第31話 尋問。異議ありっ!! 大爆発っ!?
キィッ……。
あたしの叫びが届いたのか、軋んだ音を立てて、扉が開かれた。
外は暗く、部屋の外の回廊には明かりが灯されていた。
「出ろ」
そう短く告げたのは……。
「アウリウスさま……?」
その背後には、白い法衣をまとった神官さまたち。
助かったの? 出られるの?
そう思えたのは一瞬だった。
「ローゼリィ・カルティミラ。これより、お前を異端審議する」
え? どういうこと?
異端? あたしが?
「ちょっ、ちょっと待ってくださっ……、痛っ!」
強引に腕を、身体を引っ張られ拘束される。手枷と胴に巻き付けられた縄。手枷は、鍵を回されると同時に、不思議な紋様が浮かび上がった。これ、おそらく魔法を封じる拘束具だ。
「歩け」
グイッと縄を引っ張られ、回廊に連れ出される。
「あっ、セルヴェッ!」
ボトリとセルヴェが手の中からこぼれ落ちた。踏まれはしなかったものの、その弱った身体は、床のうえで身じろぎ一つしない。
「アウリウスさま、セルヴェがっ!」
縄を持つアウリウスさまに訴える。
「ぐずぐずするな」
床に落ちたセルヴェを一瞥しただけで、立ち止まったあたしを強引に引きずっていく。
いつものアウリウスさまじゃない。アウリウスさまは、怖いところもあるけど、そんな冷たい人じゃない。こんな乱暴に人を引っ立てるような人じゃない。
それなのに。
「セルヴェッ!」
よろけながら、転ばないように歩くしかないあたしは、その名を呼ぶことしか出来なかった。
あたしが連れてこられたのは、神殿の中にある、大きな空間。
たくさんの紋様が描かれた白っぽい壁。立ち尽くすあたしを取り囲むように設けられた階段席。すり鉢の底にも思える場所に立ち、上から見下ろしてくる聖職者たちの視線を浴びれば、自然と身体が震えだす。
――怖い。
血液が足元で滞っているような感覚。違う誰かの目を通してみているような世界。口の中の味がおかしい。吐きそうなほど気分が悪い。
あたし、どうなるの?
何も悪いことなんてしていない。守護獣を隠したりなんてしていない。
女神さまを信奉しているし、異端な考えを持ったこともない。
それなのに。
「これより、カルティミラル公爵令嬢、ローゼリィ・カルティミラの異端審問を始める」
厳かに告げられてしまった宣告。
そして、壇上に佇む見知った人の姿。
ナディアード殿下と傍に控えるルッカさま。
殿下は、最高位の神官さまと並んで、こちらを見下ろしている。
(助けてくださる……んじゃないの?)
感情の読み取れないお二人の視線に、恐怖を覚える。
あそこにいるのは、本当にあたしの知るお二人なんだろうか。すぐそばで、縄を持ったままのアウリウスさまもそうだ。
お三方とも、どうしちゃったんだろう。
神官さまと変わらない、ううん。神官さまより恐ろしいお顔をされている。
「単刀直入に訊ねる」
神官さまが口を開いた。
「聖女の守護獣、セルヴェスティをどこに隠した」
え?
「その方が、魔術を使い監禁していることは、調査済みである。おとなしく答えることが、身のためであるぞ」
「あたし、隠していませんっ!」
「偽りを申すでない。そなたが、聖女と王太子殿下の仲を不満に思い、聖女を貶めようとしていること、すべて調べがついている」
「そんなっ!」
「守護獣を監禁し、聖女の力を削ぐつもりか」
「そんなことしませんっ!」
「だが、実際、守護獣は姿を現さない。それはお前が魔術で監禁しているからだろう」
「違いますっ!」
「大人しく守護獣を解放し、殿下と聖女の結婚を認め身をひくならば、まだ赦されもしよう。だが、このまま反抗を続けるのであれば、破門、そして厳しい処断が待っていることを心しておいた方がいい」
それは、確実なる脅し。何を言っても認めてもらえない。
守護獣が見つからなければ、あたしは処刑される。
そして、殿下はミサキさまと結婚される。
……って、え? ミサキさまとの結婚話は無くなったんじゃないの?
