勇者認定、異議あり。
◆前書き
太陽塔ヘリオポラにて。
魔法議会の眼前で、“勇者の証”があり得ぬ選択を下した。
転がるようにここまで来た少女ジージーに、
神器は呼応し──棍へと姿を変える。
大賢者たちの威厳が崩れる中、
混乱と動揺の渦中で、彼女は問われる。
「お前が勇者の器なのか?」
仲間セルグレンとリゲロは、
彼女の背を押し、言葉を残す。
「器を決めるのは、そいつじゃねぇ。
選んだ神器だ」
神々の選定は既に済んだ。
少女はまだ震えている。
それでも歩き出さなければならない。
果たしてジージーは、
“選ばれた名”を、すくい取れるのか──。
怒号が飛び交う議事堂の中心で、
ジージーは棍へ変じた神器を抱きしめるように立っていた。
大賢者ネイファスの震えを含んだ叫びが響く。
「勇者の器!?
あり得ぬ!
あの娘は、ただの“転がり者”だろうが!!」
セルグレンが氷のような声で応じた。
「器を決めるのは、貴殿らではない。
神器そのものだろう」
最長老マイラや周囲の賢者たちがざわりと揺れる。
リゲロは口元に笑みを刻む。
「歴史に名を残す賢者の言葉としては
随分と情けねえなァ。
“間違ってるのは神器だ”とは」
ネイファスが杖を高く掲げる。
「黙れっ!
神器は一度、審査を経て選ばれるもの!
魔力解析、適格性証明、
それらをすべて 通過した者だけ が勇者だ!!」
ジージーは小さく息を吸った。
「じゃあ──」
まっすぐネイファスを射抜く瞳。
「私がそれを“全部越えた”ってことになるんじゃないの?」
議事堂が、沈黙した。
セルグレンが肩を叩く。
「ジージー。もういい。
これ以上、ここで言い争うことはない」
リゲロが片目を細め、視線で出口を示す。
「“叡智の座”は耳を塞いだ。
なら、残る価値はねえ」
ネイファスは痙攣したように杖を向ける。
「連行しろ!
その神器、没収だ!!
再検査を──」
そのとき。
ゴッ
棍が、ジージーの手から
勝手に床を叩いた。
光が奔る。
賢者たちが一斉に怯んだ。
神器が示す意思──
庇護と拒絶。
ジージーはその意味を言葉にする。
「この子が言ってるよ。
“触るな”って」
セルグレンが軽く会釈し、
皮肉めいた礼節で告げた。
「本日はお招き、痛み入る。
だが我々は 勇者候補の任務がある。
失敬する」
リゲロが背中を向けたまま叫ぶ。
「門は開けとけよ、大賢者サマ。
次は“証明”しに来るからな」
ジージーは棍を抱き、
静かに議事堂をあとにした。
扉が閉まる前、
ネイファスの怒号が遠くで弾けた。
「待てぇぇぇッ!!
戻れ! 戻れええ──!」
だが、
もう届かない。
ただ、棍の心臓の鼓動だけが
小さく、確かに響いていた。
◆太陽塔・螺旋階段にて
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石造りの螺旋階段を、三人の足音が静かに降りていく。
議事堂の喧騒は遠ざかり、
代わりに、ジージーの鼓動だけが耳に残った。
セルグレンが横目で様子を窺う。
「……落ち着いたか?」
ジージーは棍を抱えたまま、小さく首を振る。
「わかんない。
だって……私なんかが……」
リゲロがくるりと前を歩きながら振り返り、
ニヤッと白い歯を見せた。
「“私なんか”って言葉、
一番似合わねぇのがジージーだぜ」
「で、でもさ。
勇者とか……私、違うし。
強くなんかないよ」
階段の途中、セルグレンが立ち止まる。
ジージーもつられて足を止める。
リゲロも煙たそうに眉をひそめ、戻ってきた。
セルグレンの声は穏やかだった。
「強さというのは
力の大小ではない」
ジージーが見上げる。
「心が折れなければ、
それで十分だ」
リゲロも肩を竦めて続く。
「お前が前に出て手ぇ伸ばすだけで、
救われた奴、何人いると思ってんだよ」
ジージーは視線を落とす。
棍が、指先の震えをそっと止めるように
ぬくもりを返した。
セルグレンがそれを見て、静かに微笑む。
「神器は、持ち主を選ぶ。
理由があるからだ」
リゲロが階段を降りながら、片手を上げた。
「ま、俺たちが保証してやるさ。
“選ばれたなら、歩くだけ” だって」
ジージーは喉の奥で言葉がつっかえた。
それでも、勇気を少しだけ乗せて呟く。
「……ありがと。
セルグレン。リゲロ」
セルグレンが軽く頷く。
「礼なら、これから幾らでも言え。
俺たちはこれから忙しくなる」
リゲロが指をポキポキ鳴らす。
「まずは補給と情報集めだな。
勇者一行って肩書き、
どう使ってやるか楽しみだ」
ジージーの不安はまだ完全には消えていない。
それでも──
二人が隣にいるだけで、
少しだけ前を向ける。
螺旋階段の先、扉の隙間から
陽光が差し込みはじめた。
“選ばれた理由”はまだわからない。
でも。
この光の先に、
仲間と歩く道が続いているのなら。
ジージーは棍を握り、
確かに一歩を踏み出した。
◆後書き
お読みいただきありがとうございます!
今回は
「勇者とは何か?」
を大賢者たちに突きつける回でした。
神器は、名声や血筋でもなく
ジージーの“折れぬ心”に応えました。
>英雄は生まれず、
選ばれた後に成るもの。
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