エピローグ
まだ人々が朝の支度をしている頃、エリーゼはレナたちのいる喫茶店でくつろいでいた。
「今回はどうだったのよ?」
「別にぃ。よくあるパターンだったよ。金遣いの荒い男」
レナの問いにエリーゼは答える。
「依頼者は彼と別れて、無事お金を守ることができた。その彼は支払いに追われて、二度と無駄遣いなんてできなくなった。これにて一件落着ってね」
「王家から費用の請求が行ったそうね?」
「そうそう」
「実際そんな費用のかかるパーティだったの?」
「いや、全然」
レナは呆れていた。
「……ありもしない請求を彼に吹っ掛けたってわけ?」
「まぁそうだね。おかげで彼の被害にあう人はいなくなるわけだし、何も問題ないんじゃない?」
カウンターでエリーゼは優雅にカップを手に取り、朝の紅茶を飲もうとする。
「熱っ!」
まだ冷め切ってなかった紅茶から慌てて口を離したせいで、テーブルに少し零してしまう。カップを置きバタバタしてテーブルを拭く様は、優雅さのかけらは微塵も見当たらない。
「それで、その回収してる費用とやらはどうしたのよ?」
「ああ、それね。彼に請求した費用はティアナ嬢のもとに送ってるよ」
レナの方を見ず布巾でテーブルを拭きながら答える。
「今回の依頼者の?」
「そうだね。彼のせいでお金が減らされたんだから、彼に増やしてもらってもバチは当たらないでしょう?」
布巾を元の位置に戻しながら言う。
「そのことを彼は――」
「当然知らないよ。教えるわけもないしね」
「依頼者の方は?」
「手紙に書いたから知ってるよ」
ティアナからしたらどういう気持ちだろうか。元婚約者からお金を返してもらっている事実は。
「にしても、今回は大分大がかりな仕掛けだったのね」
「まぁ、お金の問題と知った時点で、お金に絡んだ解決方法にしようと考えてたからね。規模が大きくなったのは……たまたま?」
「私に聞かないでよ……」
首を傾げるエリーゼに「はぁ」とため息をつく。
「ということは、彼に協力を依頼したの?」
「そりゃそうでしょ。彼以外に王族の知り合いいないし……」
当然といった様子で呟く。
「彼も災難ね……」
「何おう。私が迷惑かけてるみたいに」
「事実そうでしょう」
ムキ―っとレナに反抗していると、ドアに取り付けてあるベルが鳴る。そちらを見ると、開店前にも関わらずフードを被った人物が入ってくるのが見えた。
その人物はドアが閉まったことを確認すると、頭のフードを取る。そこから現れるのは特徴的な黄金の髪。
「ちょっと近くまで来たものだからね」
「おっ、アレクじゃん。噂をすればとやら」
喫茶店に入ってきた人物は、アレクサンド・スチュワート。この国の王太子その人だった。
「噂?」
「そうそう。今丁度アレクの話をしてたの」
「エリーゼがアレクさんに迷惑かけたって話ね」
「迷惑じゃないって。だよね?」
彼へと気安く確認する。従来の友人のような様子で、相手が王太子であることなど気にすることはない。
「……まぁ、君のことはわかってるからね」
「ほら!」
「わかってるって言っただけで、迷惑じゃないとは一言も言ってないけど……」
ふと、アレクは手に持った箱をテーブルの上に置く。二人は何だろうと目線で聞くと、彼はお土産だと言って開けるように促す。
「こ、これは、モンフォアで売っている特製スイーツ!? それも一人当たり一個しか注文できない上に食べるためには長時間並ばないと手に入れられないタルト風の生地の上にたくさんのフルーツを乗せてオリジナルのクリームをかけた王都で知らぬものはいないと言われる一番有名なスイーツであって――」
「食べていいよ」
壊れた機械の様に延々と一人説明を続けるエリーゼに、彼は苦笑して言う。その言葉で正気に戻ったのか、エリーゼは目を輝かせた。
「いいの!?」
「もちろん。君たちのために無理言って買ってきたからね。レナさんもどうぞ」
やったーと喜びエリーゼは箱から取り出しさっそく食べ始める。レナは静かに感謝しながら取り出し、ゆっくりと口に運ぶ。
「ごちそうさま!」
あっという間に食べ終えたエリーゼを、親が子供を見るような目で見るアレク。
「あ。そろそろ時間だ。ごめんアレク。また今度ね」
あっという間に喫茶店から出ていくエリーゼ。アレクは彼女が出ていったドアをじっと見つめている。
「どうしました? そんなにじっと眺めて」
「……いや、彼女のことを思ってね」
彼は言葉を零す。
「ああやって陽気に振舞ってるけど、内心では怒りに燃えていると思うとね」
「復讐……」
「自分を嵌めた人物に復讐したい気持ちはわかる。何もしてないのに勝手に国家反逆の罪を着せられ、家族全員を殺されたんだから」
婚約を破棄されただけではなく、口車に乗せられた王子、ひいては国王が彼女の家族を国家に反逆したとして処刑した。命からがら彼女だけは逃げ出すことができたが、その傷跡は大きい。
「彼女の復讐相手にはその国も含まれていたようだが……」
すでにその国はない。国家を運営する資金が無くなったということで、国が崩壊したからだ。恐らくその女が王子に取り入って婚約者となったことで、密かに国庫からお金を奪っていたのだろう。エリーゼとしては復讐相手もひとつ奪われた形だ。
「その相手に復讐を果たし終えたとして、彼女は本当に笑えるようになるのだろうか……」
今ここにいない彼女のことを、アレクは憂いているのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エリーゼはいつものように喫茶店から待ち合わせ場所まで歩いていた。その表情は以前食べれなかったスイーツを食べることができてご満悦だ。
彼女は待ち合わせ場所にいる友人を見つけると、笑顔でその場所に駆けていく。
そんな笑顔の裏で、彼女は今何を思っているのだろうか。
怒りか、悲しみか。それは誰も知ることができない。
胸に秘めた思いを知るのは彼女ただ一人のみ。
彼女は平穏な一日を過ごしながら、復讐できる日が来ることを待っている。
これにて二章完結です。