信じられなくって、殿下を見上げる。
ウソだ、とおっしゃってください、殿下っ!
それじゃあ、お嬢さまのお立場はどうなるんですかっ!
その眼差しに、いつもの優しさは感じられず、冷やかで、すがるものは何も残っていなかった。
「さあ、聖女に赦しを請い、守護獣を返すのだ」
神官の言葉と同時に、ミサキさまが壇上に現れる。白の法衣をまとい、そっと殿下に寄り添うように立つ。
一瞬、殿下とお二人で、柔らかな視線を交わし合う。その姿は、どう見ても仲睦まじい恋人同士。
もうそこに、「きみとローゼリィを守る」とおっしゃってくださった殿下はいない。あの舞踏会の時、あたしを護ってくれた力強い腕もない。
お嬢さま。あたし、何か間違ったことをしたようです。あたしたちを助けてくださるとお約束くださった殿下が、あのようにミサキさまと仲良くされて。ルッカさまも、アウリウスさまも、お二人のご様子に驚かない。それどころか、それを当たり前のようにほほ笑ましく見ていらっしゃる。
まるで、足元の床が崩れて、自分だけがその下に広がる闇に呑み込まれたような感覚。もう、あたしたちには、誰の味方もいない。
恐怖よりも絶望に、膝から崩れ落ちる。
そこへアウリウスさまが近づいてくる。
無言のまま、首に手が伸びる。掴まれたのは、銀の鎖。
「いっ……!」
力任せに引っ張られ、細い鎖が肉に食い込む。ブチッと鈍い音を立てて、鎖が切れペンダントが弾け飛ぶ。ムーンストーンが、乾いた音とともに床に転がる。
同時に光が溢れ、あたしが元の姿に戻る。
「これは、いったいっ……!」
「ローゼリィ嬢は偽者かっ?」
居並ぶ神官さまたちがどよめく。
異端なのは、お嬢さまなのか、それとも成り代わっていたあたしなのか。神官さま同士、顔を見合わせ、意見を交わし合う。
「その女は、魔女よっ!」
鋭く、ミサキさまが叫んだ。
「ローゼリィさまを亡き者にして、すり替わっていたのよっ!」
ざわめきが一段と大きくなった。
真実を知っているはずの殿下たちも、何も言ってくれない。あたしとお嬢さまの事情を、誰よりもご理解いただいていたはずなのに。それどころか、殿下はミサキさまを抱き寄せられ、あたしから彼女を守るように立つ。
「正体を現したな、魔女め」
その言葉は、誰が発したの? 殿下? ルッカさま? それともアウリウスさま?
すべてを認められない、受け入れられないあたしは、その認識すら出来ない。
「魔女」とされてしまえば、あたしは処刑されるしかなくなる。魔女は、火あぶり。それが常識。
「や……。イヤ……」
唇がわななく。瞼は閉じることを忘れ、カタカタと身体が震えだす。
誰か。誰か助け……て。
――イイダロウ。
(えっ……?)
ドオオオオンッ……!
驚く暇もなかった。
背後から爆風と轟音に襲われ、身体が前へと転がされる。
一面に広がる土煙。呻き声と、怒声が入り混じる。
「我が乙女を『魔女』呼ばわりとは。覚悟は出来ておるのだろうな。『偽りの聖女』よ」
誰?
第三十一話です。
そんな簡単に助けてもらえるわけがないじゃないですか、の回。
敵もさる者引っ掻く者。一筋縄ではいきませんよ。
殿下たち、どうしちゃったんでしょうね。アウリウス、ヒドいですよ。首、痛そう……。
まあ、そのあたりは後々、シッカリ反省してもらいましょう。うん。
これからもよろしくお願いします。




