第20話 意外なところで出会ってました。
「たくさん集まったな」
男性があたしの手のなかのカゴを見る。
それほど大きなカゴではないけど、それでも、かなりいっぱいドングリが入っている。
これなら、とうぶんはセルヴェのエサに困ることはなさそうだ。
「ありがとうございました」
男性に手伝ってもらわなかったら、ここまで集めることは難しかったかもしれない。
「いや、久々にドングリ集めなんてやって、こっちも楽しかった」
なんか、この人が言うと、社交辞令なんかじゃなくって、本心からそう思っているように聞こえるから不思議だ。
「家まで送るよ」
「え、でも……」
さすがに、そこまで甘えるのは……。
「日が暮れかかってるしな。お嬢ちゃん一人じゃ、なにかと物騒だろ」
たしかに。辺りは夕闇に染まり始めている。公園の外灯にも火が入れられ、闇を照らし出している。
「では、お言葉に甘えて」
あたしの言葉に、男性がニカッと笑う。
ホント、人懐っこい笑顔。
二人で並んで公園を後にする。
「そういえば、お名前、伺ってませんでしたね」
「ああ。俺は、ライネル。その先にある雑貨屋で雇われてる」
「えっ? ライネルッ?」
「どうした?」
「えっ、あ、その。すみません。なんでもないです」
まさか。まさかね。ミサキさまの幼なじみのライネルさん……なんてことはないよね。
普通に、どこにでもある名前だし。驚くことでもないのかも。
「あたしは、リュリって言います。お屋敷で、お嬢さま付きの小間使いをやってます」
気を取り直して自己紹介。
「へえ。その歳で小間使いか。頑張ってるな、アンタ」
ライネルさんが感心したように言うけど……。
15歳で小間使いって、フツーな気がするけど? もしかして、もっとチビに見られてるんだろうか。もしそうなら、結構傷つく。よって、そのあたりのことはムシ。
「あたし、拾われ子だから、助けていただいたお屋敷の皆さまに恩を返したいんです」
これは本当。
15年前、拾ってもらえなかったら、あたし、生きてなかった。
「ふぅん。じゃあ、俺たちと同じだな」
「俺たち?」
「そ。俺も、捨て子だったんだ。んでもって、田舎の孤児院で育った」
孤児院育ちなんて、特に珍しいわけじゃないけど。
「小さい頃からの知り合いが王都に来ることになって、なんとなく心配で俺もついてきたんだけどさ。俺は、ソイツについていくわけにもいかなくて、んで、雑貨屋の主人に頼み込んで働かせてもらってるんだ」
「そうだったんですか」
王都に来た、知り合い?
なんだろう。鼻のあたりがムズムズしてきた。
「俺の生まれ育った村は、洪水に遭って生活が苦しくなっていたからな。ここで働いて、孤児院のヤツラに仕送りしてやってる」
……洪水。孤児院。
なんか、聞いたことのある単語がポロポロ出てくるんですが。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
「その、知り合いって、まさか……」
「ああ。聞いて驚くなよ。女神の再来。世界の癒し手。偉大なる聖女、ミサキさまだ」
どうだ! とばかりにライネルさんが胸をそらした。
けど。
やっぱりそうだーっ!
どどどど、どうしよう。
あたし、「攻略対象者」に出会ってましたっ!
――このままいけば、もしかすると、この攻略対象者全員に会えるんじゃないのか?
ルッカさまにそう言われた時は、「まさか」と笑って終わったけど。
これですでに6人、お知り合いになってますっ!
「どうした? 驚きすぎて声も出ないか?」
えっと。まあ。違った意味で。
「アイツもさ。今でこそ聖女だなんだって言われてるけど、本当は、そんなスゴいヤツじゃないんだよ」
ライネルさんが頭を掻いた。
「孤児院でも、一、二位を争うぐらいのどんくさいヤツで。なんにでも一生懸命なんだけど、どこか抜けてるっていうのか。危なっかしいヤツなんだよな」
その言葉には、どこか優しい愛情が滲み出ている。
「村のみんなを助けるために癒しの力を使って、そのおかげで聖女だって崇められるようになったけど。もとはアンタみたいな、純朴な女の子だったんだよ。力だって、皆を助けたいって必死になっていたときに目覚めたものなんだ」
純粋に、困っている人たちを助けたい。その一心で目覚めた聖女の力。
多分だけど、ミサキさまは、とてもお優しい、どこにでもいるような一少女だったんだろう。ご自身のお力もお生まれも何も知らずに、ライネルさんと屈託なく笑いあう。そんな風景が思い浮かんだ。
「最近は、伯爵令嬢なんて立場になって、王太子殿下との婚約も間近だと聞いたけど」
うえっ? 殿下とっ?
そんな話、聞いてないよっ? 断ったって、伺ったけど?
叫びたい言葉を、グッと呑み込む。
「なんかさ、もう俺なんかいなくってもいいのかなって思うと、少し寂しくてさ。妹に先に巣立たれたような気分っていうのか。だからかな。アイツによく似た雰囲気のお前さんに声をかけちまった」
クシャッとちょっと乱暴に、でも優しく頭を撫でられる。
その手に含まれた気持ち、少しわかる気がした。
「残るは守護獣セルヴェスティさまだけか……」
夜、自分用の寝台の上で一人呟く。
目の前には、満足そうにドングリを頬張るセルヴェ。
その頭をチョンチョンと撫でながら、瞼を閉じる。
ライネルさんに会ったこと、殿下たちにも報告しなくっちゃ。
ほどよい疲れから、アッサリと眠りに落ちていく。
「どこにいるんだろ。守護獣……さ…ま」
お嬢さまを「断罪」されるのはイヤだけど、ミサキさまが困っているのなら、助けて差し上げたい気分にはなる。
――ここにおるではないか。
夢のなか。
不思議な声を聞いた気がした。
第二十話です。
わーい、二十話だぁ、わーいわーい。
ってことで(!?)ようやく起承転結の「起」が終わりました。攻略対象者、ほぼ出そろったしね。
長かった~。ここまでが長かった~。
一応、このお話は、40話程度を想定しているので、約半分に到達したことになります。順当に行けば、9月上旬に終了予定。大枠は出来ているので、あとはだんごが怠けたり、気持ちがヘタらなければ……という問題が残ってますが。
これからもよろしくお願いします。




