おばかなアタシと年上カレシ2 番外編
番外編が出てきたのでアップします。
アツム視点です。
「ったく! 面倒だなっ 」
俺は苛々しながら製図を直している。
一体何度目の直しなんだろうか。
「まーでも、お客さんだしねぇ。
で、今回の直しは? 」
川原は苦笑いをしながら、俺のパソコンを覗く。
「――今回は若夫婦サイドがキッチンを二階にも設置しろって。
ちょい広めの対面式のやつ……。
後は押入れをやめてウォークインクローゼットにして、子供部屋にロフト……」
「あれ? キッチンは昨日の話しにあがってなかったっけ?
結局『台所はひとつで間に合う!』とかなんとか……。
あと押入れにするのは満場一致だった気がしたけど? 」
川原は俺の座っている椅子の背もたれに手をかけて、首を傾げた。
「それが……嫁の方は不満だったらしいな。
昨日は義父が居たから言えなかったけど――てやつ」
俺は深いため息をついて、マウスをクリックする。
カチカチという音が俺のやる気をダウンさせているみたいだ。
「あー! 休憩 休憩! 」
とりあえずの目処が付いたので、俺は椅子から立ち上がり思い切り背伸びをした。
最近やたらと俺の仕事が忙しいのは、この依頼が来てからだ。
二世帯同居をしようとしている家族。
嫁のほうはプライベートが確立されるような家を望んでいるが、旦那の親は昔ながらの同居を夢見ている。
……そもそもこんなに考え方が違ってるのに、それを両者が望むような家作りをしなきゃならない。
どうしろってんだよ。そんなの。
旦那(息子)が間に入って、それなりに意見をまとめて来てるのならともかく、どっちにもいい顔をしてるもんだからしわ寄せが全部こっちにきてるのだ。
この仕事のお陰で俺のプライベートな時間まで削られている。
……仕事が終わったら、絶対取り損ねた分の休みを消化してやる。
***
「社長!
コーヒー淹れたから飲めよ」
川原が気を利かせてくれたらしく、ふわりとコーヒーのいい匂いが部屋中に広がった。
「ありがと……ってかお茶菓子がせんべい?
コーヒーにせんべいってなんだよ」
和洋折衷な組合わせに、俺は思わず苦笑いをする。
「まあいいじゃん?
それよりひなたちゃんは今週いっぱい休みなんだよな。
早く来週にならないかなぁ」
川原は星野ひなたのディスクを眺めて、かなりオーバーに肩を落とした。
「仕方ないだろ? 星野は法事なんだから。
それにそういうときじゃないと、まとまった休暇なんて取らないやつだしな」
俺はせんべいを一口かじる。
ばりっと子気味良い音がして、素朴なしょうゆの味が口の中に広がった。
「あー確かに。
ひなたちゃんって仕事の鬼だもんねー。
美人で頭良くて仕事バリバリこなしちゃうもんなぁ。
あ、でもそういうタイプって実は頼られるよりも頼りたいってのが多いんだって。
――俺もひなたちゃんに頼られてみたいなぁ。
ツンデレってやつ? いいなー」
「ツンデレねぇ……。
妄想する分にはかまわないけど、職場の雰囲気だけは気まずくするなよな?
俺やだぜ? 重苦しい雰囲気の中で仕事するの」
「あ、なんすかそれ。
俺が振られるって決め付けてません?
酷いなぁ。以外に俺、イケメンなんだけどなぁ。
王子様っぽいってよく言われるし! 」
川原はちょっと得意げに某イケメンキャラのポーズをとった。
「――あぁ。馬鹿王子ね」
――確かにこいつは黙っていればカッコいいと思う。
しかしそれはあくまで『黙っていれば』だ。
性格が三枚目なので、いくら容姿端麗であってもカッコいいヤツではなく『面白いヤツ』に分類される。
「ひっでー! なんすか! それ!
社長なんか『冷酷王子』のくせに~! 」
川原が色々言ってきたけど、無視してコーヒーを一口飲む。
……やっぱり、せんべいには合わないな。
俺はそう思いながら携帯を取り出すとメールを打った。
***
仕事中はプライベートなことは極力しないようにしている。
……今日は特別だ。
「あれ?
珍しいですね。携帯なんか取り出して」
「――まあな」
俺は適当な返事をして川原をやり過ごす。
「何々? もしかして彼女とのラブラブメール? 」
やり過ごしたはずの川原が目をきらきらと輝かせながら満面の笑みを浮かべた。
「――だったらどうすんだよ? 」
俺は質問を質問で返しながらメールを送信する。
「……んな訳ないか。
もし彼女とかだったら、そんなに短いメールな分けないもんなぁ」
川原はさもつまらなそうな顔をして、せんべいをかじった。
――悪かったな。
俺は心の中で悪態を付く。
俺のメールの相手は『彼女』だ。
昨日具合が悪そうだったから早く帰れと言ったものの、それから音沙汰がない。
――飽きられてしまったか?
そんなことをふと考えると、なぜかこめかみの辺りがひりひりと痛んだ。
最近は特に忙しくて以前よりもかまってあげれていない。
そもそも俺よりずいぶん年下の女子高生。
仕事ばかりの俺と遊ぶことに忙しくて仕方のない年頃のヤツと釣り合わないって事くらい100も承知だ。
――その、筈だったんだけどな……。
***
メールを送ってすぐ、俺の携帯が震える。
画面を見ると『Eメール着信1件』と表示されていた。
開いてみると俺の彼女――咲からのメールだった。
……やっぱり体調が悪かったのか。
咲がどう言おうと、家まで送ればよかったな……。
そう思いながら返信メールを打っていると、再びメールを受信した。
――咲からだ。
開いて見るとそこには――。
……。
俺は自分のディスクに座ると、短く返信をした。
自分ではどうにも出来ないほど頬が緩んでいるのが分かる。
多分、俺。今どうしようもない顔してんだろうな……。
川原に気が付かれると面倒くさいので、俺はまた仕事に取り掛かった。
――彼女のメールは以外にシンプルだ。
女子高生だが、絵文字のひとつも入れていない。
きっと俺に合わせてくれてるんだろう。
咲のそういった細やかな気遣いに、俺は年甲斐も無くどきりとしてしまう。
出会いは本当に偶然だった。
電車でたまに見かける女子高生が落とした財布。
その事が無ければ今みたいな関係には成り得ない訳なのだから。
人生ってやつは本当に不思議だ。
――今度休みが取れたら、咲の喜びそうなところに連れて行ってやろう――。
俺は咲の可愛らしい笑顔を思い浮かべながら、マウスをクリックした。
end




