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パーティ当日

 王城でのパーティから数日が経ち、彼が主催するパーティへ再びお呼ばれした。今日彼はこの場で婚約の破棄を告げ、新たにヘレンと婚約を結ぶことだろう。彼としては自身の栄光を疑いもしていないはずだ。あの煌びやかな場で、再び自らが主役になれる。ヘレンと結ばれることで、それが実現できる。自分をより高みへ、なんて考えているに違いない。


 夢を実現できるとは、なんと素晴らしいことだろう。他人が聞けばさぞうらやむことだろう。――ただし、それが悪夢でないのならば。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ケイン・オズワードには夢があった。


 子供のころ両親に一度だけ連れて行ってもらったパーティ会場。理由までは詳しく知らないが、どうしても連れて行かざるを得なかったらしい。その時行ったのは舞踏会で、当然の如く踊ることはできずに別室で過ごすこととなった。


 けれど、あの時見た会場での光景。煌びやかな光に照らされて、綺麗な服装に身を包んだ人たち。華やかさを醸し出すその光景を見て、子供ながらに羨ましいと思ったのを覚えている。いつか自分もこんな場に混ざりたい。そんな思いを胸に過ごしてきた。


 それからは次期領主として、自分の振る舞いを意識するようになった。周囲からどのように見えているのか、視線も気にした。その甲斐あってか、周囲からの評価も悪いものではなかったように思える。


 そして、ようやくパーティに参加することのできる年齢になった。子供の頃から憧れていたパーティだったため、初めて行った時は緊張していた。


 貴族の嗜みとしてダンスは教えてもらっていたが、練習の時と実際にしてみるのでは全く感じが違った。それでも、何とか醜態を見せず無難に終わることができた。すると、周囲の人々が集まり話しかけてくる。どこの家の者だとか、どんな人物なのかとか。初めて見る人物の情報を知ろうとしているのだろう。それだけだとわかってはいたが、その時はまるで自分が主役のように感じられた。


 この時初めて知った。自分のもとに人々が集まり、彼らから賞賛される。これはなんて気持ちのいいものだと。自分でパーティを開けば、これをもっと味わうことができるのでは、と。


 だが、我が家には何度もパーティを開くことができるほど余裕はない。年に数回程度なら問題ないだろうが、定期的にとなると難しい。金銭的な問題をどうやって解決するべきか考えているところに、偶然縁談の話が舞い込んできた。


 相手はティアナ・コーデリア。コーデリア伯爵家のご令嬢だ。彼女の周囲からの評判は悪くないため、相手として不満はなかった。


 それよりも気になったのが、彼女のコーデリア家の方だ。どうやら彼女の家は領地の民からも評判は悪くなく、収入も多く我が家よりも裕福だった。つまり、お金を持っているということだ。


 婚約者となる以上、夫を助けるのは妻の役目。ならば、金銭で困っている夫を助けるのは当然のことだろう。思いがけない形で、金銭の問題を解決することができた。


 それからは、金銭のことを気にすることもなくパーティを開き続けた。主催者であることの優越感を味わいつつも、貴族間での地位を確立するためなので彼女としても満足だろう。


 けれど、彼女は何度も開かないように言う。金銭的な余裕がなくなってきていると。聞いたところ、金銭はまだ残っているが、それは領地のために使うもの。手を出していいものじゃないと。


 それなら何も問題はない。領主のもとに集まったお金は自分たちで使うものであって、領民のために使うものではない。なら安心して使うことができる。


 ただ、貯蓄が減る一方であるのも自覚している。このままではいずれ尽きてしまうことを。


 そんな時だった。ヘレン嬢に出会ったのは。


 最初は王国史の授業でだった。教室の移動がある授業なため、向かう時間によってはいい席を取れなくなる。そんな問題が起きないよう、人より少し早く教室へ行き、席に座っていた。


 そして、偶然隣の席に座ったのがヘレン嬢だった。授業が始まり教科書を見るように言われるが、皆が取り出す中で彼女だけなかった。様子を見ていると、どうやら教科書を忘れてしまったようで、どうしようか困った様子を見せていた。隣にいるにも関わらず放っておくのもどうかと思うので、彼女に一緒に見るかと提案する。彼女が頷いたので、近づき見せてあげる。


