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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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131/249

楽都ワーダン③ ― 声なき霧の元へ

◆前書き


音楽の都ワーダンには、ひとつだけ禁じられた“舞台”がある。


湖の真ん中の、誰も近づかない静けさ。

水面の下に眠るのは、かつて歌と祈りを捧げた古い神殿。


今はただ──

声なき霧が渦巻き、歌姫長の拍を鎖で縛りつける場所。


杖の勇者と仲間たち、そして聖歌騎士リンネは、

沈黙の主《沈黙王シレンスロード》へ続く、その“門”を叩きに行く。


鳴らすために。

奪われた声を、取り戻すために。


◆1 湖の上の“舞台”


 夜明け前。

 楽都ワーダンの中心、鏡のような湖面は、まだかすかな霧に覆われていた。


 湖の周りには、弧を描くように白い石の座席。

 そこから伸びる一本の桟橋が、水上の小さな舞台まで続いている。


「ここが……湖上野外ステージ、だっけ」


 ジージーは伸縮棍を肩に担ぎながら、足元を覗き込んだ。


 水は深い青だ。

 静かすぎる。

 魚の跳ねる音も、波のさざめきも、ほとんど聞こえない。


「昔は、ここで“水上コンサート”が開かれてたんだってさ」


 リゲロが片手をポケットに突っ込んだまま言う。


「夜になると、湖の上に光の譜面が浮かんで、

 歌姫たちが順番に歌い継いでたらしい」


「素敵ですねぇ……」


 ミナが、座席の上をふわふわと漂いながら目を細めた。


「今は……“声なき霧”のせいで、中止中と」


 セルグレンは静かに盾を撫でる。


「この静けさは、穏やかさじゃない。

 ……抑えつけられた沈黙だ」


 隣で立っていたリンネが、小さくうなずいた。


 白いローブに、喉元のスカーフ。

 瞳は、夜の湖に似た深い青。


「湖の底に“神殿”があります。

 そこが、沈黙王シレンスロードの気配がいちばん濃い場所です」


「歌姫長さまも、そこに?」


「はい。あの夜を境に、歌姫長さまは姿を消されて……」

 リンネはぎゅっと拳を握りしめる。

「かわりに、霧だけが濃くなっていきました」


 風が吹く。


 湖の中央に、何かが浮かび上がった。


 丸い、水の柱。

 鏡のように平たい円盤が、その上にそっと乗る。


星鏡ほしどです」


 リンネの声が少しだけ震えた。


「夜の星を映して、神殿への“道”を見せてくれる装置……

 本来は儀式用なのですが、今は……」


「霧の向こうの、唯一の足場ってわけね」


 ミナがくるりと回って、ジージーたちの方を向く。


「さ、支える勇者。出番だよ?」


「だね」


 ジージーは伸縮棍を手の中で鳴らした。


 トン、と一拍。

 棍先が、星鏡のある方向を“指す”ように震える。


(……行こう、って言ってる)


「準備は?」


 セルグレンは盾を確かめ、リゲロは影を足元に馴染ませ、

 ミナは霊体の揺らぎを締める。


 リンネは自分の喉に手を当てた。


「……少し怖いです。でも、わたしの歌で守れるのなら」


 瞳に、決意の光。


「行きます。歌姫長さまを取り戻すために」


「うん。行こ」


 ジージーは頷き、桟橋に足を踏み出した。


 ──音のない湖へ向かって。


 


