第30話 そしてドラゴンさん達はめでたしめでたし
近代史を語るにあたって、避けては通れない大災害である”蝕の落日”は、各国の見解の相違はあるものの、転換期となったのは間違いがない。
世界の9割が死滅し、多くの人々と、魔族と、精霊と、古代神竜が肩を並べ、あまたの英雄を生み出し、神より世界の存続を勝ち取った一大事件は、たった一日の出来事にもかかわらず、一日では語りきれないほどの様々な影響を及ぼした。
通称“神雪”を要因とする強力な幻獣被害や、異常気象によって各地域に甚大な被害が及んだ一方。魔術機構学の発達による産業革命と、それに付随する大航海時代の到来は文明を一足飛びで進化させた。
また、この時期を境に、この世界を支える古代神竜達がたびたび目撃されるようになったのも、欠かさず語らなければならないことである。
東和に棲まう白狐の巫女を支える嵐刻竜。緑の癒やし手によりそう荒野竜。蝕の落日に人々を守る星の雨を降らせた星華竜。
そして、神と邂逅し、蝕の落日を終わらせた黒熔竜。
役目をやり遂げた黒熔竜は、その後長い眠りについたと言われるが、広い海洋のどこかで伴侶である万象の賢者と共に穏やかな日々を過ごしていると噂されていた。
一時期、黒熔竜の眠る孤島を見つけるため、バロウ、ヘザット、東和からなる黎明の三国の警告にもかかわらず諸国は大々的な捜索を行ったこともあった。
かの竜の持つ英知と万象の賢者のはぐくむ精霊樹が、何よりも魅力的だったのは間違いない。
しかしながら、現代の探知術式を以てしても、孤島の痕跡すら見つけられず、噂は噂として収束していった。
だが、船乗りは……とくに海賊と呼ばれる者たちの間では、夢とロマンと欲望を以て語り継がれていた。
*
「要するにその海域は、船乗り達には禁忌なの。その海域にさしかかったとたん、舵が動かなくなるし、それでも進もうとすると決まって大時化になってえらい目に遭うんだよ。だから、あたしたちの間ではそこに何かがあるとわかっていても、何もないことになっているのさ」
ニトカは細かく機器類をチェックしながらも、本日のお客様兼同乗者の青年に念を押した。
ここは、竜の海域近くの空である。
ニトカが操っているのは、長年の相棒である二人乗りの飛行艇だ。
風精の力によって膨らませた風船によって浮き、魔術機構で動くプロペラで飛ぶこの乗り物は、今まで幻獣の支配下にあった空を飛び、船よりも数段早く運搬できる代物として爆発的に広がった。
操縦には魔力が必要なため乗り手は限られており、軽量な荷物しか運べないが、乗り手と整備によって格段に早さが変わるため、ニトカのような若い女でも一流として稼げる。
金さえ積めば、多少怪しい依頼でも引き受け、受ければ期日通りに届ける。
それがニトカの評価だったが、今回受けた依頼は正直後悔していた。
機器のチェックを終えたニトカはそっと、本日のお客様を振り返る。
恐ろしく美しい青年だった。艶を帯びた白銀の髪は無造作に括り、繊細ながらも雄々しさの垣間見える造作はたいそう魅力的だ。
ゆったりとした服装で隠れているが、全体的にやせ型で、均整の取れた体つきとくれば、たちまち身ぐるみ所か、それなりの場所に売り飛ばされることだろう。
実際、数日前に、彼が荒くれ者どもに絡まれていたところをニトカが救ったのだが、こうしてなし崩し的に依頼を受けることになってしまった。
言外にあきらめろというニトカの言葉に、気分を害した風もなく青年は淡々と同じことを繰り返した。
「だが、そこにあるのだ。そこまで連れて行ってくれるだけで良いよ」
「まあ、前金はもらっちまってるからね」
ニトカは、そっとポケットに入れている、白銀の鱗を思い出した。
