エピローグ
「あーあ、今回は最悪だったよ」
珍しく休日にレナたちのいる喫茶店へ来たエリーゼは、先日の依頼について愚痴をこぼしていた。
「愛し合ってた二人の仲を裂くことになったし、あんな結末だから依頼主から残りの報酬も貰いそびれたしで散々だったよ。ほんと骨折り損だった」
「あなたにしたら珍しい失敗ね。手を抜きすぎてたんじゃないの?」
「それはない。ちゃんと真面目にしてたよ、依頼を受けた以上はね。……まぁ、最後少し気を抜いていたのは言い訳できないけど……」
レナはカウンター裏で食器を拭きながら、エリーゼの言葉を聞いていた。
「しかも、休日を返上した上お気に入りの場所までわざわざ連れて行ったし……。秘密のスポットを知る人が増えてしまったし。……今回損しかしてない」
カウンターのテーブルにぐたーっと突っ伏して、疲れた様子を見せていた。
「その秘密のスポットって何よ? 私初めて聞いたんだけど?」
気になった単語が耳に入ってきたので、レナが問いかける。
「あれ? 言ったことなかったっけ?」
「知らないわよ」
「ふーん。じゃあ今度連れて行ってあげる。私のお気に入りの場所だから」
「そう。期待せずに待ってるわ」
拭き終えた食器を棚へしまっていく。
「というか、何でレナがそんなことしてるの? ロバートさんは?」
「ロバートは買い出しよ。だから、代わりに私がやってるの」
「ふーん」
エリーゼは興味なさそうにしている。とりあえず聞いてみただけのようだ。
しばらく話題もなく、無言の時間が続く。
「そういえばさ……」
テーブルに突っ伏して棚に並べられていた小物を見ていたエリーゼが、ふと何を思ったのか口を開く。
「レナは好きな人と結ばれたいって思う?」
「……ほんと急ね」
脈絡もなくいきなり言うものだから作業する手を止めてしまっていた。けれど、再び手を動かす。
「今回依頼者もターゲットもお互い想い合ってたじゃない。なのに、結局は離れることになってしまった」
自分が相手のことを好きなのだから、相手も自分のことを好きでいてほしい。その気持ちを確かめるのが今回の依頼だった。
「そう考えると、結婚ってのは愛がない方が上手くいくのかなと思ってね」
「さぁ? それは人それぞれじゃないの?」
「かもね。だからレナに聞いてみたんじゃん」
顔をレナの方へと向ける。
「レナは好きな人と結ばれたい?」
「どうかしら? 将来ずっとそうかと言われると否定はできないけれど、少なくとも今は興味ないわ」
「……あんな婚約者からやっと解放されたわけだしね」
「そうね。それに、こうして喫茶店で働く生活もなかなか楽しいし、しばらく恋愛はいいわ」
最初会った頃の悲痛そうな表情と比べると、今の彼女は元気で楽しそうな表情をしている。それを壊してまで、また同じような状況になるかもしれない恋愛、婚約をするかと聞かれると、素直に頷くことができないのも無理はない。
「というか、あなたはどうなのよ?」
「私?」
「そりゃそうでしょ。人に聞いておいて、自分は言わないとかはなしよ?」
「そんなつもりはないけど……」
言わなくてもわかるでしょ? と目で問いかける。表情は笑っているものの、目は全く笑っていなかった。
「私にはそんなことしている暇はないしね。そんな時間があるなら、少しでもあいつを追い詰める方法を。どういう流れで、どういう目にあわせるか。より良く、一番いい方法を考えなくちゃならないからね」
恋愛とは普通の人がするものだ。自分と相手の気持ちを確かめあい、やがて結ばれる。それはとても幸せなことなのかもしれない。
けれど、自分のように他人の気持ちを操り、騙し、あまつさえ復讐を行おうと考えている者には関係がない。エリーゼにとって、恋愛は仕事の一環なのだ。そこに好きや嫌いなどは存在するはずもない。
何とも言えない空気になっていたところに、入り口のベルが鳴る。そこには買い物袋を持ったロバートが立っていた。
「おや? エリーゼさん来てらしたのですか」
「あ、ロバートさん。お邪魔してます」
とエリーゼは体を起こし軽い調子で答える。
「二人で秘密の話でもしてたのですか?」
「えーっと、そんなところ。女同士の秘密ってね」
ふざけた様子でエリーゼは返す。
「せっかくエリーゼさんがいらしてるのでしたら、何か作りましょうかね」
「ほんと!? じゃあ――」
エリーゼはメニューを手に取り、何を作ってもらおうか選んでいた。
「ちょっと、ちゃんとお金は払いなさいよ!」
「え? ロバートさんが作ってくれるって言ったんだからタダでしょ?」
「そんなわけないでしょう!」
「まぁまぁ。今日のところはお代はいりませんよ」
「ほらね」
「もう、ロバートは!」
ここにいる人物たちは、恋愛というものに踊らされた者ばかり。そんな彼女たちは、今こうして楽しい日常を繰り広げていた。
これにて三章完結です。
四章は一日休んでから開始します。