◆2 星鏡が指し示す道


 湖上ステージからさらに先。

 星鏡の円盤の上に立つと、足元の紋様がぼんやりと光り始めた。


 リンネがそっと歌い出す。


「♪── 


 最初は、かすれた小さな声。

 けれど、それは確かな“旋律”だった。


 紋様の光が線になり、湖面へと延びていく。


「……道が、見える」


 ジージーには見えた。

 静かな湖面の上に、かすかな光の足場が弧を描いているのが。


「星鏡は“正しい歌”にだけ道を見せるのです」

 リンネは細く息を継いだ。

「歌姫長さまから教わった道筋……忘れていません」


 セルグレンが足を踏み出す。


 光の上に靴が乗り、沈まずに支えられた。


「問題なさそうだ。慎重にな」


「落ちたら?」

 ミナが軽く首をかしげる。


「幽霊だから平気だけど?」

「俺はごめんだな」

 リゲロがため息をつく。


「水の中って、音の通り方が違う。影術がどこまで使えるか……」


 ジージーは伸縮棍で足場を軽く叩いた。


 コン、コン。


 音は出る。

 それだけで、少し安心した。


「影が薄くなるなら──代わりにあたしが拍を刻むよ」


「……へ」

「大丈夫。

 リゲロの影が届かないところは、あたしの音で繋ぐ」


 ジージーはニッと笑った。


「あたしたち、“支える勇者と影走り”でしょ?」


 リゲロは少しだけ肩の力を抜いた。


「……ああ、そうだな。支え合いってやつだ」


「いいですねぇ、そういうの。友情〜って感じで」

 ミナが妙に嬉しそうだ。


「からかわない」

 セルグレンが苦笑しつつ前進を指示した。


「行くぞ。ここから先は、一歩踏み外したら冗談抜きで危険だ」


 四人と一体(幽霊)と一人(聖歌騎士)は、

 星鏡の指す光の道を、湖の中央へと進んでいった。


 


◆3 湖底神殿の門


 やがて光の道は、湖の真ん中──

 ぽつんと浮かぶ小さな石の島で終わりを迎えた。


 島の中央には、石でできた門が立っている。


 半円形のアーチ。

 その向こうは水面ではなく、黒い穴だ。


「ここが……」


「湖底神殿への“落ち口”っすねぇ」

 ミナが覗き込みながら肩をすくめる。

「うわ、雰囲気悪〜い。嫌いじゃないけど」


「リンネ」

 セルグレンが慎重な声を出す。


「ここから先は、本当に危険だ。

 君はここで待っていてもいい」


 だがリンネは首を振った。


「わたしの歌がなければ、道が見えません。

 それに──歌姫長さまは、わたしの“師”です」


 瞳は揺れていない。


「ここで背を向けたら、

 きっとずっと、歌うたびに後悔します」


「……分かった」


 セルグレンは短くうなずいた。


「危なくなったら、自分の身を最優先しろ。

 守れる範囲には限界がある。その中で、全力を尽くす」


「はい」


 リンネは胸に手を当て、一礼した。


「ジージー」

 リゲロが顎で門を指す。


「行くか、前衛殿」


「もちろん」


 ジージーは伸縮棍をくるりと回した。


 トン、と地面を叩き──

 そのまま黒い穴の中へ躊躇なく飛び込む。


「続け!」

 セルグレンが飛び込み、


「いやぁもうちょい躊躇おうよ!?」

 リゲロが毒づきつつ続き、


「ひゃっほー! 落ちるのだけは得意〜」

 ミナが嬉々として滑り込み、


「……っ、いきます!」

 リンネが最後に身を躍らせた。


 世界が、裏返る感覚。


 音が遠くなり、

 代わりに心臓の鼓動だけがやけに近く聞こえた。


 


◆4 水の中の“ホール”