宝石のような艶を帯びた薄くて固いそれは、内包している魔力量からして、おそらく古代神竜のものだ。
どうやって入手したのかは気になるが、ニトカが怪しさをひっくるめて飲み込んで彼を飛行艇に乗せるくらいには破壊力のある代物だった。
なにせ、ニトカには金がいる。これを売り払えば、足りるのだ。
それに、彼は外見も雰囲気も浮き世離れしているが、それにしては旅慣れている雰囲気もあるからちぐはぐだ。
でも頭のねじが外れているにしては言動もしっかりしているし、妙に確信めいた色も感じるから、どうにもただの道楽には思えなかったのもあった。
しかしながら、気になることもあるもので。
「なあ、竜の巣に行ってどうするんだい?」
「なぜそのようなことをきくのだ」
本気で不思議そうな顔をされて、ニトカはがくりと肩を落とした。
「そりゃあ行ってくれ、落としてくれ、って言われたって、依頼人がだだっ広い海の真ん中でおぼれ死ぬなんてことは目覚めが悪いからに決まってるだろう?」
ニトカは多少怪しい仕事でも引き受けるが、荷物の安全もきっちり保証するのだ。
そう言えば、白銀の青年はゆるりと口角を上げた。
「そうか、ニトカは良い人間だな。君に頼めて良かった」
その笑みの華やかな破壊力にニトカが絶句していれば、白銀の青年はこう続けた。
「案ずることはない。祝いの言葉を言いに行こうと思ったのだ」
祝いの言葉と言うことは、そこに誰かがいるのか?
ニトカが混乱していれば、すっと白銀の青年が表情を引き締めた。
「招かれざる者が来ているようだな」
青年の言葉にニトカの魔力で強化した目で周囲を索敵すれば、複数の飛行艇が近づいてくるのを捉えた。
風船部分に誇示するように描かれた紋章は、ニトカでも知っている素行の悪い海賊まがいのことを平気でする飛行艇団のものだった。
普段この空域に、飛行艇は近づかない。少し遠回りでも協定で定められている航路のほうが断然安全であるからだ。
こんなところを通るのは、よほど後ろ暗いところがあるか、自分を追いかけてきたかだ。
「……なあ、お客さん、もしかしてあたしの前金をあの夜誰かに見せたかい?」
「そういえば、見せたな。金はあるかと聞かれたからな」
「つまりあいつらは空の上でお宝を横取りしようって魂胆だよ畜生!」
ニトカは即座に舵にとりつくと、魔力を一気に流し込み、エンジンを活性化させる。
たちまちプロペラが激しく回り、飛行艇が加速していった。
荷物が少ない分、足はこちらの方が速い。だが、もうすぐあの竜の巣だ。
こうして人が空に進出するようになってから、再び捜索が流行ったが、軒並み乱気流や大嵐に巻き込まれて墜落したと聞く。
そんな危険地帯を追われたまま飛行するなんて自殺行為であったし、アレを引き連れたまま海上に降りることはできなかった。
「くっそ、お客さん、今回はいったん逃げに回るよっ」
「いや、それは困る」
「はあ!? 馬鹿かっ命あっての物種だろ!?」
ニトカが怒鳴れば、なぜか白銀の青年は、ベルトを外し荷物を解いていた。
取り出したのは、一丁のリュートだった。
瀟洒な装飾の施されたそれは一財産になるだろうと言う代物だったが、なぜ今取り出すのかわからないでいると、若い男の声が聞こえた。
『まったく、魔法でちょちょいと行っちゃえば良いのに、回りくどいことするんだから』
「すまないね。大半の力を失ってるから、気軽に戻れないのもあるが。俺の力で行きたかったんだ。わがままに付き合わせる」
『いーよ、格好良く弾いてくれれば』
ニトカの聞き間違いではなければ、その声はリュートから聞こえた。
ごく当たり前のように会話を成立させた青年は、慣れた手つきでリュートを構え、じゃらんと弦に手を滑らせる。
「俺が彼らを退けよう」
「は……!?」
