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彼の過去2

 それからフェリックは女性と付き合い始める。偶然出かけた先で知り合った女だ。こちらの顔が悪くないと感じたのか、こちらから提案したものの簡単に受け入れられた。


 そして、ある程度仲良くなった段階で婚約の話を持ち上げる。相手側は断ることもなく、すんなりと合意に至った。


 後は簡単だ。ここに至るまでに築いた関係がある。命令し相手を奴隷のように扱おうと女は文句を言わない。しかも、ストレス発散のため多少手荒な真似をしたところで、最後に愛を囁けば簡単に元通りだ。


 そうしてぼろきれになるまで使用して、捨てる。女との婚約を破棄して綺麗さっぱり関係を切る。相手が泣いてわめこうと、心や体に傷がつこうと知ったことではない。


 そして予想通りではあったが、婚約を破棄したという噂が出ることはなかった。外聞を気にする父が、自身の立場を利用してもみ消したのだろう。脅したのか金を握らしたのかはわからないが。


 後のことを気にする必要がなくなり、フェリックは安心して何度も婚約を繰り返す。そしていらなくなったら捨てる。相手が騙そうとするのだから、こちらが騙してもいいだろう。



 そして、フェリックは15歳になり、貴族のみが集まるメレジーナ貴族学園に入学した。相変わらず女を取り換えることは続けているが、何も問題はない。事実はもみ消され、誰にも知られることはないためだ。


 学園に入学して数日過ごしていると、ふとガラス張りの施設を見つけた。何の建物か気になり中に入ってみると、たくさんの花が植えられ咲いていた。どうやら学園が管理する園芸施設のようで、地域や季節など関係なく色々な花があった。


 施設の中を見て回っていると、ある花が目に入った。名前はアカライというらしい。赤色で花は下を向いていて、中心の花弁の周りには5枚の萼片がくへんがついている。初めて名前を知ったが、この花だけは忘れるはずもない。――自分を陥れた女に贈られた花なのだから。


 彼女と別れてから何年も過ぎ、女を使って楽しんではいるが復讐心は薄れ始めていた。けれど、この花を見て再び自分の中で燃え上ってきた。この場所は自分にとって、ある意味運命の出会いともいえる。自分の憎しみの炎を絶やさないためにも、この場所へ通うことを決めた。


 それから数年が経った頃、学園に他国から留学生が来た。名前をエリザと言い、その身分は王女だそうだ。


 他国の王族というものを見たことがなかったため、少し興味はあった。けれど、周りには他の生徒も集まっているので、わざわざ自分から近づこうとは思わない。自分には便利な犬もいることだし、特に困ってはいない。結局、自分には縁がなさそうな相手だと考えていた。



 昼食後、いつものようにあの花を目に焼き付けるべく園芸施設へと向かうと、普段は誰もいないその場所に人影がいた。人がいること自体も驚いたが、その人物自体にも驚いた。今話題となっている人物、エリザ王女だ。彼女は目の前の花に夢中になり、こちらが入ってきたことに気付いていないようだ。


 偶然とはいえこれはまたとない機会。せっかくだし話してみようと考えた。


 彼女の邪魔をしないように、ゆっくりと近づいていく。すぐそばに来ても彼女は気づかないため、なるべく驚かせないよう静かで柔らかな声で話しかける。しかし残念ながら、彼女を驚かせることになってしまった。


 彼女は花が好きなようで、偶然この場所を見つけ入ったらしい。彼女の国にも花がたくさんあるようだし、それも当然だとも思えた。そして話をしていると、せっかくの機会ということで学園の案内を頼まれた。彼女をさらに知るいい機会と考え、その申し出を承諾した。


 放課後に王女を案内していると、現婚約者がこちらへと向かってきた。自分に違う女がいて不安になったのだろう。王女を案内しているだけと説明すると、一応納得して離れていった。


 あの女は従順で何でも言うことを聞くから便利ではあるが、他の女といると常に理由を聞いてきて鬱陶しかった。便利だから使っているし、まだまだ使用期限は残ってそうだが、そろそろ捨ててもいいかもしれない。



 その日以来、王女とは園芸施設で何度も会っていた。好きなもの嫌いなものといった個人の話から、どんな国でどんなものがあったのか。お互いのことを話し合って、彼女の信頼を少しは得られたと感じていた。


 そんな世間話をしていて、ある時過去のことを話すことになった。彼女は過去に花畑が見える場所に連れていってもらい、その光景に心を打たれた。だから今こうして花が好きになったと。


