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第十三話 ゴッドハンド

10話を目標に書いてきた本作ですが、なんとか13話まで書くことが出来ました。話のネタはまだまだあるのですが、他の作品にも着手したく、一旦連載終了とさせていただきます。

私の稚拙な小説を読んでくださった皆さんありがとうございました。

続いてストックの中から別の作品を掲載しますので時間つぶしに読んで頂けると幸いです。

この話に出てきた「マッテオ」も登場する【駄菓子屋の親子の話】です。(4/10 0時開始 多分…)

挿絵(By みてみん)

「いや~噂通りすごい腕やね。さっきまで全然上がらんかった腕が嘘みたいに上がるわ」

施術室から出てきた関西弁の男性は満足げな顔で整体師に話しかけていた。

「ありがとうございます。でも、もう少し体を動かした方がいいですね。お仕事もデスクワークということですので」

「はい、ほんまにありがとうございました。大阪からはるばる来た甲斐がありましたわ」

男性は待合室のあかりの横に座り、会計を待つ間もこの医院の整体師のすごさを興奮冷めやらぬ様子であかりに話した。

男性曰くここの整体師はゴッドハンドと呼ばれ、腰痛や肩こりなどの体の不調をたちどころに解決してしまうという。

この男性はこの一年、地元の接骨院で四十肩の治療をしていたが一向に治らず、たまたま関東の知り合いにこの接骨院の話を聞き、一か月前から予約を取って今日大阪から東京までやって来たそうだ。

「しかもここの先生の手にかかると一回の施術で完治してしまうんや。せやからわしも、次ここまで来て治療せんでもええっちゅうこっちゃ」

「すごいですね」

その話の最中に「横山さーん」と窓口から男性に声がかかる。

「ほんま、お姉ちゃんもここに来れてラッキーやわ。ほなな」

 男性はそう言いながら会計を済ませ、軽い足取りで帰って行った。

「では次の方どうぞ」

あかりは施術室に入り、整体師の先生に首と腰の不調について説明した。

「仕事でほとんど一日中立ちっぱなしだし、スマホもよく見るので首も痛くて、友人からはスマホっ首ってやつじゃないのって言われました」

「そうですか、最近の若い人には多いですからね。ではちょっと見てみましょう」

 そう言って整体師はあかりを立たせて、体のゆがみを見始めた。

 これで本当に腰痛と首痛が治ったらいいなあ。とあかりは期待に胸を膨らませる。

 あかりがここに来たのはあるお客さんがきっかけだった。


 それはある日の営業中。腰に手を当ててしんどそうにしているあかりに三太が声をかける。

「腰の具合が悪そうだにゃ」

「まーね、腰も辛いけど、首の方もこりがひどくて夜もよく寝られないのよ」

「足組んでスマホばっかり見てるからにゃ」

三太は腕を組んでため息交じりに言う。

「ちょっと、毎日立ち仕事やってるからでしょ? 本当だったら労災よ! 労災!」

「こんな大して流行ってない店で労災になる程働いていないにゃ。あ、なんか自分で言ってて寂しくなってきたにゃ」

 からんからん♪

 扉のベルが鳴り、お客さんが入って来た。

常連の吉永さんだ。

 「こんにちは、吉永さん。お好きな席へどうぞ」

吉永さんと言われた女性は軽くお辞儀をしてカウンターへ座る。いつもはテーブル席に座るのに、不思議に思ったあかりが話しかける。

「あれ? 吉永さん、腰痛で高い椅子に座るのきついって言ってませんでしたっけ?」

すると、吉永さんはにやりと嬉しそうに笑った。

「あかりちゃん、いいところに気が付いたわね。そう、私腰痛が治ったの」

そう言って吉永さんは腰のあたりをポンポンと叩く。

「よかったじゃないですか、以前はテーブルの低い椅子でも座ったり立ったりするのが大変そうだったのに」

「そうなのよ、この五、六年ずっと治らなかったんだけど、奇跡的な出会いがあってね」

「どういうことですか?」

「ゴッドハンドよ、ゴットハンド!」

 ん、なんかヤバい教祖様とかの話か? 教祖様が触ったら腰痛が治って代わりに百万円の壺を買わされたとか? あかりがそう思い、ちょっと怪訝な顔をすると吉永さんはそれを察するように、

