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壁の先

 

「それでどこにあるの? 隠し階段!」


 ルナの助けでリリーに中に入ることを許された俺は、二人に見張られながら事務所の中を歩いていた。

 かつて自分が使っていた場所なのに怪しい部外者扱いなのはとても悲しい、だが確認するまでは我慢だ。

 一度治めたのだから寝た子を起こすことはしたくない。


 事務所は地上三階建てで一階は倉庫と歓談室、あとは地下水をくみ上げて使う水場がある。

 この階の部屋は全部で5つ。目的の場所は倉庫だ。


 今はどこも汚れてヒビなどが目立つが、昔は綺麗好きな事務員さんによってよく片付いていた

 最期の冒険の日もみんなから土産物を頼まれていた。

 空っぽの部屋や壁、壊れた扉の蝶番。事務所の様々な物が勝手にあの頃の思い出を浮かび上がらせる。

 俺は首を振ってそれを止めさせた。今そんなことをしても無駄だ、思考が鈍るだけでしかない。


「……ここだ。ここは昔冒険に持っていく道具とかをしまっておく部屋だったんだ」


 玄関から廊下をまっすぐ歩いて突き当りの大部屋。そこが目的の倉庫だった。

 ここまで来る廊下の左右には部屋が二つずつ。

 倉庫の手前左側には上へ行く階段があり、右側の部屋には汚れを落とす風呂場がある。


 だが、右側の浴室は廊下から見える大きさより内側が少し狭い。

 ちょうど登り階段と同じくらいの空間があるのだ。

 浴槽の大きさや脱衣所などの組み合わせで中からその差異に気づくことは難しい。


 扉が壊れ廊下との境目が薄くなった倉庫に入った俺は、少女三人を中へ呼んだ。

 三人。俺が振り返ると、最初にもう一人いた黒髪の子もいつの間にか後ろの列に加わっていた。


 三人目の彼女の背の高さはルナとリリーの二人の中間で、特徴は背中の中ほどまで伸びた黒い髪だろう。

 そんな彼女だが、今何故か薄暗い部屋の中でも分かるほどに顔を紅潮させていた。


「リリーちゃん、ルナちゃん。何してるんです? こんな暗いところに知らない男の人と一緒に入って……ま、まさか」


 頬を赤くし一人うろたえる黒髪の少女だったが、その存在に気付いたルナが背後へ振り返り今からの事を伝える。


「ん? ぺちー。見てて、今兄ちゃんがすごいの見せてくれるんだって!」

「す、すごいの!? そっそれって」


 ぺちーというのが黒髪の彼女の名前かあだ名だろうか。

 ルナの表情は見えないがぺちーと呼ばれた少女の顔はますます赤くなっていく。


「変な事考えてるでしょ。やめてよそういうの」


 後ろの騒ぎにリリーが心底嫌そうな声音でため息と愚痴をこぼす。

 この子はずいぶん苦労してそうだな。


「仕掛け動かすからみんな中に入ってくれ。それで扉……のあった場所から離れて」


 倉庫入り口前で騒ぐ少女たちに再び声をかけると、今度こそ彼女らも中へと入ってきた。

 だが、俺が壁に隠された仕掛けを起動してる最中も彼女らのおしゃべりは止まない。


「はーい。何が起こるんだろうねリリー、ぺちー」

「隠し階段が現れるだけでしょ。そんな期待してガッカリしても知らないわよ」

「か、隠し階段ってなんですか!? そんな、か、隠しなんて!」

「はぁ……あんたは何があると思ってんのよ」

「ナニって! リリーちゃん!」

「リリー、ナニってなに?」

「あーもう! うっさい! おじさん早くしてよ!」


 マイペースな二人に苛立つリリーが俺を急かす。だが急かされてもどうにもならないことも有る。

 なんせ百年も放置されていた仕掛けだ。それも大掛かりで緻密な仕掛け。


「ちょっと待ってくれ。仕掛けが固まってて動かせない」


 俺は仕掛けを作動させることを諦め、壁自体を解体してしまうことにした。

 隠し方が巧妙で今まで気づかれていなかった階段だが、その場所を知っている俺からしたら、ただの強度の低い壁に覆われているだけでしかない。

 三人にはその場に残ってもらい、玄関に置いてきた荷物を取りに戻る。中の道具を使うためだ。

 倉庫から玄関まではまっすぐな廊下で繋がっていて直接見えるので文句は言われなかった。


 荷袋を背負って彼女らの所へ戻り、その中から壁登りに使ったピッケルを取り出す。

 細長い骨に硬い爪を結び付けただけの物だが、ダンジョン内の壁に穴を空けられたのだからこんな壁くらい壊せるはずだ。


「……おじさん、そ、それで何する気よ」


 俺が取り出したものを見てリリーがひきつった様な声を出した。

 だが気にせず、俺は肩を数度回してほぐし、ピッケルを振りかぶって答える。


「この壁を壊す」

「──っ!? ダメに決まってるでしょ! 馬鹿言わないでよ!」


 リリーの叫び声と壁の崩れる音はほぼ同時だった。

 ガラガラという崩壊音とともに窓の無い倉庫内に壁の破片や埃が飛ぶ。

 俺は息を止めていたが、後ろの少女たちは埃を吸ってしまったようでせき込むのが聞こえる。


 白く濁った煙が落ち着くまで数十秒。

 しかし既にはっきりとは見えないまでも、壁の奥の空間は視認できた。


「先に言ってるぞ」


 俺は埃を吸いたく無かったので言葉を短く吐いて奥へすすんだ。


「あっ待ちなっ! ──ッケホッケホ」



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