 ──着地。


 足元は水かと思いきや、

 しっとりとした石畳だった。


「……ここ、水の中?」


 ジージーは息を確かめる。

 息は、できる。苦しくない。


 周囲を見渡すと、淡い青の光が宙に漂っている。


「水の膜の内側、って感じだな」

 リゲロが指を伸ばして光に触れる。


 指先を通り抜ける柔らかな抵抗感。

 だが濡れはしない。


「古い結界ですねぇ。

 “水の神殿”っぽい雰囲気」


 ミナがくるりと回りながら壁を眺める。


 壁には、古い楽譜のような浮き彫りや、

 波と竪琴をかたどった紋章が並んでいた。


「ここで、かつては“沈まない歌”を捧げていたのでしょう」


 リンネの声には、敬意と悲しみが混じっていた。


「今は……沈黙の王の“前室”ですけれど」


 奥から、かすかな響きがした。


 コン、コン、コン……


 靴音でも、石の音でもない。

 何かが“叩かれている”音。


「嫌な音だな」

 セルグレンが盾を構える。


「……リゲロ?」


「分かってる」


 影が、スッと伸び──

 その先が、ぴたりと止まった。


「……反応あり。

 “音のない影”がうろついてる」


「音のない影?」


「普通、影は足音と一緒にやってくる。

 でも、こいつらは足音も呼吸音もない。

 “音だけ喰われた存在”だ」


 ミナが眉をひそめた。


「つまり……“音だけの幽霊”みたいな?」


「いや、“音だけを奪われた生者かもしれねぇ”」


 リゲロの声は低い。


「気を付けろ。躊躇ってる余裕はないが、

 むやみに斬り捨てても後味が悪すぎる」


「うん。

 あたしたちは“倒す”んじゃなく、“繋ぎを戻す”んだよ」


 ジージーは伸縮棍を握りしめた。


「鍵穴じゃなくて──蝶番へ」


 棍が、静かに一拍鳴る。


 


◆5 音喰らいとの遭遇


 広間を抜けた先に、

 半球状のホールがあった。


 中央に、大きな水晶のような球体。

 その周りを、無数の“影”がうろついている。


 影には形がない。

 ただ、いびつな人型の“輪郭”だけ。


 耳も、口も、喉も、無い。


「……音を奪われた人たち?」


 ジージーは息を呑んだ。


 リンネの手が震える。


「この気配……ワーダンの歌い手たちです。

 合唱団の仲間も混じっている……」


「じゃあ、余計に“ただ壊す”わけにはいかねぇな」


 リゲロが前へ出る。


 影が一斉に振り向いた。


 ──足音も、咆哮もない。

 ただ、世界から「音」が引き剥がされる感覚だけが走った。


「来る!!」

 セルグレンが盾を構える。


 その時。


 水晶球の上に、

 ぬるりと“何か”が現れた。


 ぐにゃりと歪んだ音叉のような腕。

 耳の形だけがやたら大きな顔。

 喉はなく、代わりに黒い穴。


「……こいつが」


「沈黙王の幹部、《音喰らい(サウンドイーター)》」


 リンネの声は震えながらも、

 名を正確に告げた。


 音喰らいは、笑った“ように”見えた。


 音はない。

 だが、確かにあざける気配。


「私の歌が……何度も、喰われた相手です」


「リリスティアの眷属みたいなもんか」

 リゲロが目を細める。


「奴の糸をたぐる“中継点”だろうな」


 音喰らいが、指のようなものを鳴らす。


 ──音が消えた。


「……っ!?」


 ジージーは思わず喉を押さえた。

 声が出ない。


「声が……」

 ミナも口をぱくぱくさせるが、音が空気へ届かない。


 セルグレンの靴音も、

 リゲロが影を踏み出す足音も、全て無音。


 “完全な無音の世界”。


(やば……このままじゃ)


 思考が、妙にばらばらになっていく。


 そんな中──


 伸縮棍が、ひとりでに震えた。


 コツン、と、かすかな一拍。


(まだ……届く)


 ジージーは全身の力で棍を握り、足元を叩いた。


 トン。


 音は、出た。

 信じられないほど小さいけれど、確かに。


 音喰らいが、びくりと顔を向ける。


 巨大な耳が、ジージーの方を“聴いた”。


 


◆6 リゲロの“影”が喰われる


 影たちが一斉にジージーへ殺到する。


 黒い輪郭が、波のように押し寄せる。


「っ……!!」


 セルグレンが前に出る──が、

 盾に当たる“感触”はあるのに、衝突音がない。


 衝撃だけが身体を削っていく。


(まずい、リズムが狂う……!)