ニトカが驚いている間に、青年は朗々と演奏を始めた。
それは心が躍り出してしまいそうな、激しい曲調だった。
ざっと全身に鳥肌が立ったと思ったら、周囲の魔力が渦巻き出すのを感じた。
魔術師ではないニトカだったが、それくらいは飛行艇を操る者だったら肌で感じ取ることができる。
演奏に踊らされるように渦巻く魔力は、どんどん激しくなり、やがて大嵐となって眼前へと迫ってきていた飛行艇団に襲いかかった。
あっという間の出来事だった。
大嵐に襲われた飛行艇は、バランスを崩し渦巻く竜巻によって遠くへと運ばれていくのを、信じられない面持ちでニトカは眺めた。
「あんた、魔術師だったのかい!?」
「いや、ただのリュート弾きだ。画家にもなるがね」
よくわからない返しにさらに追求したかったニトカだったが、そんな余裕はみじんもなくなった。
何せ、演奏をやめたあとも、荒立つ魔力は収まらず、飛行艇の飛行姿勢がうまく定まらなくなっていたからだ。
「おいあんた、なんとかできないのかい!?」
「すまない、少し調子がつきすぎたみたいだ。落ち着かせるには時間がかかる」
「ばっかやろー!!!!」
ののしりながらもニトカも必死になって舵を取ろうとするが、悪いことに風船部分と、搭乗部をつなぐワイヤーが一本切れた。
沈みはしないが、ぐぐっと搭乗部分がかしぎ、無防備だった白銀の青年の身体が浮く。
「っ!!!」
ニトカはとっさに腕を伸ばして彼の腕をつかんだ。
この高さから落ちれば、人間は死ぬ。
ぐっと成人男性一人分の重みが肩にかかり、うめいたニトカだったが、根性で堪えた。
「ニトカ、君までがっ」
「うるせえ、あきらめんなよっ!!」
驚愕に黄金の瞳が見開かれるが、無視した。
人が死ぬのを見るのは嫌いだ。死にかけている人間を何度も見ているからこそ、健康な人間が死ぬのは大嫌いだ。
だが、支えにしている操縦桿がきしんでいるのがわかってしまう。
自分の意思とは関係なく、腕の力が抜けかけるのがわかってしまう。
「ニトカ、離すがよい。俺は大丈夫だ!」
それでも必死に首を横に振って。
ひゅんと、大きく風が吹いた瞬間、操縦桿が折れた。
空中に投げ出される。
長年の相棒が空へと上って行くのを見送って。
ぽすんと、身体が固くて柔らかいものに受け止められたのを感じた。
海に着水するにはまだ早いし、海ならば、壁に激突するような衝撃を覚えるはずだ。
「え?」
「無事だな、ニトカ。なによりだ」
ニトカが慌てて背後を見やれば、受け止めていたのは白銀の青年だった。
その美しい顔が間近にあるのに急に羞恥を覚えたニトカは、慌てて離れてそして気づく。
何か別の、空飛ぶものに受け止められたことを。
ニトカは、真昼の太陽に照らされて、濡れたような艶を帯びる美しい黒の鱗の上にいた。
少し見渡せば、裏が赤い、黒の皮膜の翼が広がり、背後にはバランスをとるように優美な尻尾がくねっている。
すると、そっと風精がニトカの側に飛んできて、声を届けてきた。
《間に合って良かったあ! 怪我はないかい?》
若い、ともすればニトカと同じくらいの年齢に聞こえる若い女性の声は間違いなく、ニトカの乗っている、そして長い首をもたげてこちらを見ているこの竜の声なのだろう。
だが、ニトカはただがくがくと頷くことしかできなかった。
なにせ、この竜を知ってる。
一度も見たことはないが、劇で、話で、なんども見聞きしていた。そしてとなりにいる白銀の青年が昨夜手慰みにと唄ってくれた物語すら新しい。
竜と人の、おとぎ話のような恋物語。
《にしてもびっくりしたよ、アドヴェルサ。訊ねてきてくれるんなら連絡をくれれば良かったのに》
「そうか、連絡を入れるという習慣があったのだったな。礼を欠いてすまない。そして訪ねるのが遅くなったことを謝罪しよう」
