第10話 死の沼へ
テテノが浴場から戻ってくるとプリーストのタリカがベッドの上で聖職者とは思えない格好でダレていた。
「ちゃんと直ったようで良かったです」とテテノが話しかけるとタリカは起き上がり返事をした。
「フェリテスさんのおかげで無事にお風呂に入れました。ありがとうございます。しかも宿代も安くなりましたし」
「使った物などを考えてもあれだけじゃ流石にお金を取りにくいと言うか何というか……」
「あーそれ分かります……私もプリーストなので旅をしてると宿の人が料理中に少し指を切ったとかで治したりもしますが……流石にそれでお金をもらうのは気が引けると言うか何というか……」
寝るには少し速い時間だったのでテテノも自分のベッドに腰掛け二人で少し話をする事になった。
「タリカさんは冒険者になられてから長いのですか?」
「そうですねー。二年になるかならないかぐらいですね。先ほども言いましたが、我が家は聖職者の家系なのですが……親から修行を兼ねて冒険者になってこいと追い出されました」
「なんというか……大変ですね」
「ほっんとに大変ですよ……Dランクなのでかなり考えて依頼受けないと赤字ですし!しかもパーティーの二人はそう言うのあまり考えていないですし!」
タリカが怒りながらそう言ったのでテテノはアスキスとティグラの事を考えていた。
「二人ともしっかりしてそうに見えますが……」
「半年もかからずに二人でDランクになったので実力だけはあるはずですが……結構めんどくさいです」
タリカの話し方が聖職者っぽくないな~と思いながら話を続ける。
「余計な事は言いませんけど……タリカさんもわりと言いますね。ずっと三人でパーティー組んでた訳じゃないんですか?」
「私と一緒に組んでた人達が冒険者を引退したので、一人になった所をあの二人に声をかけられて今で三ヶ月ぐらいですね」
「なるほどー」
「まぁ!この依頼が終わったら私は抜けますけどね!」
上手くいってそうなパーティーだったが明らかにタリカが怒っていたので少しだけ興味が湧いたテテノはその事を申し訳なさそうに尋ねた。
日頃から鬱憤が溜まっていたのか、食事の時に少し飲んだお酒が残っているのか……タリカの口から愚痴という愚痴があふれだしてく。
テテノも自分から尋ねたの途中で止めてと言える訳もなかったので話を聞き続けた。
「男性ですから娼館に行くぐらい別になにも言いませんけど!食事中とかに話に出すの止めてもらえませんか!って話ですよ」
「あははっ……なんと言うか……」
「それぐらいならまだ我慢しますが……最近、調子に乗ってるのか……今日もそうですけど依頼者への態度がどんどん悪くなっていますからね」
「私は特に気にならないですけどね。もっとガラの悪い冒険者さんも多いですし」
「フェリテスさんがそう言ってくれるなら良いですが……彼らといると痛い目を見そうなので早めに抜けておく感じですね。男性と女性では考え方も捉え方も違うので次は女性のパーティーに入りますよ。男女のパーティーは大変ですからね」
女性だけのパーティーはパーティーで大変そうだな~っとテテノは考えたが、普段からあまり愚痴を聞いてもらえないのかタリカがまだまだ話したそうだったので夜遅くまで続いた。
鳥のさえずりにによって目が覚めたテテノが部屋の中を見渡すと清々しい顔をしたタリカが話しかけてきた。
「フェリテスさん。昨夜はありがとうございました。おかげさまで気分良く朝を迎えれました」
「それは良かったです。今日はお手数かけますがよろしくお願いします」
「まかせてください!ドラゴンが出てもワンパンで仕留めますよ」
そう言ってタリカが腕をまくり細い腕に力こぶを作ったのでテテノは笑いながらお任せしますと言い二人で一階へと降りていった。
一階にいくと女将がモップで床を拭いたりしていたので挨拶をし、昨日なおした魔道具の事を尋ねる。
特に不具合は無いと言ってくれたのでテテノは胸をなで下ろし、向かいの酒場に朝食を食べに向かった。
酒場につき椅子に座り朝食を頼むとテテノより少し若い女性が料理を運び話しかけてきた。
「もしかして昨日、お風呂の魔道具を直してくれた錬金術師さんですか?」
「はい。そうですけど貴女は?」
「宿の娘です。お風呂に入れる様になったので一言お礼を言いたくて、ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。直ってよかったですよ」
「お礼と言ってはなんですが、よかったらこれも食べてくださいね。ではごゆっくり」
そう言って頭を下げてからテテノ達が頼んだメニューより少し多くなった朝食を並べて奥へと戻って行った。