「ちょっとあかりちゃん、『変な宗教の教祖に騙されて壺を買わされたんですか?』みたいな顔しないでよ」

「えっ? 吉永さん、壺の影響で超能力まで身についたんですか?」

あかりはびっくりして目を丸くする。

「だから違うわよ、それだけ顔に出てたら誰でもわかるわよ」

吉永さんは笑いながら言うが、当たりすぎだとあかりは思う。

真面目な話、すごい接骨院の先生がいるのよ」

「ああ、接骨院? それでゴッドハンドですか?」

「そうそう、安心した?」

「はい。でもそれにしても長年苦しんでいた腰痛がこんなに急に治るなんてほんとにすごい腕なんですね」

「その人はね通院させない男と言うことで有名らしいの、どんな人でも一回の施術で直してしまうから、『通院させない男』ってこと」

「そんなすごい人なら私も見てもらいたいなあ、私も首と腰が痛くて」

「ならちょうどよかったわ、私いくら何でも一回で治るなんて信用してなくて二回予約したの。普通だったら数か月待ちだけどそこをキャンセルせずにあなたに譲ってあげるわ」

 あかりにとっては願ってもないことである。

 一週間後あかりはその接骨院を訪れたが、その 看板には再度ふたたび医院とか言ってあった。

「通院しないのに?」 

 あかりは若干の不安を胸に抱きながらもドアを開けた。

 そして話は診察室に戻る。


「さっきの患者さん先生の事『ゴッドハンド』って言ってましたね」

「まあ体が良くなると機嫌がよくなるから、大げさに褒めてくれるんでしょう」

 先生は苦笑いしながらあかりの腰にバスタオルを乗せて背骨から腰骨のあたりを探るようにさすっていった。

「ああ、あなたの場合は反り腰がひどくてちょっと骨がずれてますね。それが神経を圧迫してるんでしょう」

先生が引き続き施術を進めていくと自分が寝ころんだままでも分かるくらい腰の圧迫感が軽減されていった。

「なにこれ? すごく腰が軽くなってきました!」

「今最後にバランス調整してますからね。もう少しお待ちください」

仰向けになったあかりの両足を揺らしながら先生が言う。半信半疑で来てみたがこんなに目に見えてよくなるなんて本当にゴッドハンドかもと思いながら先生を見上げていた」

「はい。腰はこんな感じですかね。ちょっと立ってみてください」

そう言われて立ってみたあかりは腰の軽さに驚嘆した。

「すごい! まさにゴッドハンドです。先生まだお若いようですけど、何年やられてるんですか?」

「専門学校を卒業してから約八年ですね」

「八年でここまで! すごい才能ですね」

そう言うと先生は深いため息をついた。

「どうしたんですか?」

「いや、私にはその才能が悩みの種なんですよ。さっきの患者さんも言ってたでしょ?もう来なくてもいいって。僕は腕が良すぎて全て一回で完治させちゃうんで、通院してくれる患者さんがいないんですよ、この接骨院の名前のとおり苗字も再度なのに再度訪ねてくれる人が一人もいない……」

「え、でも予約取るのも困難って聞きましたけど、繫盛してるんですよね?」

「はい。おかげさまで。でも、全部初診のお客さまで、毎回初対面の方ばかり。正直人見知りの私にはしんどいです。私はもっと地域に根付いた接骨院として常連の患者さんとかと世間話したりしたいんです。うう、この才能が恨めしい……」

 先生はがっくり肩を落とす。まさかの悩みである。ありすぎる才能は必ずしも人を幸せにしないということか、とあかりは思う。

「じゃ今日は私、腰だけの治療でやめて、次回首を直しに来ますよ。本当は肩こりや眼の疲れもあるんで、分割したら三回くらい通えると思いますよ」

「ほんとですか?」

「はい。また首の治療で改めて通院します」

「ありがとうございます。お待ちしています」

先生は感極まってうっすら涙を浮かべていた。


しかし翌日の朝……。

「あ~腰も軽いし久々によく寝れた——あれ? 腰だけじゃなく、首も軽い。え? 肩こりもないし目もすっきりしてる。これは……」

先生ごめんなさい。どうやら、私には患者の才能が無いみたい。

あかりは心の中で整体師の先生に謝罪した。

そして朝ごはんを食べに一階に降りると三太が塩鮭を焼いてくれていた。

「あーいい匂い。体の調子もいいし、今日はバリバリ働けそうだわ」

「腰や首はよくなったのかにゃ?」

「もう腰も首もばっちりよ。今日は首がよく回るわ」

あかりは首をぐるぐると動かしながら答える。

「そりゃよかった。でも最近店が暇でこのままだと、こっちの首が回らなくなりそうだにゃ。その整体師それも直してくれるかにゃ?」

「そんなわけないでしょ、それは対策会議よ、対策会議! 新商品を何か考えましょ!」

「了解にゃ!」 

そんなこんなで、喫茶ミケは今日も元気に営業中です。

                                   終わり?

挿絵(By みてみん)


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