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第30話 囚われの姫君!?

 「キキッ……!」

 ガウンのポケットから鋭い声がした。

 「あ、セルヴェ……」

 そっか。あのどさくさのなかで、ついてきちゃったんだ。

 「ごめんね、こんなところに連れてきちゃって」

 この子だけでも逃がしてあげたいけど、「リスのために、ドアを開けてください」なんてお願い、聞いてくれないんだろうなあ。

 ガウンのもう片方のポケットを探る。幸いいくつかのドングリが入っていた。昨夜、セルヴェにあげたものの残りだ。

 それを少しだけ取り出して食べさせてあげる。全部あげてしまうと、どれだけ監禁されるかわからないから、ホントにちょっとだけだ。

 「ごめんね」

 ドングリを夢中で食べてるその背中を撫でる。

 なるべくまばたきを減らして、ジッとその縞模様を眺める。でないと、声を上げて泣き出してしまいそうだ。

 

 (ん……?)


 なんだろ。部屋の外が騒がしいような。

 「ローゼリィッ! いるのか、ローゼリィッ!」

 その声はっ……!

 「ナディアード殿下っ!」

 あわてて身体を起こして、扉に駆け寄る。

 当然だけど、扉は開かない。けど、そこに声が、気配がある。見えなくてもわかる。殿下が今そこに来てくださっている。

 「無事かっ! 苦しいところはないかっ! 痛いところはっ!」

 「はいっ! 大丈夫ですっ!」

 その声。あたしを心配してくれているんだと思うと、それだけでどうにかなりそうなほどうれしい。さっきまで我慢してきた涙が、限界を超えてあふれ出してしまった。

 「今から神殿の連中にかけあってくる。きみは僕の、王太子の婚約者なんだ。たとえどんな罪があったとしても、こんな扱いは許されることじゃない。それに。きみの無実を僕たちは知っているからね。必ず助け出してあげるよ」

 僕たち……?

 「もう少しの辛抱だよ、リュリ」

 「泣くんじゃないぞ」

 あ、ルッカさまと、アウリウスさまだ。お二人も、ここにいらしてくださったんだ。

 お三方とも、あたしを心配してくれてる。

 「……はい。ありがとう、ございま…すっ!」

 うれしい。胸が熱くなる。涙と嗚咽が止まらない。

 「じゃあ、神殿の連中と話をしてくるよ」

 「あっ、あの。無理をっ、なさらないでっ、くっ、くださいっ」

 そう言うのが精一杯だった。

 「ああ。大丈夫だから。きみは何も気にせずに待ってるんだ」

 扉の向こうの気配が遠ざかっていく。

 大丈夫。

 あたしは一人じゃない。

 こうして心配して駆けつけてくれる方がいる。

 「キキッ」

 耳元でセルヴェが鳴く。

 「そうね。お前もいてくれるもんね」

 寂しい、怖いなんて感情は、どこかへ吹き飛んでしまった。

 どんな苦しいことがあっても負けない。どんな悲しいことが待っていても泣かない。

 勇気という名の炎が、心のなかに灯る。


*     *     *     *


 「泣いてましたね」

 「ああ」

 足早に回廊を曲がりながら、ルッカの言葉に応える。

 当たり前だ。

 わずか15歳の少女があのような場所に閉じ込められたのだ。不安だっただろう。怖かっただろう。

 あの部屋は、魔法を使えなくするだけじゃない。一見、真っ白で清潔に整った空間に思えるが、その白さが、人に恐怖を与えるのだ。先ほどは会話だけ認められたが、本来、あの部屋に音はない。明るくは作られているが白以外のものがない。匂いもない。

 そのような世界は、人の五感を狂わせる。時間と空間の境目が消え、少しづつ心を蝕む。永遠にも感じる部屋のなかで、自我が保てなくなり、精神だけが侵されていく。

 キレイだから気づかない、拷問部屋なのだ。

 そんな部屋に、わずかな時間であってもリュリを置いておきたくない。

 リュリは、主であるローゼリィのために、一生懸命なだけの少女だ。泣き虫で気の弱いところもあるけれど、頑張り屋で一途な少女。 

 こんなときでも、相手を気づかう優しさも持ち合わせている。

 そのか弱くも健気で優しい彼女を、なんとしても救い出して、守ってやりたい。

 聖女だろとなんだろうと、リュリを傷つける者は許さない。

 おそらく、アウリウスもルッカも思いは同じだろう。

 アウリウスなど、ずっと無言のまま一点を睨み据えたような表情で大股に歩いている。ルッカだって、声がいつもより厳しく鋭くなっている。

 回廊を抜け、正面にあった扉を乱暴に開け放つ。

 「お待ちしておりました。ナディアード殿下、そして皆さま」

 その勢いに動じることなく、真っ白な装束をまとった女が微笑んだ。

 

*     *     *     *


 (あ、れ……?)

 ヤダな。あたし、眠ってたみたい。

 そおっと身体を起こし、周囲を眺める。

 相変わらずの真っ白な部屋は、物の位置が把握しづらい。手探りでここは寝台の上なんだと確認してから座り直す。

 泣きながら寝ちゃったせいか、目がハレハレ、シパシパする。

 鏡がないからわかんないけど、きっとヒドい顔をしているに違いない。

 笑われそうでイヤだなぁ。

 頬をムニムニッと動かして、むくんでいるだろう顔をなんとかしようとする。

 「あ、セルヴェ」

 エサ、あげてない。時間の感覚がよくわからないけど、そろそろ次のドングリをあげたほうがいい……って。

 「セルヴェッ!」

 寝台の上に投げ出された小さな身体。丸くなって眠っているんじゃない。グッタリと浅い息をくり返している。持ち上げても反応はなく、とても苦しそう。

 どっ、どうしようっ!

 一刻も早くここから出て、お医者さまに診せたい。「リスの病気など知らん」と言われるかもしれないけど、それでも、何か手を尽くしたい。

 「待ってて、セルヴェッ!」

 急いで扉のあたりに近づく。

 「あのっ、誰かっ! 誰かいませんかっ! あたしの、あたしのペットが急病なんですっ! この子だけでも外に出して、お医者さまに診てもらえませんかっ!」

 あたしも外に出たいなんて言わない。だから、セルヴェだけでも。

 「お願いっ! 誰かっ!」

 外に人がいるかどうかなんてわかんない。

 ただひたすら必死に叫び続ける。

 第三十話です。

 健気な女の子ってグッときませんか。あたしゃ好きです。そして殿下たちの反応も。

 こういう展開、個人的に大好きなんですよ。フフフフ。自分の好きなものテンコ盛り。ただ、こういう展開をさせると、殿下、アウリウス、ルッカだけが活躍するという、贔屓をしてしまいそうで怖い。バランス。バランス大事です。

 ということで。

 これからもよろしくお願いします。

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