 彼女は男性との経験がないのか、こちらを意識しているようだ。見られていたことに気づき彼女の方を向けば、途端に恥ずかしいのか視線を教科書へと戻す。その仕草が純粋で、とても微笑ましかった。


 それ以来、彼女とは王国史の授業で度々席が隣になった。最初の内は偶然だったとは思うが、気付けばこちらから彼女の姿を探すようになっていた。きっと、彼女と話しているとどこか心地よく感じたからかもしれない。


 そんな彼女が他の生徒に絡まれていることがあった。話を聞くと彼女の自分との仲をよく思っていない人がいるらしい。この場は収めたが、今後も起こるかもしれない。なら、ここで彼女との仲をこちらから宣伝しておけば大丈夫なのではないか。そう思い、彼女を自分のパーティへと誘う。予想通り、周囲は驚いていたが気にすることはない。自分を卑下しがちな彼女は少し悩んでいたが、最終的には頷いた。


 約束通り彼女はパーティへと来てくれた。一人でいた彼女は不安そうな表情をしていたが、自分の姿を見つけると安心していた。そんな彼女をダンスへと誘う。心細そうな彼女を楽しませる目的もあったが、彼女のことを周囲に知らせるという目的もあった。彼女は快諾してくれ、二人で踊る。


 パーティへあまり来たことがない彼女らしいが、ダンスは上手だった。彼女は昔習ったぐらいだと言うが、そこら辺の貴族とは比べ物にはならないくらいだった。おかげで周囲からは注目を浴びることができ、自分の目的も労せず達成できた。


 パーティが終わると、今度は彼女から自身のパーティへ来ないかと提案された。招待状が来るものの、普段は相手がいなくて行くことはないらしい。けれど、一緒に行ってくれるなら、と誘われる。


 彼女と仲良くなった自覚はあるが、彼女自身のことはあまり知らない。それを知るためにもこの誘いは丁度いいのではと考え、彼女の提案を受け入れた。


 そして後日、彼女と招待されたパーティへと赴いたが、自身の予想を超えていた。彼女が招待されているというパーティは、王族が開いているパーティであり、会場が王城そのものだったからだ。


 さすがの自分もこれには少し緊張した。過去にこんな規模のパーティへは行ったことがないからだ。彼女は慣れているのか、対照的に落ち着いた様子で自分を支えてくれる。


 顔を合わしたことのない貴族たちの会話に、どうやって切り込んでいこうかと考えていると、王太子その人から声をかけられた。招待客の一人として声をかけてきたみたいだが、直接口を聞く機会などないため、せっかく場の空気に慣れてきたにも関わらず再び緊張してしまった。


 それをほぐすためか、彼女がダンスへと誘ってくれる。何度か失敗しそうにもなったが、それを彼女がフォローしてくれ難を逃れる。おかげでダンスを終えれば、周りの貴族たちから賞賛を浴びることになった。


 この時にはっきりわかった。自分には彼女が必要だと。


 王族のパーティに招待されるような家柄に、自分を陰から支えてくれる彼女。彼女がいれば、自分はもっと上へと行ける。


 だから新たに彼女と婚約することを決めた。ティアナも悪くはなかったが、彼女はお金がないと言って、自分が飛躍するのを拒んでいた節がある。その点、ヘレン嬢は自分を陰から支えてくれる理想的な女性だ。


 彼女に婚約をお願いする。彼女はティアナのことを心配していたようだが、ティアナとは婚約の破棄をするため問題ないことを告げる。それでも躊躇していたようだが、彼女も自分を想ってくれていたようで、最終的には頷いてくれた。


 これで、さらに上を目指せる。そのための一歩を、これから始めるのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ダンスが終了し一段落ついた頃、ケインはティアナを探していた。今回のパーティで目的を果たすために彼女も呼んでいた。


 しばらく探すと、彼女の姿を見つける。


「ティアナ、久しぶりだね」


「ケイン……。今回も無駄なお金を使ったのね……」


「それは誤解だよ。これは必要なものさ」


 やはり何度言っても彼女には理解してもらえないようだ。


「……私に何か用でしょうか?」


「そうそう、君に大事な用があったんだ」


 君と一緒にいると、理想には近づけない。だから、君との関係はここまでとなる。


「申し訳ないが、ティアナ。君との婚約は破棄させてもらうよ」

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