エピローグ
「今回は盛大に扱き使ってくれたわね」
喫茶店でカウンターに座るエリーゼに言う。
「それに、またアレクさんを利用してるし、彼に悪いという気持ちはないの?」
「まぁ落ち着いて、レナさん。私は大丈夫だから」
「アレクさんは黙ってて。彼女にはちゃんと言ってやらないと」
アレクもカウンター席に座り、朝のひと時を過ごしていた。
「ど、どうしようもなかったんだって。今回は王女として立ち回ってたから、下手に動きづらかったし」
「にしても多すぎでしょう。バレないように学園での彼の生活パターンを観察し。人間関係を調べ。どんな性格か探る。それも毎日毎日。暇な時間ほとんどなかったんだけど?」
「ま、まぁ……。学園の制服着れてよかった、ね?」
何とか誤魔化せないかと、エリーゼはわざとらしく笑みを張り付けていた。
「今更制服着たところで何も思わないわよ」
「で、ですよねー……」
「しかも今回、ターゲットの元婚約者とかいう女性たちの所まで行かされるし、あなたと自然に会うためのタイミングの調整も必要だったし。かなり大変だったんだけど?」
グチグチグチグチと責め立てる。迷惑をかけたのは事実なため、エリーゼは何も言えず小さく縮こまってしまった。
「そもそも、あなた昔の自分をずっと嫌っていたじゃない。どうしてわざわざ使ったの? バカなの?」
「どうでしょうかー……そのー……。あの時はベストだ、って思っちゃいまして……。へへっ……」
見下すような視線のレナに、頭を触りながら言い訳がましく理由を話す。
「で?」
「で? とは?」
「本当のところはどうだったのよ?」
先ほどまでの鋭い視線が止み真面目な様子で聞いてきたので、エリーゼも今までのふざけた様子を止める。
「……彼の興味を引くには普通の貴族じゃ足りなかった。なら、それ以上の身分をとなると、王族しか思い浮かばなかった。王族を名乗るなら、名乗っても問題ない国を言う必要がある。そんな都合のいい国となると、あの国しかなかった」
すでに滅びた国のルイン。エリーゼの故郷の国。
「あの国を名乗るんだったら別に誰でもよかったけど、丁度語りやすい人物がいたからね。そのまま利用しただけ。あの姿の時王妃教育も受けてたから、王族の真似事はできるしね」
たまたま思いついたから。ただの偶然だと説明する。
「嫌いだと言っても、仕事に関わるなら文句は言わないよ。使える物は何でも使う。昔の自分だと何だろうと」
「そういう人だったわね、あなたは」
「そそ。だからそんなに深い理由はないよ。……あ、そうだアレク。元婚約者たちの様子ってどうなってる?」
レナへの説明を終えると、急に話の向きをぐるりと変えアレクへと振る。あまりな話の振り方に、彼は肩をすくめていた。
「あの時宣言したように、今は王家の庇護下にある。グラスター公爵が手を出せないように見張っているよ」
「ならよかった」
「あと、グラスター公爵が息子の行為を隠すため相手を脅していたという確認が取れたよ。彼は優秀だったけど、こうなると財務長官から降りてもらうしかない」
息子のことを知った上で隠していたのだ。不正を冒しても平然と隠す可能性がある。そう思われグラスター公爵の信用は地に落ちた。そのような人物には国の仕事を任せれない。二度と国の要職に就くことはないだろう。
「グラスター公爵令息だが、彼は今牢屋にいる。こちらも暴行をしたという裏が取れたから、暫くはそこで過ごすことになる」
牢に入れられている以上、罪を犯したと周りから見られる。たとえ牢から出てきたとしても、元犯罪者という評価は覆ることはない。今までのようなことは二度とできないだろう。
「それで?」
「というと?」
「まだ言うことあるでしょう? 会場であんな姿晒してたんだから」
「う……まぁ……。隠すつもりはなかったけど……」
レナを含めた知り合いがいる大勢の前で、あんな感情むき出しの姿を見せてしまった。エリーゼとしては恥ずかしいので、話題に上げたくなかったのだ。
「彼には昔婚約者がいて、その婚約者に騙されてお金を盗まれたらしいんだよ。しかも、盗んだお金とともに彼女は行方不明という……」
「それって……」
「うん。私もそう思って話を聞いたんだけど、場所を特定するような情報はなくてね。それ以上の進展はなかったよ」
残念だ、と両手を広げながら大げさに見せる。
「それが君の言う例の女なら、この国が生まれということだけはわかったんじゃないか?」
「そうだけど、わかったところでね……。彼女の両親は捕まっててすでに家はないし、わざわざこの国に戻ってくる意味もないよね」
「それもそうよね……」
「……ただ、大した情報じゃないけど一つだけ成果はあったかな」
「それは?」
何かとエリーゼに問う。
「メアリ。その女の名前」
「メアリ……」
「その女が当人か関係者かはわからないけどね。おまけに本名だとしても、普段は偽名を使ってるだろうし」
情報としては意味がないと伝える。
「だけど、私には意味があった。この気持ちを忘れないためにもね……」
エリーゼは喜んでいる。心の底から。過去の出来事とはいえ情報が出てきたことに。こうして仕事を続けていれば、いずれ情報を手に入れられることがわかったから。
「だから、私は続けるよ」
この仕事を。あの女を見つけ出し、いつか復讐をするまで。自分と同じ、いやそれ以上の苦しみを味わわせるために。
「さてと。そろそろ時間だから、私は行くね」
エリーゼは立ち上がり、喫茶店を出ようとする。
「あ、そうだ。今までの分払っとくね」
ドアの前まで来たところで急に思い出して、カウンターまで戻り今までまけてもらっていた喫茶店での代金をまとめて払う。
「じゃあ、今度こそ行ってくるね」
エリーゼは元気よく喫茶店を出ていった。
それを二人は心配そうに見つめていた。
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王都の道を鼻歌交じりに軽い足取りで進んで行く。いつものように待ち合わせ場所まで向かうと、いつものように友人が先に待っていた。
「エリーゼさん、楽しそうねぇ」
「そう見える?」
「えぇ。それはもう」
嬉しさを抑えきれていないのか、周りから見ても簡単にわかるようだ。
「ちょっといいことがあったからね」
「なにかしらぁ?」
「今まで見つからないと思っていたものが、ようやく見つかった感じかな」
「あらぁ。確かにそれは嬉しいわぁ」
「そう。とっても、とーっても嬉しいの」
エリーゼは今までにないくらい上機嫌だった。少しの情報が見つかっただけにも関わらずだ。
ならば、復讐対象の居場所がわかったら彼女はどうなるのだろうか。
それは誰にもわからない――
これにて四章完結です。
また二日に1話に戻ります。