 音がないせいで、

 自分の動きのタイミングすら掴みづらい。


 そこへ──


 地面を走る影が、

 稲妻のように駆けた。


 リゲロの影術だ。


 無数の刃となって、輪郭たちの足を噛む。


 影たちはバランスを崩す──が。


 音喰らいの耳が、リゲロを向いた。


 黒い穴が、ぱくりと開く。


 “何か”が、リゲロの足元へ伸びた。


「……っぐ……!!?」


 リゲロの影が、引き抜かれた。


 足元から一本の“黒線”がずるずると剥がれ、

 音喰らいの口の中へ吸い込まれていく。


 影が喰われる。


 リゲロの身体から、血の気が引く。


「リゲロ!!」


 ジージーは叫ぼうとしたが、やはり声にならない。


 リゲロは膝をつき、

 必死に地面へ自分の“影”を取り戻そうとする。


 だが、影は空回り。

 いつものように形にならない。


(影が……俺の“音”が……)


 リゲロの目が揺れる。


 影走りのすべては、

 足音や呼吸、心臓の鼓動――

 自分の“拍”を影に通すことで成り立っている。


 その拍が、抜き取られつつあった。


(まずい……このままだと)


 リゲロは、初めて“恐怖”で指先を震わせた。


 音喰らいは、愉快そうに腕を広げる。


 黒い耳が、

 リゲロの鼓動だけを狙っている──そんな気がした。


 


◆7 リンネの歌、覚醒


 その時。


 静寂の中で、

 たったひとつだけ──別の“音”が生まれた。


 リンネが、歌った。


「──ぁ」


 最初の一音は、掠れていた。

 沈黙に押し潰されるような、小さな吐息。


 だが、彼女は諦めなかった。


 喉を押さえ、

 胸を張り、

 目を閉じる。


(歌姫長さまなら、こんなところで止まらない)


(ジージーさんたちも、ここまで声を守ってきた)


(わたしだって──)


 もう一度、音を出す。


「──ラ」


 今度は、少しだけ響いた。


 星鏡の時と同じ旋律。

 けれど、もっと深く、まっすぐな音。


 湖と、神殿と、自分自身を貫く音。


 沈黙の結界に、ひびが入った。


 音喰らいが、苛立つように耳を振る。


 リンネは、声を重ねた。


「ラ──ララ──」


 音は細い。

 だが、真っ直ぐだ。


 沈黙の世界に、一筋の“道”が通る。


 ジージーの耳にも届いた。


(……聞こえる)


 伸縮棍が震える。

 リンネの歌の“拍”に同調するように。


 ジージーは棍を振り上げた。


 トン。


 リンネの旋律の合間に、

 自分の拍を挟む。


 ラ──トン──ララ──トン──


 歌と拍が、混ざり始めた。


 空間の“無音”が剥がれていく。


 セルグレンの息づかいが戻る。

 ミナのふわりとした浮遊音が戻る。


 そして──


「……っは!」


 リゲロの胸の奥で、心臓がどくんと跳ねる音が自分で聞こえた。


(音が……戻ってきた……!)


 影が、一瞬だけ濃くなる。


 リゲロは地面に手を叩きつけるように触れた。


「影は──俺の“拍”から離れねぇんだよ!!」


 地面から、黒い牙が突き出た。


 


◆8 影走り、復帰


 リゲロの影が、

 音喰らいへ向かって鋭く駆けた。


 今度は、奪われない。


 リンネの歌と、ジージーの拍が、

 “影の拍”を守っている。


「《影双牙・改》──“沈黙噛み”!!」


 影の牙が、音喰らいの“耳”を噛み砕いた。


 耳の殻が裂け、

 黒い煙が漏れ出す。


 音喰らいが初めて、

 分かりやすい“悲鳴”をあげた。


 音が出た。


 ひゅううううう、と、

 中途半端な、くぐもった絶叫。


「よし、出るじゃねぇか音!!」


 リゲロが歯を見せる。


「だったら、遠慮なく黙らせてやるよ。

 “正しい静けさ”ってやつにな」


「ジージーさん!!」

 リンネが息継ぎの合間に叫ぶ。


「今です!! わたしの歌に……

 拍を、重ねて!!」


「了解!!」


 ジージーは伸縮棍を両手で握り、

 リンネの旋律にぴたりと合わせて、足元を踏み鳴らした。


 ラ──ララ──ソ──

 トン──トン──


 歌と拍が重なり、

 空間に“ひとつのリズム”が生まれる。


 ミナがそのリズムを霊体の幕に変え、

 セルグレンが盾の表面に刻む。


「音喰らい!!」


 ジージーは前へ出た。


「お前が飲み込んだ声は──返してもらう!!」


 伸縮棍が、

 リンネの歌と同じ拍で震える。


響音撃きょうおんげき

 ──解呪の連打アンチ・カデンツァ!!


