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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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旅路の章 ― 砂と風の短編集 ―湖畔の小さな冒険者たち(前編) ― レーヌ湖畔の子ら ―

【前書き】


舞台は、静かな湖と雪解けの山々に抱かれた「レーヌ湖畔公国」。


呪われた家を後にしたジージーたちが、

“ただの通過地点”として立ち寄ったこの国で出会うのは――

湖畔の村から消えた子どもたち。


のんびりした雰囲気の裏に潜む、冷たい水と風の危険。

前編では「子どもたちの事情」と「森と湖の危険」が立ち上がるところまで。


―――――――――――――――――


【本編】


 冷たい空気だった。


 レーヌ湖畔公国――山々に囲まれたその小国の国境を越えたとき、

 ジージーは、思わず肩をすくめた。


「さむ……っ。砂漠よりマシだけど、これはこれでキツいな」


 吐いた息が白い。

 空は高く、雲は薄くのびている。遠くには雪を被った山、その麓に、ガラスのような湖面が広がっていた。


「ここらは春でも風が冷たいからな」


 マントの襟を立てながら、セルグレンが言う。


「だが、食い物はうまいぞ。湖魚とチーズ、それから……温かいスープだ」


「それ聞いたら急に元気出てきましたわ」


 後ろから、リゲロが笑う。

 新しく旅に加わった若い男――元・冒険者。毒を盛られて捨てられたところを拾って以来、ジージーたちと行動を共にしている。


「……スープ……。パン……。バターも希望……」


 ジージーの肩口で、うっすら透けた少女が、うっとりした顔でつぶやいた。


 幽霊のミナだ。


「ミナ、食べられねぇだろ」


「味は……覚えてるの。匂いも……。だから、見てるだけでも……いいの」


「それはそれで切ねぇなぁ……」


 ジージーは苦笑した。


(でも――

 あの呪われた家から、ミナを連れ出せて本当によかった)


 彼女の鎖は、もうあの家には繋がれていない。

 細い糸のように、ジージーの杖の先とミナの胸のあたりを結んでいるだけだ。


(“一緒に行く”って決めたんだもんな)


 そう思うと、杖を握る手に、少しだけ力が入る。



 湖畔の町レーヌに着くころには、陽はすでに傾き始めていた。


 静かな町だった。

 石造りの家々はこぢんまりとしているが、窓からは柔らかな灯りが漏れ、

 煙突からは白い煙が細く伸びている。


 魚を焼く匂い。

 チーズを煮たスープの匂い。

 井戸端でしゃべる女たちの声。


 どこを見ても、血の匂いも、怒鳴り声もない。


「……いいとこだな」


 ジージーがぽつりと言うと、セルグレンは肩をすくめた。


「表面だけ見れば、どこの国も大体“いいとこ”だ」


「身も蓋もねぇなぁ……」


 そう言いながらも、ジージーの胸は少しほぐれていた。


(リルモアみたいな数字の匂いが、あんまりしない)


 そんな気がしたのだ。


 ちょうどそのとき――


「どけっ!」


 甲高い叫び声とともに、小さな影がジージーの脇をかすめて駆け抜けた。


「わっ!?」


 思わずよろめきながら振り返ると、

 毛糸帽子をかぶった小さな少年が、魚籠を抱えて走っていくところだった。


 その後ろを、少し年上の少女が追いかけている。


「レオン! 待ってってば!」


「待ってられないって! 陽が落ちる前に行かなきゃ!」


 ジージーは目を瞬かせた。


(今、“行かなきゃ”って言った?)


 セルグレンも眉をひそめる。


「……ジージー」


「行きますか」


 目と目で会話を済ませ、二人は同時に走り出した。

 リゲロも「おいおい、また巻き込まれるパターン……!」とぼやきながら続く。


 ミナは、ふわりと浮かんで先行した。



 少年と少女は、町の外れへ向かっていた。


 湖にせり出した古い桟橋。

 その先には、小さな手漕ぎのボートが一隻、繋がれている。


「ちょっと待ちな!」


 ジージーが呼びかけると、少年がびくりと振り返った。


 大きな青い瞳。

 頬にはまだ幼さが残っている。


「誰だよ、あんたら!」


 警戒心むき出しの目だ。


「通りすがりの旅人だ。ケンカは売ってない」


 セルグレンが穏やかに手を上げる。


「ただ、日暮れ間近に子どもだけで湖に出るのは、感心しない」


 少女が、息を切らしながらジージーたちと少年の間に割って入った。


「ご、ごめんなさい!

