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ドラゴンさんは友達が欲しい  作者: 道草家守
原初の竜編

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【転生吸血鬼さんコラボ番外編】ドラゴンさん、異世界の服を着る

こちらは以前投稿しましたちょきんぎょ。先生著「転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい」とのコラボ短編です!

もし、ラーワがアルジェの服を着たらどうなるか?というIF小話となります。

ちなみにどんな服装かは、こちらの転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい特集ページをご確認くださいませ。

http://www.es-novel.jp/booktitle/21tenseiohirune.php

「さあ、着なさいまし」


 リグリラに呼び出された私は、会心の笑みを浮かべる彼女が差し出してきた一式に唖然としていた。


 ハンガーにきれいに着せかけられているのは白と青を基調とした、ノースリーブのワンピースだ。

 別口で暗色のフード付きローブやベルト、金色のガーターアクセサリーまでそろっている。


 それは、間違いなく、数日前うっかり話した服装――夢の中で過ごした違う異世界で出会った少女、アルジェント・ヴァンピールが着ていた衣装なのだから。


 数日前にお茶をしたばっかりだというのに一体何だろうと思ったら、今の今まで作っていたのかリグリラ!

 夢の話だと断ったのに、イメージ画まで描かされた理由はこれだったか!


「ちょうどマンネリ化してつまらないと思っていたところでしたから、良い刺激になりましたの。それならアイディア元のあなたが試着するのが道理じゃありませんの?」

「いや、私アイディア提供しただけだし、ほら、アールに着せてみるとか!」

「あなたのサイズにぴったり合わせましたのよ?」

「でも忠実にしたんなら、丈は……」


 遠回しに断ろうとした私だったが、残念ながらにっこりとしたリグリラの圧力は変わらなかった。


「ちょ、ちょっとだけだからね」


 あっという間に負けた私は、その服を受け取らざるを得なかったのだった。



 *



 リグリラのお店の試着室を借りて着替えた私は、じんわりと上がってくる気恥ずかしさに頬を染めていた。


 衣装自体は、私が書いたイメージ画から型を起こしたとは思えないほど忠実だ。

 青色の布地で作られたノースリーブのワンピースに白い装飾布を重ねて、装飾ベルトで押さえている。

 スカート部の下にはレースのついたペチコートが遊んでいるのがかわいい。

 暗色ローブやら、太ももにつけるガーターアクセサリーまでそろえてあって、再現度が高すぎる。

 それだけ忠実であれば、分かってはいた。

ワンピースの丈まで素晴らしく忠実だろうことは。


「なあ、リグリラ、ちょいと丈、短すぎやしないかい……?」


 膝上20センチと言っても過言ではないミニスカートぶりは恐ろしく頼りなかった。

 地球に居た頃はこういう丈も珍しくなかったし、楽って言えば楽なんだけどね。

 こっちの世界はスカートの丈は長めだったり、短くともタイツや靴下で足を覆うのが一般的だったから、こんな短いのは久々なんだ。

 ……ちょっと見栄張りました、初めてです。

 というか、このノースリーブも、寒くはないんだけど落ち着かない。


「あら、あなたが描いたデザイン画に忠実にしましたのよ? 大胆だと思いましたけど、実際に形にしてみると、」

「ひゃっ」


 抗議をしてみたものの、余裕綽々のリグリラにすすりと太ももの線をなぞられた。

 ぞわってした。ぞわって!


