茶碗蒸し
本日も2話投稿予定
毎日毎日、エリナ姉がギルドに採取を依頼した外殻付きの銀杏が届き、その選別が無限すぎてげんなりしている。
次から次に届く銀杏。宿の人もその量と悪臭に疲弊し、使っていない別館を一棟私達旅団に、貸してくれることになった。
別館の庭で、選別作業をしている私。もう鼻の感覚は麻痺してしまっている。
銀杏の悪臭って、強力で手についたら洗っても取れないから、作業が終わった夜でさえ臭う。
何なら、体中から銀杏の悪臭がにじみ出ている気さえしてくる。
「あー、もうヤダ。銀杏見たくない。もうやめたい」私が庭でだだをこねていると、
「仕方ないわね、もう少ししたら昼だからがんばって。今日の昼はキスグの好物、茶碗蒸しよ」
エリナ姉は、宿のテラスでお茶を飲みながら、ギルドから回収した銀杏の詳細な報告書をまとめている。
これまで、何袋選別したか私はわからないけど、エリナ姉は地域、気候、取った時期、臭いの強さ、銀杏の色、大きさなどなど、詳細に記録しているようだ。
エリナ姉は、植物からとれる効果を調べ、新薬を開発することが趣味だ。
今は趣味の領域だが、将来は薬のエキスパートを目指しているらしい。
「よし、もうひと頑張り」きらきらした目で、報告書をまとめているエリナ姉を見ていたら、私もやる気が出てきた。
ついでにヨハンは、隣でハンマーの素振りしている、正直ウザい。
先週、修理に出していたハンマーが、修理完了したと知らせを受け、鍛冶屋に取りに行った。
ボロボロだったハンマーは、新品同様の光を放っており、付与された自動修繕効果のおかげでいつでも新品の輝き。
「・・・・。」
ハンマーを受け取った時、嬉しすぎて、ちょっと涙目になってるヨハン初めて見た。
もう一つの、魔力離散の効果は、まだ魔物と対峙していないので検証できていないが、ハンマーを使いたくて、うずうずしているのが、またウザい。
「エリナ様、お昼の食事が準備できました」宿の給仕さんが知らせに来てくれた。
私、エリナ姉、ヨハンは食堂に移動した。
食堂に着くと、ザ和食のお昼ご飯。ちらし寿司に、味噌かけ豆腐田楽。わかめの酢の物、茶碗蒸しだ。
私の好物の茶碗蒸し。アツアツの容器に入った茶碗蒸しの蓋を開けると、湯気が立ちのぼり、プルンとした黄金色が私を誘っている。たまらず小さなスプーンで持ち上げると、ふるふると小動物のようにゆれる断面。パクリと口に含むと、アツアツのやさしい卵が溶けてなくなった。口には上品なお出しの味が余韻を楽しませてくれる。
茶碗蒸しの醍醐味は、中に入っている具材。ぷるんと揺れる茶碗蒸しに、奥の方までスプーンを刺し、鶏肉、シイタケ、エビ、練り物、銀杏が入っていた。
銀杏は、私たちが宿に無料で提供している。大量の銀杏、私達だけでは食べきれない。宿の人からは喜ばれ、連日銀杏の料理が提供されている。
私がおいしい茶碗蒸しを堪能していると、エリナ姉が
「ねえ、キスグ、銀杏の千豆も10個になったわ。そろそろ人体実験しようと思うの。つきあってね」
ぎく!その、お買い物付き合ってのノリで、人体実験しようとするのやめてー、私を巻き込むのもやめてー。
「もう、準備はお願いしてあるの。1件目はここ辺境伯の奥様。難病を患い、床に臥せてらっしゃるんだって、銀杏の千豆を食べてもらうわ。キスグは食べた前と、食べた後に奥様に噛みついてね」ウインクされた。
「私のアイテムボックスは詳細はわからないよ。鑑定士のほうがいいよね」
「もちろん、鑑定士も、お医者さんも呼ぶわ。でも、キスグのアイテムボックスだもの、鑑定士ではわからないことが表示されるかもしれないでしょ。美味しいお菓子も用意してくれるそうよ」また、ウインクされた。
「なら、仕方ない。1件目って事は、2件目もあるの」
「そう、2件目は、炊き出しよ。銀杏の千豆をそのまま一粒食べるのではなくて、カレーに入れて、潰して食べる。一粒でしか効果がないのか、つぶして拡散しても効果があるのかの検証ね。
辺境伯さまには、奥様が回復したら実験していいと了承を得ているの。もちろん、カレーを食べる人には事前に、詳細は伏せるけど実験だと告知するわよ。それでも食べたいと言う人だけ、食べてもらうわ。
本当はいろんな料理や、千豆の量を調節して実験したいけど、銀杏の匂いと味をごまかせないし、千豆の量にも限るがあるしね、仕方ないの。
キスグには、料理を食べるすべての人の、食べる前、食べた後の腕に噛みついてもらうわ」
「いやいや、2件目は仕方なくないからね。私は何人の腕に噛みつくのさ。無理、やだよ。食べた人に噛みつくことはなんて説明するの?」
「キスグの趣味よ」
すました顔で、ほざきやがった!
「無理、ヤダ。私だけ理不尽だ!」
「キスグ、この実験が成功して、みんなが健康になればWiNWiNじゃない。キスグが噛みつくことで、未来で誰かが助かるの。最高じゃない」きらきらした目で、エリナ姉が訴える。
エリナ姉の薬にかける信念はそこなんだろうね。私のWiNは…。仕方ないか。
「わかった。やるよ。でも、高級なガトーショコラを所望する」
「交渉成立ね。辺境伯家には明日行くから、今日中に残りの銀杏選別終わらせてしまいましょ」
やっぱり、理不尽だ~。
吉宗の茶碗蒸しが好きです。