 この子は、その……お兄ちゃんのことが心配で……」


「フィナ、余計なこと言うなよ!」


 少年――レオンと呼ばれたその子は、頬をふくらませる。


「余計じゃないでしょ! お兄ちゃんが――」


「お兄ちゃんが、どうした?」


 リゲロが、柔らかい口調で尋ねる。


 レオンは、歯を食いしばった。


「――帰ってこないんだ」


 風が、湖面を渡ってくる。

 ジージーは静かに続きを待った。


「三日前、兄ちゃんが“北の岬”まで行ったまま戻ってこない。

 大人たちは“明日になったら捜索隊を出す”って言うけど……」


 レオンは拳を握りしめた。


「兄ちゃんは、そんなに弱くない。

 でも、湖の天気はすぐ変わる……。

 僕、明日まで待ってて、もし間に合わなかったらって思うと……」


 声が震えている。


「だからって、あんた一人で行く気?」


 ジージーが少しだけ声を荒げると、レオンは睨み返した。


「一人じゃない! 僕にはフィナも、ニーノもいる!」


「ニーノ?」


 ジージーが首をかしげた瞬間、

 ボートの下から、小さな犬がぴょんと飛び出してきた。


「わふっ!」


 毛足の長い白い犬――子犬と若犬の中間のような、あどけない顔つきだ。


「この子が案内してくれるんだ。

 兄ちゃんの匂いだって覚えてる。

 僕、家族がいなくなるのはもう嫌だ!」


 その言葉に、ジージーの胸がちくりと痛んだ。


(……家族を失うのは、もう嫌)


 自分も、何度もそう思ってきた。


 セルグレンも、遠い目をしていた。


「……北の岬ってのは、どれくらい危ないんだ?」


 リゲロが少女に尋ねる。


 フィナは唇を噛んだ。


「……岩が多くて、風が強いんです。

 昔、そこで船がひっくり返ったって話を聞きました。

 だから大人は“子どもだけで行くな”って」


「だったら大人がもっと早く行けよって話なんだけどな」


 ジージーはぼそっとつぶやいた。

 セルグレンが小さく肩をすくめる。


「漁の準備と、巡察の後片付けで忙しいんだろう」


「巡察……?」


 ジージーが眉をひそめると、フィナがうなずいた。


「はい、この国にも聖教国の巡察教士様が……。

 でも、ここは亜人が少ないから、書類を見るだけで帰っていかれました」


「……そう」


 ジージーは、胸の奥が少し冷たくなるのを感じた。


(数字の匂いがしないと思ったけど……

 まったくないわけじゃない、か)


