昨日のハナシ
「おはようー」
後ろから声を掛けられて、振り向くとそこにはチアキがいた。
「おはよー」
アタシは下駄箱から上靴を取り出しながら言う。
チアキはアタシの顔を覗き込んで言った。
「ん? なに?
寝不足? ちょっと目の下にくまが出来てるけど? 」
「え? ホント? 」
アタシは目の下の所を指でこする。
「またカレシの電話でも待ってたの? 」
「そうじゃないけど……。
早く朝にならないかなーって思ってたら、寝れなくて……」
「なるほどー。
じゃあ、今日もデートなんだ」
「え?! なんで分かるの?? 」
アタシが驚いていると、チアキはアタシのおでこを指で押しながら
「咲が夜更かしするのって、対外カレシがらみだし! 」と言った。
た、確かに。
否定は……出来ないけど――。
アタシは押されたおでこを手で押さえながら、チアキを睨んだ。
でも、チアキはそんなの気にする様子もなくて、
そのまま教室へと歩き始める。
「あ、そーだ」
急に振り向くと、チアキは一言
「寝ぼけてセンセーに抱きつかないように! 」とアタシに注意する。
「!!!っ
そ、そんなことしないって!! 」
アタシは昨日センセーに抱きついちゃったことを思い出して、今さらだけど恥ずかしさに顔を赤くした。
「ねえ、綾実は? 」
アタシは教室を見渡しながらチアキに聞いた。
彼女は毎日朝練があって、この時間ならとっくに教室に居るはず。
なのに、今日はなぜかその姿が見あたらなかった。
「あれ? そういえば居ないね。
……かばんもないみたいだし。
今日休みなのかな? 」
チアキは少し首をかしげながら言う。
休み?
「綾実に言いたいことあったのになぁ」
ぽつりと独り言を言うと、チアキは目ざとく「なに何? 」と身を乗り出して聞いてきた。
「え?
あー、えーっと。
そんなにすごいことじゃないんだけど、
一応言っておかないとなーって思って。
こじれたりすると、ちょっとめんどいし」
「こじれるってことは、先生がらみのこと??
こじれる前にとりあえず、このチアキちゃんに言いなさい! 」
「そんな目を輝かせなくてもいいって。
たいした話じゃないし。
んーっと。
昨日、アタシ、カレシの家に行くことになっててね――」
「はあ?!
なにそれ!!
聞いてないし!! 」
チアキはとたんにむすっとした顔になった。
「後で報告しようと思ってたんだってば。
大体最初に言うと、チアキってば事あるごとにニヤニヤしてそうだし」
「う……
確かにそれは否定できない、かも。
――まあいいや。
で?
彼氏の家に行ってそれから?? 」
「カレシのマンションのエントランスまで行ったんだけど、急に仕事が入って会社に行っちゃってて。
で、仕方なくエントランスで待ってたの。
そしたら犬を抱いた変なおばさんに絡まれちゃって。
困ってたらそこに佐藤センセーが偶然現れて――」
「はあ?? 」
「助けてもらって、ついでにセンセーの家でお昼をご馳走になって。
そうしているうちに、カレシからメールで『仕事が長引くから帰れ』って言われて。
で、家に帰ったの」
昨日のことを簡単に掻い摘んで説明してみたけど、
チアキは口をぽかんと開けたまま固まっていた。
「チアキ? どうしたの? 」
「……ど、どうしてそんなぐーぜんが??!!
しかもなんで先生の家でお昼をご馳走してもらってんのよ! 」
そう言うとチアキは眉間にしわを寄せる。
「でも確かに。
綾実にちゃんと言っておかないと、これは――間違いなくこじれるね」
アタシたちは顔を見合わせて、深くため息をついた。