テテノとタリカがその事を喜んでいるとアスキスとティグラがやって来たが、アスキスの方は少し辛そうにしていた。
「タリカ、飲み過ぎたから解毒の魔法をかけてくれないか?」
「はぁ!?なんで仕事があるのが分かってるのに何で飲んだんですか!?」
「あー……頭に響くからさけぶな……死の沼とか低ランクが行く様な所だから大丈夫だろ」
「大丈夫じゃない剣士が目の前にいますが!?」
「あーはいはい。俺が悪かったから頼む……」
アスキスのその態度にタリカは笑顔のまま額に血管を浮かび上がらせたが、このままでは依頼に支障が出るので仕方なく解毒の魔法をかけアスキスの体からアルコールを抜いた。
それから四人で朝食を取り準備を整え、村から半日ほどかかる死の沼に向かった。
村を出ると見晴らしがいい草原地帯で危険な生き物の気配も無かったのでアスキスがテテノに話しかける。
「一応聞いておくがフェリテスさんは戦力に入れていいのか?錬金術師なんだろ?」
「攻撃魔法は少し使えますが、本当に少しなので戦えないと思ってくれた方が助かります。変に参戦しても足でまといになると思うので……」
「錬金術師だしそんなもんか……分かったじゃあ。俺達に任せてくれ」
「アスキス……言い方」とタリカはうんざりしていたがテテノは本当の事なので特に気にもしていなかった。
一番前をティグラが次にタリカとテテノが同じ位置を歩き最後にアスキスが守る隊列で進んで行くが草原地帯はとても静かで穏やかだった。
戦闘が嫌いなテテノは今の状態はとてもウエルカムだったがアスキスは少し不満そうだった。
そんな状態のまましばらく歩いているとティグラの視界に死の沼へと続く森がうつった。
「ようやく森が見えてきたぞ。森に入ったらアスキスはもう少し気を引き締めろよ」
「ああ、大丈夫だ任せとけ」
何事もないまま草原地帯を抜け、森の入り口付近で少し休憩を挟み森の中へと入って行く。
森の中に入るとテテノとタリカの位置は変わらなかったがティグラが後ろにさがりアスキスが前を歩いた。
地図とコンパスを使い位置を確認し護衛対象のテテノを守りながら薄暗い森の中を進んで行く。
さきほどの草原地帯よりは危険性が増し、小型犬程の獣が何度か襲いかかってきたが、アスキスが剣で倒し、ティグラが矢で射貫き順調に進んでいった。
(う~ん……そこまで深い森じゃないからお金になりそうな素材が落ちてない……獣皮は分けてもらってるからいいけど……)
そんな事を考えているとタリカが話しかけて来た。
「はぁ……二日酔いで現れた時はどうしようかと思いましたが、無事に着きそうですね」
「私は護衛してもらえれば特に言う事はないので」
「フェリテスさんみたいな依頼者ばかりだったら私も楽なんですけどね」
二人が話しているとアスキスに声が届いたのか話に加わった。
「タリカは気にしすぎだろ、冒険者は実力があればなにしてもいいんだぞ。しかも今回みたいな簡単な依頼だと何も言われねーよ」
「あーはいはい。貴方の世界ではそうなんでしょうが、私の世界は違います」
タリカに面倒くさそうにあしらわれたのでアスキスは少し不機嫌になりながら舌打ちをし何が気に入らないんだとぼやいた。
そのタイミングでティグラが何かの気配を察知したようで皆に止まれといった。
「ティグラ、どうした?」
「アスキス、構えておけ。足音が聞こえた……何かいるぞ」
ティグラの表情が嘘を言って無かったのでアスキスが剣を抜き構えた瞬間に藪の中から何かが飛び出しアスキスを突き飛ばした。
ティグラはすぐに矢をいり飛び出したそれに攻撃したが素早く躱しその場から距離を取った。
距離を取った事でその生き物の全貌があらわになる。
「一角鹿か」とティグラはその獣を知っていた様だった。
一角鹿と呼ばれる獣は鹿を二回りほど大きくし額には立派な一本のねじれた角が生えてる。その角で一突きし獲物を喰らう習性がある肉食の獣だ。
「アスキス、大丈夫ですか」とタリカが急いで駆け寄ったが上手い事剣で受けた様でアスキスに大きな怪我は無かった。
「すこしは歯ごたえがある奴が出てきたな!」と行ってアスキスが斬りかかり戦闘が始まった。
テテノは邪魔にならない様に木の影に隠れ様子を見ることにした。
(一角鹿だ……久しぶりに見たな~懐かしい……あの角は良いすりこぎ棒になるから譲ってもらえないかな?薬師に売ればいいお金になるからもらえないだろうけど……)
アスキス達なら苦戦しないだろうとそんな事を考えていると、そんな訳はなく一角鹿の素早い動きにティグラは翻弄されアスキスの剣も立派な角で弾かれていた。
(あれ?あの一角鹿が強いのかな?個体によって違うけど……ってあぶない!)