 セルグレンが、レオンの前にしゃがみ込んだ。


「レオン」


「……何?」


「お前の兄貴は、どんなやつだ?」


 突然の質問に、少年は目を瞬かせた。


「……強くて、泳ぎが上手くて、

 魚を獲るのが誰より早くて……

 僕なんか、まだまだ追いつけないけど……」


 言いながら、少し誇らしそうな顔になる。


「僕たちのことを、いつも守ってくれてた」


「そいつが、お前を一人で危ないところに行かせると思うか?」


 レオンは、はっとしたように顔を上げた。


「兄貴は多分、こう言うぞ」


 セルグレンは、遠い目をした。


「“家を守ってろ”。

 “俺が帰ってくる場所を、ちゃんと残しとけ”ってな」


「……!」


 レオンの肩が震えた。


 ミナが、そっとジージーの袖を引く。


「セルグレン……優しい……」


「うん。たまに、な」


 ジージーは苦笑する。


「でもな、レオン」


 セルグレンは続けた。


「だからといって、お前の心配が消えるわけじゃない。

 だから、こうしよう」


 すっと立ち上がり、ジージーとリゲロを見る。


「俺たちが、北の岬まで行ってみる」


「え?」


 ジージーと少年が同時に声を上げた。


「お前たちは、ここで待つ。

 もし兄貴を見つけたら、必ず連れて帰る。

 ダメだったら――ちゃんと、そのことを伝える」


 レオンの目が大きく見開かれる。


「そんな……知らない旅人なのに、どうして……」


「知らないから、だよ」


 セルグレンは肩をすくめた。


「俺たちは、ここに居場所がない。

 だからこそ、“帰る場所”を持ってるやつの手伝いくらいはできる」


 ジージーは、胸の奥に温かさと、少しの痛みを感じた。


(セルグレンさん……

 ほんとは自分が、帰る場所を持ってなかったから、こんなふうに言うんだろうな)


 リゲロが笑った。


「ま、俺も一応元・冒険者だしな。

 こういう時に動かなかったら、肩書きが泣くってもんですわ」


「……ぼくも、ついていきます」


 レオンが、きゅっと拳を握りしめる。


「ちゃんと邪魔にならないようにする。

 兄貴がどうなったか、自分の目で見たい」


「さっきと言ってること違うな?」


 ジージーが思わずツッコむと、少年は赤くなった。


「だ、だって……!」


 フィナも一歩前に出る。


「私も! レオンを一人にできない!」


「ニーノも……!」


 白い犬が「わふ!」と元気よく吠えた。


 セルグレンは額を押さえた。


「……増えたな」


「どうします?」


「決まってる。

 全員を連れて行く。

 ただし――」


 セルグレンは、真剣な目で子どもたちを見る。


「俺の言うことは絶対に聞くこと。

 走れと言ったら走れ。

 伏せろと言ったら伏せろ。

 “置いていく”と言ったら、その場を動くな。いいな?」


 レオンとフィナは、ごくりと唾を飲み込んでから、同時に頷いた。


「……わかった」


「はい」


「ニーノも、いいな?」


「わふ……?」


 ジージーは、ニーノの頭をわしゃわしゃ撫でた。


「よーし、じゃあ“ちびっこ冒険者たち”の護衛任務、開始だな」


「ちびっこ言うな!」


 レオンの抗議に、皆の緊張が少しだけほぐれた。



 北の岬へ向かう道は、湖に沿って続いていた。


 左手には、鏡のような湖面。

 右手には、針葉樹の森が広がる。

 鳥の声は少ない。代わりに、時おり水鳥の羽音が聞こえた。


「ここ、熊とか出ます?」


 リゲロが尋ねると、レオンがうなずく。


「山のほうには“灰熊”がいるって。

 あと、“風狼”っていうのも……」


「風狼?」


 ジージーが眉を上げる。


「狼が風をまとって走るんだって。

 霧の中から急に出てきて、羊をさらっていくんだ」


 ミナが、少し震えた。


「幽霊よりこわい……」


「お前、わりと何にでもビビるよな」


「こわいものは……こわいの」


 セルグレンは周囲を見渡しながら歩いていた。


「足跡があればいいが……」


「兄貴は、三日前に行ったって言ってましたよね」


 ジージーがレオンに尋ねると、少年はうなずいた。


「“明日には戻る”って言ってたのに、戻ってこない。

 舟も見当たらない。

 もしかしたら、北の岬じゃなくて、途中で何かあったのかも……」


「その“途中”を潰してくしかないな」


 少し歩いたところで、セルグレンが立ち止まった。


「ジージー。

 ここから、ミナに前を見てもらえないか?」


「ミナ、いけそう?」


 幽霊少女は、こくりとうなずいた。


「霧や森の中は……ちょっと、落ち着く。

 “向こう”と似てるから」


「それ、あんまり喜んでいいのか分かんねぇな……。

 でも頼りにしてる」


 ミナは、ふわりと前方へ飛んでいった。


 ジージーたちは、その後を追う。



 しばらく進むと、

 湖岸に奇妙なものが打ち上げられているのが見えた。


「……あれ」


 フィナが指さす。


 半分沈みかけた小舟。

 片方のオールは失われ、もう片方は折れている。


 ジージーは胸がざわりとした。


(まさか……)