「あなた、足の形が良いですもの。せっかくですから存分にアピールしなさいまし」

「もしかして、普段足にぴったりした服を勧めるのって」

「わたくしは仕立屋ですのよ? 女性の美しさを万全に引き出すことが仕事ですの」


 当然とばかりに言うリグリラに確信した私は、同時に完全な敗北を覚えて肩を落とした。

 バロウの最新流行をリードするリグリラだ。

 彼女の美意識というのは絶対的に信頼が置けるわけで、なおかつ私もかわいいなーきれいだなーと思ってしまう時点で、言い返せる言葉などないのである。

 リグリラは、はっきり物を言うから、良いって言うのもお世辞じゃないとわかるし素直に嬉しい。


「とはいえ、このデザインをそのまま流用してもこちらでは受け入れられないでしょうから、少々工夫が必要かしら」

「ならどうしてそのまま作ったんだい」

「趣味ですわ」

 さいですか、とリグリラにじと目を向けたあと、私はあきらめてのびをした。

「それじゃあ、もう着替えるよ。いいね」

「あらもったいない、そのまま帰ってもよろしいのに」

「やだよ、こんなの見せたらネクターがどんな反応をするか」


 きらきら表情を輝かせて褒められるのは嬉しいけれども、同時にちょっと面倒くさいのだ。

 容易に予測がついた私は試着室に戻ろうとしたのだが、軽い悲鳴が響いた。


 かすかに漂ってくる花のような匂い。


 試着室を覗いてみれば、リグリラの使い魔兼メイドであるイルちゃんが肩をふるわせて涙目になっていた。


 彼女はいつも、私がリグリラに着せ替え遊びをされている間、無造作に投げられる服を管理してくれている。

 皺もきれいに伸ばしていい香りもつけてくれて、洗い立てのように整えてくれる手腕は、やべえメイドさんすげえ!となっているのだが。


「申し訳ありません、黒熔様。お召し物の手入れをしようとしたのですが、汚してしまいました」


 その手には、香水らしい物がぶちまけられた、私の服が握られていたのだった。




 *




 無表情ながらも体を震わせて、今すぐ首を掻き切らんばかりのイルちゃんをなだめ、例のアルジェちゃん服で我が家に帰ってきた私である。


 私の服は、責任を持って洗濯して返すとリグリラは約束してくれたが、その顔が若干楽しげだったのは見逃さなかった。

 いや、完全なる事故なのはイルちゃんの蒼白な顔で自明の理なんだけど、なんて面白いハプニング!位は絶対思っている。


 まあね。この服装も、かなり奇抜なだけで公衆の良俗に反しない服装だから私の精神値がちょびっと削られるだけだ。

 あんまり人に会わなかったのも幸いだったし。

 ただ、この人は避けられないんだけど。


「ただいまー」

「おかえりなさい、ラーワ、ぁ!?」


 ひょっこりと顔を出して出迎えてくれたネクターは、私の格好を見て目を丸くした。


「いやあ、リグリラんところで服を汚しちゃってね。試作品を着せてもらったんだよ」


 早口で言いつつそっとネクターをうかがった。

 いつもネクターは私がリグリラの新作を着て帰ってくるたびに、どうしてそこまで良いところを探せるんだと言うくらい褒めちぎってくれる。

 最近は慣れたとはいえ、褒め殺されると表現しても過言ではない言葉の数々に、私の精神が半死半生になるのがデフォだ。

 今回もそれを覚悟して身構えたのだが、予想に反し、ネクターの表情は真っ赤になって?


「なんて格好をしてらっしゃるのですか」

「ふへ?」


 そんな風に叫んだとたん、身を翻したネクターは、戻ってきたとたん大きな布を私にかぶせてきたのだ。


「何するんだいネクター!?」

「そんな肩もあ、足も出すなんて破廉恥ですっ、まだ明るくともおかしな人間という物は沢山居るものなのですよ!?」

「はあっ!?」

「そもそもあなたは無防備すぎるのです! 局部を露出することは公序良俗に反しますしあなたが妙な輩に絡まれることにもつながるのです! あなたはもっと自分の魅力を自覚してくださいっ」


 そんなことをいいつつ、ネクターはぐいぐいと大きな布――シーツを巻き付けてくる。

 ネクターが、私を思って言ってくれているのは分かった。いつもの暴走の派生形だとも。


 けれどもその言い方は、さすがにちょっとかちんとくるぞ?


