表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/242

**『旅路の章 ― 砂と風の短編集 ―』 第1話 狼王の丘(後編)**

【前書き】


※この回は「狼王ロボ」へのオマージュとして、

 “野生と人間の境界線”“共存の難しさ”“少年の祈り”

 をテーマに描いていきます。


――――――――――――――――――――――


【本編】


夜明け前。

霧の匂いの中で、

村の外れにいた狩猟団の男たちは低い声で話しあっていた。


「……今夜で仕留める。

 畑がこれ以上荒らされちゃ、村が持たない」


「だが、あの狼……普通じゃねぇぞ」


「だからこそ討たねぇといけねぇんだよ」


その場に、少年カイの姿はなかった。

セルグレンは木影に身を潜めながら、小声で言った。


「ジージー、どう見る?」


「……ボルは“理由があって”来てます。

 ただの獣の行動じゃない……

 あれは、何かを守ってる動きです」


セルグレンは顎で山の方向を示す。


「行くか?」


ジージーはうなずいた。


「はい」



山道を登る途中、

かすかな鳴き声が風に混じった。


「……?」


ジージーは足を止める。


「セルグレンさん、こっちです」


茂みをかき分けると――

あったのは小さな洞窟。


そしてその奥に、

震えている小さな狼の子がいた。


「……子どもか」


ジージーは理解した。


(ボルは、子どもを守りたかったんだ……

 だから村の近くに現れた……)


その瞬間、背中に強い気配。


「ッ……!」


岩陰から、巨大な影が現れた。


――狼王ボル。


黄金色の瞳が、ジージーとセルグレンを射抜く。


(守ってる……

 この子を……)


セルグレンがジージーの前に立つ。


「ジージー。後ろへ」


だが――

振り上げられた爪は、ジージーへ向いていなかった。


洞窟の入口。


そこに立っていたのは――

少年カイだった。


「ボル……!」


少年がボルの名を呼んだ瞬間、

狼王の爪はピタリと止まる。


ジージーは、ゆっくりと前に進んだ。


「ボル。……お願い、話をきいて」


狼王の目が細まる。

威圧は消えていない。

だが、その中に“迷い”があった。


ジージーは洞窟の奥の子狼を指差した。


「あなたは、この子を守りたいんですよね。

 でも村の人たちも、畑と家族を守りたい……」


セルグレンが横から言う。


「だから対立になってる。

 だが、やり方はある」


カイが震える声で言った。


「ボル……村の人たち、襲わないで……

 ぼく、悪い人たちを説得するから……!」


ボルはゆっくりと鼻を鳴らした。


敵意は――ない。


ジージーは理解した。


「……場所を変えましょう。

 ここにいたら、村の人が来てしまう」


ボルは子狼を口でそっと咥え、

山の上――霧の丘へと歩き出した。



霧の丘。


ボルは子狼を守るように寄り添い、

カイは涙を拭った。


「ボル……ぼく、また会いに来るから……」


そのとき、

山を上がってくる荒い足音。


狩猟団だ。


「いたぞ! 狼王だ!!」


鋭い矢がつがえられる。


「やめてください!!」


カイが叫んだ。

ジージーも前に飛び出す。


「ボルは、村を襲いに来たんじゃありません!

 子どもを守るために逃げ場所を探していただけです!」


「馬鹿なこと言うな!

 狼が畑を荒らせば、村が死ぬんだ!」


セルグレンが一歩前に出る。


「狼王の巣はもう“山向こう”だ。

 あとは村の境界線だけ決めれば共存できる」


「境界線……?」


セルグレンは地面に足跡を示す。


「この山には“獣道”がある。

 ボルはそこだけを通っていた。

 それを越えないようにすればいい」


ジージーも続けた。


「ボルは、襲うためじゃなく“避けるため”に動いてました。

 あたしたちが見たすべてが、その証拠です!」


狩猟団は顔を見合わせる。

やがて、リーダー格の男が唸った。


「……狼の顔じゃねぇな。

 “父親”の顔だ」


ボルは子狼を抱えたまま、ジージーたちを見つめた。


そしてゆっくり――

霧の向こうへ姿を消した。


カイは泣きながら、両手を胸に当てた。


「……ありがとう、ジージー。

 ボルが……ボルが守られた……!」


ジージーは優しく笑った。


「守ったのはあなたですよ、カイ。

 あなたが“名前で呼んだから”ボルは動かなかったんです」


(名前には、重みがある)

(数字じゃ測れない“繋がり”がある)


ジージーの胸に、

リルモアで学んだ感覚が蘇る。


セルグレンが肩を叩く。


「“旅路の始まり”らしい仕事だったな」


「……はい」


風が頬を撫でた。


狼王ボルの遠吠えが、

山の向こうで静かに響いた。


――それは、“共存の約束”のように聞こえた。


――――――――――――――――――――――


【後書き】


第1話「狼王の丘」完結です!


テーマは

“名前で呼ぶことの重さ”と“境界線を決める知恵”

でした。


リルモア編の“数字と名前”のテーマと響き合わせ、

最初の短編として非常に良い回になったと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