 レオンが駆け出そうとしたのを、セルグレンが腕を掴んで止める。


「待て」


「でも兄ちゃんの――!」


「舟が兄貴のものであっても、ここにいないってことは、

 とりあえず“生きて岸に上がった可能性”があるってことだ」


 その言葉に、レオンの目に一瞬光が戻る。


「本当……?」


「舟と一緒に沈んでたら、ここまで流れ着かない。

 ――少なくとも俺は、そういう方に賭ける」


 セルグレンは、足元を見る。


 岸辺の砂地に、小さな足跡が残っていた。


 大人のものより少し大きい――青年の足跡。


「これ……」


「兄貴のだ」


 レオンが即座に言う。


「漁のときの足跡と同じ。

 ……間違いない」


 足跡は、森の中へと続いている。


 ジージーは杖を握りなおした。


(森の中で何かあった……?

 怪我をして動けなくなったか、

 それとも――何かから逃げてるのか)


 ミナが戻ってきた。


「森の中……変な感じ。

 風の音が、ぐるぐるしてる。

 “獣”の匂いも……“鉄”の匂いもする」


「鉄?」


 リゲロが眉をひそめる。


「罠か、武器か……

 いずれにせよ、子ども向けの場所じゃないな」


 セルグレンは、レオンとフィナに向き直った。


「ここから先は、本当に危ない。

 それでも来るか?」


 レオンは、迷いなく頷いた。


「兄貴を探すって決めたから」


 フィナも続く。


「レオンを一人にはしないって決めたから」


 セルグレンは、少しだけ微笑んだ。


「じゃあ――ちびっこ冒険者たちに、最初の課題だ」


「か、課題?」


「“音を立てないこと”。

 足元をよく見て歩くこと。

 怖くても、叫ばないこと」


 セルグレンは、森の中を指さした。


「この先には“風と鉄”がある。

 それは、どんな獣より厄介だ」



 森の中は、薄暗かった。


 針葉樹の枝が空を覆い、

 木漏れ日が斑に落ちている。


 足元には、落ち葉と苔。

 ときおり、風が木々を鳴らす。


 ミナが先行し、

 ジージーがその後ろ。

 セルグレンとリゲロが左右を固め、

 レオンとフィナは中央に寄り添うように歩いていた。


「ニーノ、静かにな?」


「……わふ」


 白い犬も、さすがに状況を察しているのか、

 尻尾を下げ、音を立てないように歩いている。


 そのとき――


 ガチャン。


 小さな金属音が、森のどこかで鳴った。


 全員の体が、一瞬で固まる。


「今の……」


「罠だな」


 セルグレンが低く言う。


「レオン、フィナ、動くな」


 二人はその場で凍りついた。


 ミナが音のした方向へ滑るように飛んでいき、

 すぐに戻ってくる。


「“鉄の足”……。

 罠にかかった鹿が……」


 言葉を濁す。


「見ないほうがいい?」


「……血、こわくないなら……」


 レオンは唇を噛んだ。


「……行く」


「俺が先に見る」


 セルグレンが制し、罠のほうへ向かう。


 しばらくして戻ってきた彼の顔は、険しかった。


「鹿が一頭。

 “足鉄”にかかって、かなり前から放置されている。

 誰かが“獲物だけ持って行った”か、“忘れた”か」


「ひど……」


 ジージーは、拳を握りしめた。


「罠だけ残しておくなんて」


「“効率優先”の狩人は、そういうことをする」


 セルグレンの声には、淡い怒りが滲んでいた。


「それだけじゃない。

 鹿の足跡に混じって、人間の足跡もある。

 兄貴の足跡とは違う」


「じゃあ兄貴以外にも誰かが……」


 レオンが小さく呟く。


「そういうことだ。

 ――獣と罠と、それから“人間”だな」


 森の空気が、いっそう冷たく感じられた。


 そのとき、ミナが顔を上げた。


「……声がする」


「声?」


「“こっちへ来るな”って……

 “風の中の声”」


 ジージーの背筋に、ぞくりとしたものが走る。


「兄貴の声か?」


「違う。

 もっと古い……もっと、重い声」


 セルグレンが、じっと森の奥を見つめた。


 遠くで、風が鳴く。

 低い唸り声のようにも聞こえる。


