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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
原初の竜編

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【Ⅴ巻発売記念番外編】ドラゴンさん、魔力調整修行中



「うーあーわかんない!!」


 レイラインから意識を浮上させた私は、ヴィシャナ山脈の麓ふもとでごろんごろん転がった。

 ちょいと、黒い鱗に削られた地面が土埃を立てたり、びたびた振り回す尻尾で岩が砕けたりするのはご愛敬だ。


 バナナの皮ですっころがってぼっち万歳種族なドラゴンに転生してはや数十年。とうに人間だった時の年齢は超えてあきらめはついた。

 けれどもドラゴンにまかされた魔力循環の調整というやつが、大変にやっかいだった。

 あえてたとえるんなら何百本と絡まったあやとりのひもを、中に流れている液体がこぼれないようにピンセットで解くような作業なのである。


 足りないところは、レイラインを作って延長したり、多すぎるところは適切な長さに切って、流れている量が足りなければ追加して……。やらなきゃいけないことが多い、やばい。

 おかげで、いまだにこの土地にはよどんだ魔力から生じる魔物がはびこっていて、そっちの駆除にも負われている。

 魔物が増える原因が魔力のよどみで、魔力をよどませないためにはレイラインを整えなきゃいけないんだけど、レイラインをだめにしているのが魔物な訳で……つまりエンドレスで仕事が終わらない。


 ううもうちょっと早くレイラインを整えられれば脱せるのに。

 どうしてもへっぽこドラゴンから抜け出せないや。とべそをかいていれば、ふと森の香りがした。


『黒竜や、あまり優れぬ顔をしておるの』


 古代語で話しかけてくれた木精のおじいちゃんに、私は泣き言をもらした。


『おじいちゃん、やっぱり全然うまくいかないよ。私、ほんとに一人前のドラゴンになれるのかな』


 ドラゴンが知っているべきである知識が不十分だった私は、私よりもずっと長生きであるおじいちゃんに魔力のつかみ方からレイラインの結び方まで全部教えてもらった。

 あれだけ親身になってもらったのに、教えてもらったことを生かせていない気がする。

 しょんぼりと肩を、いやドラゴンだから長い首を落としていると、おじいちゃんはひげをなでながらほのぼのと言った。


『なに、お前さんは生まれて間もないにも関わらずようやっておるよ』

『生まれて間もないってもう数十年はたっているよ?』


 そう返せば、おじいちゃんは一瞬だけ切なそうな顔をした気がしたけど、すぐに戻った。


『何を言うておる、たかが2桁じゃろう? わしから見ればひよっこじゃ』


 おじいちゃんはそうして、地面に伏せている私の首すじをなでた。


『一つ一つ越えてゆけば良い。おぬしはまだ魔力となじみ始めたばかりなのじゃからの。おまえさんの成長はわしがよくわかっておる』


 おじいちゃんの周りに流れる静かでさわやかな魔力と、その手の感触は何よりも雄弁で、私の気持ちを落ち着かせてくれたのだった。







「あーもーうまくできないー!!」


 そう言って地面に転がる燃えるような赤い髪の女の子に、私はかつての記憶が蘇ってきて思わず笑みをこぼした。

 ああそっか、おじいちゃんにはこういう風に私が見えていたのか。

 笑う気配を感じたのか、転がってた女の子、カロルが顔を上げてしかめっ面になる。


「むーおばあさまったら笑わなくても良いのに」


 唇をとがらせるのはアールの子供で、私の孫に当たるカロルだ。

 今練習しているのは初歩的なレイラインの調整だ。

 いくつかアールから出題された擬似的なレイラインの滞りを、カロルは一生懸命解いていたのだが断念したらしい。

 アールも今回は難しめの問題にしたようだし、カロルはまだ生まれてから2桁にもならないんだから、そんなにすぐにできるわけがない。


「いやいや、笑ったわけじゃなくてね。私も今のカロルと同じだったなあって思い出したんだよ」

「おばあさまも?」


 私は、黄金の瞳をまん丸にするカロルの頭をなでてやった。


「焦らなくて良いんだよ。君はちゃんと成長できてるから」

「そう?」

「うん」


 くすぐったそうな顔をするカロルの瞳に光が戻ってくる。

 昨日と今日ではわからないかも知れないけど、一ヶ月一年になるとずいぶん違う。

 おじいちゃんはきっと、私よりも私の成長を知っていてくれたのだ。


「よーし、もうちょっとやってみるわっ。あたしだっておじさまやおばあさまやおかあさまみたいな素敵なドラゴンになるんだから!」


 そうだ、おじいちゃんにこのことを話しに行こう。

 そう、心に決めつつ、私は気合いを入れてまた問題にとりかかるカロルをほほえましく眺めたのだった。



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