律儀に頭を下げた彼の黄金の瞳と、こちらを見ている黒竜の黄金が同じなことにようやく気がついてニトカは絶句した。
《いいよ。会いに来てくれたことが嬉しい。あ、そうだそっちの君の飛行艇、回収しとかないとね》
さらっと言った瞬間、飛行艇がふんわりと風に巻かれて、黒竜と併走し始めた。
《所で、歓迎するけどどんな用?》
「フィセルに聞いたのでな。星華竜の一子の誕生日を祝おうと思ったのだ。人間の習慣では贈り物をすると聞いたので、持ってきた」
そう言って白銀の青年が取り出したのは、身の丈はあろうかと言うほどの大剣だった。
飛行艇に積み込んでいる節はなかったというのに、一体どこから取り出したのだろう。
ニトカが呆然としていれば、黒竜が息を呑むのが伝わってきた。
《それは……》
「うむ、バスタードの剣だ。剣技が好きだと風の噂で聞いた。俺はてんでだめだからな。使ってもらえる者の下で大事にしてもらいたい」
ドラゴンの表情なんてまったくわからないニトカだったが、その時の黒竜の微妙な表情は十分に理解できた。
《き、気持ちは嬉しいんだけど、うちの子まだ5歳だから、それをすぐに使うことはできないかもなあ》
「そういうものか……」
その遠回しな物言いが、全力で配慮された結果だと言うことにニトカはすぐに気がついた。
ひどく残念そうな白銀の青年に、慌てた黒竜だったが、さらに声を上げた。
《で、でも気持ちは嬉しいし、もしかしたら良い大剣使いになるかもだし!あの子の反応を見よう。あとあとネクターがちょうどご飯つくっているからさ、食べていってよ!!》
「喜んでご相伴にあずかろう。最近人間の食事のうまさに目覚めたところだ」
《ふはは、うちの旦那の料理は絶品だよ?》
すぐに調子を取り戻した白銀の青年は、衝撃の連続でふらふらとするニトカの方を向いた。
「すまないがもうしばらく付き合ってくれ、あとの金はそれで渡そう」
「へ!? あたしもついて行くんですか!?」
このドラゴンへついて行くのなら、例の島へ入ると言うことだ。
実在するとわかっただけでもやばいのに、島に入るなんて恐ろしすぎる。
依頼は完遂したのだし、飛行艇があれば帰れるからと、言い募ろうとしたのだが、その言葉は不思議そうなドラゴンの声に遮られた。
《ええ、当たり前だろう? アドヴェルサの友人をただで帰したらネクターにもアールにも恨まれるよ。是非是非私の孫の顔も見てってくれ! やんちゃだけど可愛いからっ》
「いや、そのでも」
「弟の治療でせいているのもわかるが、君の飛行艇も壊してしまったからな、一人で返すのは不安だ」
《え、なに、君の弟君病気なのかい? なるほど魔力過剰ねえ。ここで会ったのも何かの縁、ちょっと話してみないかい。私の旦那と友達は、そういうのは得意だからさ》
それって、緑の癒やし手と万象の賢者のことだよね!? と言うニトカの叫びは幸か不幸か外には漏れなかったのだった。
*
数週間後、ニトカは、ぼんやりと家のソファに座り込んでいた。
心配そうに、弟がのぞき込んでくる。
「姉ちゃん、姉ちゃん。大丈夫か」
「あん、あんまり大丈夫じゃない……」
恐ろしい目に遭った。
いや、降り立った孤島にあるかわいらしい家でいただいた料理はたいそうおいしく、黒竜の孫は言葉通りたいそうやんちゃだがかわいらしかった。
ついでに飛行艇まで直すのを手伝ってくれた上に、この家まで訪れてきてくれただけでなく、弟の診断までしてくれたのだ。
絶対誰にも話せないとニトカは思った。
あのドラゴンさん一家に出会ったことなんて、話したところで誰も信じてくれないにもかかわらず、うっかりと偉い人の耳にでも入ったりしたら、追いかけ回されること必死だ。