「――“風狼”だな」


 呟いたセルグレンの顔には、

 戦う者の色が浮かんでいた。



 森を抜けると、

 急に視界が開けた。


 岩だらけの斜面。

 その向こうには、湖が深い青で広がっている。


 ここが、北の岬だ。


 風が強い。

 足を踏み出すたびに、バランスを取らなければならない。


「レオン、フィナ。ここから先は絶対に走るな。

 一歩間違えれば、湖に落ちる」


 二人は真剣な顔で頷いた。


「兄ちゃんの足跡は……?」


 レオンが訊くと、セルグレンは岩場を見渡す。


 湿った苔の上、砂地の上、

 かすかな足跡がいくつも交錯している。


「兄貴らしき足跡は、ここまで続いている。

 その先で、別の足跡と混じって――」


 言いかけたとき、

 ミナが息を呑むような声をあげた。


「……あそこ!」


 岬の少し下――

 岩場の影に、人影が倒れていた。


「兄ちゃん!」


 レオンが叫びかけた瞬間、

 セルグレンがその口を手で塞いだ。


「声を上げるな!」


 同時に、風がうねる。


 岩場の向こうから、

 白い影がいくつも滑り出てきた。


 風をまとった、狼たち。


 毛並みは灰と白の混ざった色。

 体の周囲に、砂塵のような風がまとわりついている。


「風狼……!」


 リゲロが低く唸る。


「しかも群れかよ……!」


 ジージーは、倒れている人影――レオンの兄と思しき人物と、

 風狼たちの位置関係を一瞬で測った。


(兄貴は、狼たちの“向こう側”。

 このままだと、近づいた瞬間に囲まれる)


 レオンが震える声で呟く。


「……兄ちゃん……」


 ミナが、ジージーの袖をぎゅっと掴んだ。


「どうするの……?」


 ジージーは、杖を握りしめた。


(“止める”って決めたんだろ、ジージー)


(ここで逃げたら、“支える勇者”なんて名乗れない)


 セルグレンが、低く言った。


「……ジージー、リゲロ」


「はい」


「おう」


「先に言っておく。

 風狼は、獣の中でも賢い。

 ただ殴ればいい相手じゃない。

 “群れ全体の動き”を止めなきゃならん」


 ジージーは、深く息を吸った。


「じゃあ――

 “風”を借りましょうか」


 彼女の足元で、砂と枯葉がふわりと舞い上がる。


「こっちにも、“ちびっこ冒険者”がいるしな」


 横で、レオンがきょとんとする。


「え?」


「お前のことじゃない。

 ミナ」


 ジージーは、幽霊少女を見る。


「風と霧の中は、得意なんだろ?」


 ミナは、しばし迷うように瞬きをして――

 やがて、小さく笑った。


「……うん。

 “向こう”の遊び、こっちでも、できるかもしれない」


 風が、さらに強くなった。


 狼たちが、こちらに気づく。


 鋭い目。

 むき出しの牙。

 唸り声。


 レオンが、思わず後ずさる。


「ジージー……」


「大丈夫」


 ジージーは、少年の頭を軽く叩いた。


「――ここからは、“大きな冒険者たち”の仕事だ」


 風狼の群れが、跳びかかってくる。


 その瞬間、

 ジージー、セルグレン、リゲロ、ミナ――

 四人の“砂”と“風”が、一斉に動き出した。


(つづく)


―――――――――――――――――


【後書き】


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回はレーヌ湖畔公国を舞台に、

•湖畔の町レーヌ

•兄を探す少年レオン

•しっかり者の少女フィナ

•子犬ニーノ

•風狼と罠と“誰かの足跡”


という、「小さな冒険者たち」が出そろう前編でした。


後編では、

•風狼との戦い

•倒れていた“兄”の正体と状態

•罠を仕掛けた人間たちの影

•子どもたちが“自分の足で立つ一歩”

•ジージーたちとの別れと、その後の湖畔の村


を描いて、2話完結エピソードとしてまとめます。


よろしければ、後編もお付き合いください。

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