テテノが悠長に考えているとアスキスの剣が飛ばされ尻餅を突いたので、テテノは手を突き出し数少ない攻撃魔法を唱える。
「ポイズンショット!」
突き出した手の先に親指先ほどの小さく綺麗な紫色の球体が現れ、はじけた音と共にその球体は凄い勢いで飛んでいく。
それに気がついた一角鹿は躱そうと跳ねたが足に命中し皮膚を突き破った。
テテノがアスキスを心配し大丈夫ですかと前に出てくるとあんたは隠れてろと怒鳴られたが、もう終わりましたよ?と少しきょとんとしていた。
「いや、あれぐらいじゃあの鹿は死なねーだろ」とアスキスが一角鹿の方を見た。
すると一角鹿の様子がおかしく痙攣しはじめ、口から泡を吹きその場に倒れた。
「おいおいおいおい」とアスキスが驚いいる間に絶命し、あっという間にジュクジュクと泡を立てて肉が消え骨と皮だけになり絶命した。
その光景にアスキス達は絶句したが、それをやった当の本人はアスキスに怪我が無い事を分かりほっとしていた。
その光景に唖然としていたタリカが一番先に我に返りテテノに話しかけた。
「えっと……フェリテスさんは戦えないと言ってませんでしたか?」
「え?戦えませんよ?今のは錬金で作った毒を魔法で飛ばしただけの魔法ですし」
「いやいや、明らかに王都の魔法学校を卒業した私より強くないですか?」
「え?タリカさんもですか私もそうなんですよ」
と話はそれているのは分かったがその事が気になったタリカが詳しく聞くとテテノの方が先輩だと言う事が分かった。
「フェリテスさんはどのクラスでしたか?私はBクラスで卒業でできましたが……」
「私はAですね」
「おぅ……めっちゃエリートだった……死の沼ぐらいだと護衛いらなくないですか?」
「魔法は使えますが体力はないですし、接近されるまで気づけないので無理です!」
なんでそんなに自信ないんですかと呆れながら、タリカはアスキスとティグラに回復魔法をかけていく。
「ほら、アスキスも助けられたんだから礼を言う」
護衛対象に助けられたのが面白くなかったのか、舌打ちをしてからぶっきらぼうに礼を言い先を急ぐぞと距離を取った。
「フェリテスさん。怒っていいですよ」
怒るほどの事も無いですし、アスキスさんの実力ならあそこから倒せていますよと言っているとアスキスの代わりにティグラが頭を下げて礼を言った。
タイミング良くテテノが一角鹿の角が欲しいと言う事を伝え、角はテテノに皮や骨はアスキス達が分ける事になった。
「フェリテスさん。この毛皮……触って私達も溶けたりしませんよね?」
「大丈夫ですよ。毒は毒ですが時間が経つと効力を失うので、もう無力化されてます」
「なるほど……でも何か怖いですね」とタリカが少し顔を青くしながらアイテムバッグに毛皮をしまい先へと進んでいく。
次回の更新は明日。




