お互いの過去
あの日以来、彼と話す機会はだんだんと増えていった。それはエリーゼがいることを知っても彼は変わらずこの園芸施設に来るので、何度も会っているため。おかげで彼の少し残っていた警戒心はなくなったようで、エリーゼには気を許した様子を見せていた。
「そういえば、エリザさんってどんな子供だったのですか?」
すでに何度も会って気さくな関係になった頃。施設内の椅子に二人で座りながら会話をしていると、彼がそんなことを尋ねてきた。
「私の子供の頃ですか? 聞いても面白いものでもないですよ?」
「いや、そんなことないですよ。少なくとも気になります、僕は」
……確かに相手の考えを意のままに操ろうとするなら、気になるだろうね。
どんな人物かを計るためにも、相手の情報は大事だ。特に子供の頃の情報はバカにならない。何があって、どんな考え方になったかを知れば、その人物の思考を誘導しやすくなるためだ。
「そうですね……」
自分の子供の頃を思い返す。
「母から聞いた話ですが、私は小さい頃はかなりお転婆な子供だったそうです」
「エリザさんがお転婆? 全然そう見えませんね」
「えぇ。この話をすると皆に言われます」
そりゃ、あんたには外向きの姿しか見せてないしね。
「色んな所を勝手に歩き回って、物を壊したり転んで泣き出したりして、とても手がかかる子供だったと言われました」
そんな手がかかる子供を一生懸命育ててくれた。両親にはかなり迷惑をかけたと思っている。
「そんな私ですがある時少し嫌なことがあって、落ち込んでしまい家から出れなくなったことがありました」
「家……?」
「あ、いえ。お城のことです」
「あぁ、なるほど」
あぶなっ! 王女なのをうっかりしてた……。
何とか誤魔化せて一息つき、続けて口を開く。
「そんな時、母が私に元気を出させるため、ある場所に連れて行ってくれたんです」
今でも忘れることのない、懐かしい思い出。
「国から少し離れた場所にある小さな丘。その場所に連れて行ってくれた母は、丘の上まで登って向こうを見るように言いました。母の言うとおりに見れば、地面に隙間なく咲いた一面の花畑があったのです」
白や赤、ピンクや紫といった色とりどりの花が咲き誇り、綺麗でとても幻想的な光景に感じられた。
「それを見た私は言葉を失いました。国ではどこを歩いても花が目に入りますが、全く興味がなく何とも思っていなかったのです。けれどその美しい光景を見て考えが変わり、今まで何とも思っていなかった花を素晴らしいものと思うようになりました」
「なるほど、それがエリザさんが花を好きになった理由ですか」
相手の考えを知りたがる彼を納得させることはできたようだ。
「その日から私は国に咲いている花を見る目が変わりました。それぞれの種類に興味がわいて、調べ始めたりもしました。そのおかげか、全てとは言えませんが、今ならある程度の花については知っているつもりです」
自分をあの場所に連れ出してくれた母には感謝してもしきれない。
「いい母親なんですね」
「えぇ、自慢の母親です」
けれど、すでにこの世にはいない。感謝したくてもすることができないのだ。
「ところで、あなたはどうなのですか?」
「僕ですか?」
このままだと暗い気持ちになり依頼に影響が出てきそうなため、話をフェリックへと振る。
「私だけ一方的にというのも悔しいじゃないですか」
「そんな理由ですか……」
彼は苦笑いをしていた。
「どんな子供だったのか、せっかくだし聞かせてください」
「別に大した子供じゃなかったですよ。普通のどこにでもいるような貴族の子供でした」
そうして彼は話してくれた。普通に貴族の跡取りとして生まれ、普通に成長してきた。小さい頃に許嫁がいて婚約していたようだが、すでにその話はなくなっている。
「その……どうして婚約の話がなくなったのでしょうか?」
「そんなに深い意味はないですよ。相手側が解消したいと申し出てきたので立ち消えただけです」
「そうですか……」
その話は初耳だね。彼が婚約の破棄を続ける理由はそこにあったりして……。まぁ、理由があったとしても、女性を弄ぶための免罪符にはならないけど。
「僕の話はこれぐらいですよ。ね、大して面白くもないでしょう?」
「いえいえ、フェリックの話は大変興味深かったですよ」
「それはよかったです。……と、そろそろ時間ですね」
彼は施設内に備え付けられてある時計を見て、昼休憩が終わる時間だと指摘する。
「あら、そうですね。それじゃあお先にどうぞ」
「いつもすみません。失礼します」
ここを立ち去るときは二人同時に出ないように気を付けていた。そのため、いつも彼が先に出るようになっていた。
彼は椅子から立ち上がり、一人扉の外へと出た。それを見届けつつも、エリーゼは座りながら考えていた。
今日でかなり進展した気がする。思った以上の収穫かな。
過去を話したことで、彼は王女の一面を知ることができた。
他人が知らない王女の一面を知っているという優越感、特別感を味わわせることで、彼からの信頼は確かなものとなった。
さらに、彼の過去の情報も得ることができた。
予想以上の成果にエリーゼはご満悦だ。
後は雰囲気が出る場所に行って、彼に婚約の言葉を告げさせればいけそうかな。
エリーゼは足をバタバタさせながらそんなことを考えていた。
カーン、コーン……
あ、やば……。時間に遅れる……。
王女様が盛大に遅刻とか話にならない。エリーゼは慌てて立ち上がり、周囲の目に気をつけながら急いで教室へと走っていった。




