。


「きっと、またどこかで思い出すよ。

 “レーヌ湖畔の港で一緒に瓦運んだ子たちがいたな”って」


 ラニとトムは顔を見合わせ、

 少しだけ笑った。


「……じゃあ、

 あたしたちも覚えておく」


「うん。

 ジージー姉ちゃんと、

 セルグレンおじさんと、

 リゲロ兄ちゃんと、

 浮いてるミナちゃん」


「最後に変なの混ざってる!」


 ミナが全力で抗議する。


 でも、その声は楽しげだった。



 その夜。

 ギルドの宿の小さな部屋で、

 ジージーは窓辺に腰掛けていた。


 湖から吹く風が、

 昼間の汗のにおいと、

 どこか甘い焼き菓子のにおいを運んでくる。


 隣には、

 半透明のミナが座っていた。


「ねぇ、ジージー」


「はい?」


「今日のこと、覚えておこうね」


 ミナは膝を抱えながら言う。


「壊れた瓦の色。

 ラニの笑い声。

 トムの泥だらけの顔。

 大工親方のガハハって笑い。

 オルソンさんの“ありがとな”。

 マルタさんのスープの味」


 ジージーは、

 目を閉じて一つ一つ思い浮かべる。


「……はい」


「いつかさ。

 ほんとに世界がめちゃくちゃピンチになったとき、

 きっと今日みたいな“景色”が、

 ジージーを踏みとどまらせてくれるから」


 ミナの声は、

 不思議と大人びていた。


「戦いばっかり覚えてると、

 どっかで“どうでもいいや”ってなっちゃうんだよ」


 ジージーは、

 胸の奥が少しだけ締め付けられるのを感じた。


(……リルモアでも、そうだったのかもしれない)


 数字と帳簿。

 送り先と枠。


 そこから名前を引きずり出そうとして、

 必死だった自分。


 でも今日、

 自分の手で瓦を運び、

 笑い合った人たちのことは、

 自然と“名前”で覚えている。


「……ミナ」


「なに?」


「あたし、“杖の勇者”なんて呼ばれても、

 あんまりピンと来ないですけど」


「うん」


「“街で瓦運んだジージー”って呼ばれるほうが、

 ちょっと嬉しいかもしれないです」


 ミナが、声を立てて笑った。


「それ、いいね。

 “瓦運びの勇者”」


「やめてください。

 それはそれで微妙です」


 二人の笑い声が、

 小さな部屋に溶けていく。


 外では、

 湖畔の街の灯りがひとつずつ灯り始めていた。


 今日運んだ瓦の下で、

 誰かが安心して眠るのだろう。


(――護るために殴る。

 護るために、打つ。

 護るために、運ぶ)


 戦いも、復興も。

 杖も、釘も、瓦も。


 全部、“誰かの静かな夜”に繋がっている。


 ジージーは、

 胸の中でそっとそう呟いた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は完全に「戦いの翌日」のお話として、

•大工親方バルドや酒場のマルタたち、町の人々

•ラニ&トムのような子どもたち

•ギルマス・ダイアーの「金にならない仕事」の評価

•ミナの“上から目線チェック幽霊”っぷり

•ジージーの「冒険者になってよかったかも」という小さな実感


……をまとめて描きました。


ポイントは「直せる傷」と「名前で覚える」というテーマです。

•戦いの傷跡は、瓦を運び、木を組むことで少しずつ“直せる”

•その中で触れ合った人たちを、“数字”ではなく“名前”で覚えていく

•それが、のちの「支える勇者」としてのジージーの芯になる


そんな一日になっています。


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