表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/249

潮騒の巣を越えて


夜明けの港はまだ眠たげだったが、

ジージーたちの胸はもう、冒険の合図で満ちていた。


「……海って、思ったより怖いんだね」


ジージーが、桟橋の端で潮風に髪を揺らしつつつぶやく。

14歳の細腕。その指先に握られた杖(すでに短棒形態)。

小さく深呼吸して、前を見る。


帆船ではない。砂舟サンドスキフ

砂浜と浅瀬を滑り、そのまま海上へ出られる魔導船だ。


船頭の男が、片目で笑った。


「潮騒の巣の“手前”までは護ってやる。

そっから先は自分らでどうにかしな」


それは覚悟の確認。

ジージーは唾を飲み込み、うなずく。


「みんな……行くよ!」


「おう」「はい」「え、はいっ」


心強い声、少し情けない声、その間の声。

三者三様の返事が頼もしい。


影走りのリゲロは、

気配を薄めて帆柱の影に佇んでいる。

黒髪が濡れた風に揺れた。


「噂は本当らしい。

海峡には魔軍の尖兵スカウトが潜むってな」


聖盾士セルグレンは、

バックラーを腕に固定しながら静かに言う。


「ジージー。海上ではくれぐれも無茶はするな。

俺がお前を庇う位置から動かないように」


「えへへ、ありがとうセルグレン。でも――

私も戦えるよ、ちゃんと!」


「……知ってる」


照れくさく目をそらすセルグレン。

その横で、空へ伸びた帆が風を孕み、

砂舟はすうっと滑り出した。


 



海に出ると、霧が広がった。

耳を澄ませば、波間のどこかで――


ゴゴ……ゴウ……


低い震え。

巨大な生き物の鼓動にも似た、不気味な響き。


ミナが、ふわっと肩の後ろに現れた。

幽霊なのに、いつも通りマイペース。


「ねぇねぇ、海って……ねむってるときに呼ぶと、

とっても怒るんだよ。知ってた?」


「ミナちゃん……今それ言う?」


「うふふ、だからワクワクするの」


闇可愛い笑顔。こわい。

セルグレンは一瞬だけ身構えるが、

ミナはジージーたちにしか見えない。


 


帆の上、ランタンが明滅した。

影が揺れ、リゲロが呟く。


「来るぞ……」


 


波面から――

ヌウッ!?


藻のような身体、ぬめる皮膚。

細長い腕が伸び、船に絡みつく。


海魔シーヴァイン!」


船頭が叫ぶより先に、

ジージーが杖をくるりと回す。


「いける……【伸杖・形態変化】!」


握った杖が、瞬時に

如意棒のように伸びる!


セルグレンが前へ。


「ジージーの前は通させない!」


リゲロの影が二つに分裂し、

双剣が速度の二連撃で触腕を断つ。

しかし、海へ落ちたそれはすぐ再生し、

ぬめる音を立てて襲いかかる。


船が傾き――


「バランス崩すな! セルグレン、左!

リゲロ、右! 私が真ん中!」


ジージーの声は震えていた。

けれど――


怖いけど、みんなと一緒なら踏み出せる。


杖を振り上げ、海魔の中心へ叩き込む。


「【杖術:黎明れいめい】!」


眩い光の柱

海魔の体表を焼き、

攻撃と回復を兼ね備えた光が

仲間の傷にも触れて癒す。


「ジージー……す、すごいじゃないか!」


リゲロが素直に感嘆する。

セルグレンは背中を預けたまま、短く言う。


「成長早すぎだろ。

……誇らしいよ」


海魔は怯み、波へと沈む。


「今のうちに抜けるぞ!」


船頭の声。

砂舟は帆を大きく広げ、

渦潮の巣を迂回しつつ北へ。


霧が薄れ、朝の光が差し込む。


「やったぁ……!」


力が抜けたジージーの背中を

ミナがトントンと優しく叩いた。


「大丈夫。たのしいね」


「うん……ちょっと怖かったけど……

でも、みんながいたから!」


セルグレンとリゲロは、

その言葉に顔を見合わせて笑う。


 



彼方に島影。

岩の塔が空に突き刺さるようにそびえていた。


「あれが……風の塔……?」


ジージーの声は自然と小さくなる。

塔の周囲を、旋回する風が巻いているのが分かる。

そのはるか後方には山々が連なり――

星見の集落へと続く大地が待っている。


船頭が言う。


「ここからは危ない。“潮騒の巣”に近すぎる」


砂舟は滑るように停止。

船頭は指差した。


「ほら、海の“穴”だ」


ジージーは目を凝らす。

波のうねりが、一点へ向かって吸い込まれている。


渦潮。

海底に口を開けた巣穴。


ミナがぞくりとした声を漏らす。


「底にね、何かがひそんでる。

しずかな声で……たすけてって……」


「また怖いこと言ってる!」


いい意味で雰囲気を台無しにしながら、

セルグレンがジージーの肩を支える。


「大丈夫だ。俺たちがいる」


「うん……行くね」


ジージーは杖を抱えて海へ一歩――


その瞬間。


帆柱に吊るされた

共有収納鞄ポーチ

ぽんっと音を立てて膨らんだ。


「お?」


リゲロが開けると――


小瓶と手紙


ジージーは嬉しそうに受け取る。

瓶にはピンクの液体、キラキラのリボン。

手紙を開けば、丸い字。


『ジージーお姉ちゃん!

 元気で戦ってますか?

 ルーシー、すっごく頑張って回復薬作ったよ!

 味はたぶん大丈夫! たぶん!

 飲んでくれたら嬉しいなぁ!

 レーヌ湖畔勇気供給隊より✌︎』


「ふふ……ありがとう、みんな」


その一瞬で――

怖かった胸が、軽くなった。


「行こう。

風が待ってる!」


ジージーは強く、踏み出した。


 



【後方支援・サイド】


レーヌ湖畔公国。


マリーヌたちは、小さな拠点で

鞄を覗き込んで大はしゃぎ。


「届きましたわ! わたくしたちからの勇気が!」


テドラが安堵の息。

アーサーは眼鏡を押し上げる。


「回復薬の“味”はともかく、

精神面には大きな回復効果がありましょう」


「味、関係あるんだ……やっぱ!」


ルーシーがむきになり、

小瓶を握りしめて叫ぶ。


「絶対に成功させるんだからぁぁ!」


その声は――

海の向こう、仲間へ確かに届いていた。


 



潮騒の巣を抜け、

彼らは風の塔を目指して歩き出す。


霧の先で、誰かが見ていた。

人影。

耳が尖り、

薄藍色の布をまとい――


その瞳は、

ジージーの杖を

確かに見つめていた。


風がざわり。


「さぁ、新しい風をつかまえよう!」


ジージーの声が響き、

彼らの冒険はさらに北へ。


 


次なる行先は――


風鳴りの丘


夜明けの潮騒はもう遠く。

空には一筋の光路みちが伸びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