「なあ、姉ちゃんっ、動けるって、すっごい幸せだな!」
なにより、ずっと寝たきりだった弟がはしゃぎ回れるまでに治療をしてくれた彼らの信頼を、裏切りたくなかった。
「そうだね……さってと! また仕事をしなくちゃねっ」
自分の頬を叩いて気合いを入れたニトカは、勢いよく立ち上がった。
実は、弟の治療代として、ニトカは今まで治療費として貯めていたお金をすべて彼らに差し出していた。
それがニトカの矜持であったとはいえ、ほぼ全財産を差し出してしまった手前、働かなければ弟と二人暮らしのニトカは路頭に迷う。
なにせ、飛行艇は維持費だけでもべらぼうにお金がかかるので。
それでも竜の鱗はお守りとして取ってある。なんとなく、彼らに出会った思い出として一つくらい形のある物があってもいい気がしたのだ。
「動けるようになったからには、俺も働くよ!」
「おっ良い意気だね。じゃあ整備、手伝ってくれよね」
かけがえのない弟と言い合いながら、飛行艇の格納庫へ向かおうとした矢先、玄関の戸が叩かれる音がした。
すわ依頼か、と思ったニトカは、足取り軽く玄関の戸を開け。
そこで朗らかな笑みを浮かべて立っていた白銀色の髪の浮き世離れをした美貌の青年に、ニトカはあんぐりと口を開けた。
「ニトカ、健勝か」
「あんた、なんで……」
あれっきりだと思っていたために、再び訪ねてくるとは思っていなかったニトカが呆然としていれば、白銀の青年はなぜか照れたように頬を緩めた。
「その、だな。君とした空の旅がたいそう面白くてな。また俺を運搬して欲しいのだ」
「はあ、仕事かい?」
「もちろん、金銭は支払おう。だが黒熔のに言われてな。まずはこう言わなければならないそうだ」
話が見えず、いぶかしげにニトカが見やれば、白銀の青年は照れくさげに片手を差し出してきた。
「ニトカ、俺と友人になってくれないだろうか」
あ、こいつすんげえ馬鹿だ。とニトカは思った。
たったこれだけを言うために、自分を探し出したのだと、理解してしまったからだ。
初な娘であれば、この美貌の笑みだけで勘違いしてしまうだろうが、あいにくニトカは男社会の中で延々と鍛えられ、場末の酒場でジゴロにだまされる女を何人も見てきたのだ。
そして、わかる。この男、じゃなくてこの竜。人間の顔の扱いと言うものをまったく学んでいない。
野放しにしては危ない。
ニトカはがしがしと自分の髪をかき混ぜつつ忠告した。
「とりあえずあんた、それ、うかつに人に言うなよ。勘違いされるから」
「人間に言ったのは、数千年間で君一人だけだ」
さらりと言われたその一言に、不覚にもニトカの胸が跳ねた。
ついでに心臓に悪かった。
おそらく、これをしない方が、平穏に過ごせるだろう。
だが、なんだかんだ言いつつも、ニトカはこの青年を放っておけない気がしてしまっているのが困る。
深くため息をついて覚悟を決めたニトカは、期待と不安の見え隠れする、青年の手を乱暴ににぎってやった。
「まずは、あんたの名前を教えてくれよ」
ドラゴンの友達、というのも悪くないかも知れない。
ゆるゆると笑みの広がる黄金の瞳を見上げて、そう思いつつ。
「それから、後ろにいるものっすごく剣呑にあたしをにらんでる野郎と、何考えてるかわからないぼーっとしている美女が誰なのかも追加な」
「言葉を慎めよ、人間」
「こら、リュート」
早くも一筋縄ではいかなそうな気配に、顔をひきつらせたニトカだったのだった。
こうして、白銀のドラゴンと、飛行艇乗りの少女の物語が語り次がれることになるのは、もうすこし先の話である。
終わり
これにて、「ドラゴンさんは友達が欲しい」は完結となります。
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