「ともかく、私が着替えを持ってくる間そうしててくださ……っ!?」


 衝撃から抜け出した私は、むかむかと湧いてくる感情のまま、腕を伸ばしてネクターをひっつかむ。

 表情を驚きに染めるネクターをその場に押し倒した私は、そのままネクターに馬乗りになった。

 魔術を使って衝撃を緩和させたが、いきなり床に転がってあっけにとられるネクターを見下ろす。


 私が思い出すのは、リグリラの言葉。


 ”せっかくなら、存分にアピールしなさいまし”


 確かにネクターの言いたいことも分かるし、恥ずかしくはあったんだけどね。

 結構気に入ってるから、怒られるのも不本意なんだよ。


「どう、したのです?」

「なあ、ネクター、私のこれ。そんなに見る価値ない、かな?」


 するりと、肩に掛かるシーツでネクターを閉じ込めた私は、膝立ちになると、すいと、ガーターアクセサリーをなぞってみせた。


 見せつけるように、ゆっくりと。


 薄青の視線が、私の指先に集中するのを感じた。

 けれど、まだ怒りは忘れてないらしく、かろうじて私に言い返してくる。


「い、いえそんなことはないですけど、私が言いたいのは」

「大丈夫だよ、転移で帰ってきたし。変な人にも会ってない。たださあその論理で言うと」


 リグリラの仕草を思い出して、ゆっくりと、唇のはしをつり上げた。


「いちばん、私におかしくなってるの、君ってことになるけど?」


 薄青いネクターの白い頬が、真っ赤に染まり、薄青の瞳が限界まで見開かれるのに、私はぞくぞくとした優越感を覚えた。


「いえ、その、ちが、そうなんですけど、その」


 珍しく全力でうろたえるネクターはかわいい。

 ちょっとだけ、リグリラが仙次郎をからかう気持ちが分かった気がして、私はそのまま首をかしげてみた。


「ね、どきどきした?」

「……しました。驚きすぎて、強い口調になってすみません」


 とうとう険を引っ込めて、顔を覆って謝ってくるネクターに、私のもやもやもほぐれた。

 けれど深くため息をついて、片手で顔を覆うネクターはいつもよりも無防備で。

 もっとからかいたい。


「ねえ、ネクター」


 調子に乗った私は、彼の名前を呼ぶと、そっとスカートの端をつまんでわずかに持ち上げて見せた。


「もうちょっと、見る?」

「っ」


 見えるか見えないか、ぎりぎりのところまで上げれば、ネクターがひゅっと息をのむ音が聞こえた。


 心の中でにやにやしていた私だったが、ネクターの薄青の瞳が怪しさを帯びる。

 あれ?


 っと思っているうちに急にネクターが上半身を起こした。

 体勢を崩しかけたところに、ネクターの腕が回って支えられる。


「ラーワ」


 吐息混じりに名前を呼ばれて、ぞくりと肌が粟立つ。


「たーだーいーまー!」


 元気なアールの声が響いて、私たちは全力で飛び退いた。


「あれ、かあさまとうさまどうしたの?」


 間をおかずに現れたアールが見たのは、シーツをかぶる私に倒れているネクターだろう。


「いや、ちょっと慣れない格好でいたらシーツで滑っちゃって……」


 私のすごく苦しいいいわけも素直に飲み込んだアールは、私の格好に気づいて金の瞳を輝かせた。


「ひゃー! かあさますっごくかわいいっ。お姉様の服? すごーい!」

「そうだよ、ほら、アール外から帰ってきたら手洗いとうがいだよ」

「すぐやってくるから、絶対待っててね! きがえないでね!!」


 たちまち洗面所へ消えていったアールにほっと息をついた私は、さらりと視界に流れてくる亜麻色の髪にどきりとする。


「今夜は、覚悟してくださいね?」


 耳に落とされた言葉と含まれる熱に、私は背後を振り返る勇気がなかったのだった。



 その後、アルジェの服はそっとタンスの奥にしまわれましたとさ。


 おしまい

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