 棍が空気を叩くたびに、

 音喰らいの身体から黒い“音の糸”がほどけていく。


 リゲロの影が糸を噛み切り、

 ミナが迷子の声を導き、

 セルグレンの盾が、最後の一撃を受け止める。


「うおおおおおッ!!」


 ジージーの一撃が、耳と口と喉の“穴”を貫いた。


 音喰らいの身体が砕ける。

 黒い砂となって、霧のように散った。


 次の瞬間──


 ホール中に、

 ささやき声や笑い声、練習の音階や外れた音程が、一気に溢れ出した。


「……みんなの、声だ」


 リンネの頬に、涙が一筋、こぼれた。


 


◆9 鎖に囚われた歌声


 音喰らいが消え、

 水晶球もひび割れ、崩れ落ちた。


 その背後に、

 さらに深く降りていく階段が現れる。


「……まだ、奥がある」


 セルグレンが息を整えながら言う。


「沈黙王は、ここが“門の前”だとでも言うつもりか」


「らしいな」

 リゲロが肩を回す。


「でも、音喰らいを潰したことで、

 ここに縛られてた声はかなり解放されたはずだ」


「上の街も、少しは息がしやすくなるでしょうねぇ」

 ミナがくるりと回る。


「ただ、本丸は──」


「まだ、沈黙してる」


 ジージーは、階段の方を見つめた。


 そこで、聞こえた。


 かすかな歌声。


 細い、細い。

 それでも、見覚えのあるワーダンの“祈りの歌”。


 リンネがはっと顔をあげる。


「……歌姫長さま」


 震える足で、階段の一段目に足を乗せる。


 降りた先の小さなホール。


 そこには、

 水の鎖で空中に縛り付けられた一人の女性がいた。


 長い水色の髪。

 閉じられた瞳。

 歌い手の衣装のまま、動かない。


 その喉元にだけ、うっすらと光る“封印”。


「歌姫長さま!!」


 リンネが走り出そうとするのを、

 セルグレンが慌てて止めた。


「待て、罠かもしれない!!」


 だが、ジージーには分かった。


 歌姫長の胸の奥から、

 かすかな“拍”が聞こえた。


(まだ、生きてる)


 伸縮棍が、それに共鳴するように震える。


「大丈夫。

 生きてる。まだ、間に合う」


 ジージーは一歩前へ出る。


 リンネが彼女の袖を掴んだ。


「……助けられますか?」


「助けるよ。絶対」


 ジージーは笑う。


「だってあたしたち、“支える勇者と仲間たち”だから」


 その時──

 ホールの最奥、さらに下へ続く闇から、

 ぞわりとした“視線”が這い上がってきた。


 声は、まだ聞こえない。

 けれど、はっきり分かる。


 沈黙王シレンスロードが、

 こちらを“聞きに来ている”。


(……来る)


 ジージーは、伸縮棍を構えた。


「鍵穴じゃなくて、蝶番へ。

 沈黙王、あんたの“拍の外し方”を──

 ちゃんと、直してあげる」


 湖底神殿の空気が、

 次の戦いの予感で静かに震えた。


 



◆次回予告


楽都ワーダン④ ― 沈黙王と鎖の歌姫


・歌姫長救出なるか

・沈黙王との初対面

・「声を奪う呪い」と「拍を守る勇者」の真正面衝突

・リンネ&リゲロの“合わせ技”、セルグレンの限界盾、ミナの魂リンク


次回、湖底神殿クライマックス。

拍を刻んで、待っててください。

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