 人によってはいい話なのかもしれないが、自分は何も感じなかった。自分にとって花は憎むべきもの。幸せを感じるようなものではないからだ。



 それからさらに数日が過ぎ、彼女から王都を見たいという提案があった。留学に来た以上、学園だけではなく王都も見ていきたいそうだ。しかも、その案内を自分に任せたいと。


 これは彼女の心を掴むいい機会じゃないかと考えた。そろそろ今の犬も捨てようと考えていたし、別の相手を探そうと思っていたところだ。相手が王女ともなれば身分に問題はない上、権力も都合よく利用できるかもしれない。最終的には跡継ぎも作らないといけないから、この王女を最後の婚約相手にすることを決めた。


 彼女に問題ないと返事を返し、王都の案内プランを立てる。有名どころからあまり知られていないところまで。何か所か場所を選んでいくが、最後に行く場所だけはすぐに決まった。



 こうして彼女との王都巡りの日となった。彼女は意外にもただの少女のような服装をしていたが、元がいいのかそれでも似合っていた。彼女の姿に驚きつつも、王都巡りを始める。


 案内は時計塔から始まり、いくつも有名な場所を回っていく。彼女の様子を見ると楽しそうにしているため、今のところ順調に進んでいるようだ。


 途中、用意していた暴漢のような男を使い、彼女を助けるナイトを演出する。助けられた彼女が向ける視線に少し色が見えたため、自分を意識させることに成功したことを確信した。


 そして最後には、彼女が好きであろう花が咲き誇る庭園へ連れていく。涙は流さないものの感極まっていたようで、とても嬉しそうにしていた。まだまだそれは序の口で、フェリックは奥へと案内する。


 一度来て確認したところとっておきの場所があったため、その場所へと誘導する。段差を上った先にある丘の上からは、庭園の花畑を一望できる。彼女の中にある忘れられない記憶を思い出させることができるだろう。果たして、彼女は予想通り言葉少なに喜びを表していた。


 感動の余韻を味わわせるため、暫くは静かにしていた。後はどこかタイミングを見て、彼女へ婚約の話を持っていくのみ。


 すると、自分ではなく彼女が口を開いた。話としては、国に帰ると嫌な婚約者と一緒にならないといけない。留学に来たのはそれから逃げるためだったが、そうも言ってられない。自由な恋愛をしたかったが、王女の義務として婚約する必要がある。相槌を打ちながら内容をかみ砕くとそんなところだった。


 夕暮れを見つめる彼女の目からは涙が零れていた。その心には諦めがあって、絶望を感じているように見えた。なら、それを覆すことのできる可能性をこちらから提示すれば、彼女は乗ってくるだろう。


 彼女に自分との婚約を提案する。当然王女として簡単に頷けないが、こちらも利益を提示していく。彼女も一定の納得はできたようだが、やはり王女として簡単には認められない。


 そこで、彼女に自分のことをどう思っているか感情で問いかける。昼間の様子を見ている限り、彼女はこちらに完全な好意を向けていることが分かっていた。だから、単に気持ちを問いかければ、問題なく頷くと判断した。


 結果、彼女は婚約すると決めてくれた。順調に進みすぎて笑いが止まらなかったが、必死に堪えて彼女に予定を話す。


 決行日は二週間後の学園主催のパーティ。そこであの犬とおさらばし、彼女との婚約が決まることになる。そこで発表するのは、当然王家にも伝えるため。あの犬はあれで使い勝手はよかったが、残念ながら王女には及ばないだろう。


 これからのことを考えてか、自然と口の端に笑みが零れていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 二週間が経ち、学園が主催するパーティの日がやってきた。会場には学園の生徒達やその関係者で溢れていて、料理に舌鼓を打ちながら会話に興じている。話の中心は、やはり来賓としてきている王家や要人についてとなるだろう。彼らの目に留まることができれば国の要職に就くことができ、出世も間違いないからだ。


 そのため生徒たちは彼らと関係を持ちたいと考えていたが、それは来賓側も同じだった。彼らも将来の重要人物となりうる生徒を見つけ、自分の部署へ引き入れたいと考えている。この場はお互いにとって、関係を持つための大事な機会となっていた。


 さて、当然ながらこの場にエリーゼもいる。この国の運営などに関係ないため、学園の一生徒として純粋にパーティを楽しむために来ていると思われている。しかし、実際はこのパーティで盛大なイベントが行われるため。フェリックに対して最後の仕上げをするためだ。



 パーティも半ばになり、挨拶周りも一段落して落ち着き始めた頃。ようやく一人になったとばかりに、嬉しそうにして駆けてくる少女がいた。


「フェリック。ようやく終わったのね」


 声の方を向くと、そこにはミリアの姿があった。


「これは丁度いい。君に話があったんだ」


「私に……? 話って何かな?」


 彼女は何を言われるのかと不思議そうな顔をしている。


「別に大した話じゃない」


 勿体つけるように言う。


「――君との婚約を破棄させてもらう。……ただそれだけだよ」

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