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 ピューッと噴き出す血が宙を汚す。


『ギャギイッ』

『グガアアッ』


 思わぬ方向からの攻撃に、こちらへ突進してきたゴブリン達が立ち止まり、混乱したように辺りを見回す。


 ──バチッ──

 ──ヒュッ──


 今度は、雷属性特有の弾けるような音の後、また追加の矢が放たれた。


 そして、ここで初めて矢を放つ存在の姿を確認した。


 ──ドッ、バリバリッ──


『グゴゴゴゴオオッ』


 オーガの胸に突き刺さる矢。それがバチバチと発光し、周囲にピリッとした電撃の感覚を伝える。


「トレイル!」

「そのまま警戒してろ!」


 フランに待機指示を出し、感電しているオーガへと肉薄する。


 多分、大丈夫だ。


 そのまま炎属性の剣で顔面を強打する。


『ゴオオオッッ』


 苦痛にのけ反り、がら空きになった懐。

 そこを風属性の刃で数回切り刻む。


 おびだたしい血を撒き散らしながら倒れるオーガを横目に、左右で右往左往していたゴブリンらを斬る。


 ──ドッ──


『ガッ······』


 最後の一体の頭部を矢が貫いた瞬間、勝負も終わった。


「トレイルっ」

「ああ、大丈夫だ」


 俺は近くの大きな木を見上げた。


「どうやら敵じゃないらしいな。出てきてくれないか?」

『それなら、そっちの子がチャージしてる魔法を解いてくれないかな』


 こちらの呼び掛けに声が返ってきた。


「わかった。フラン、もう解いていいぞ」

「いいの?」

「今なら射られようとも対処出来る。それに、向こうがその気ならさっきオーガに接近した時に撃つ事も出来たろう」

「······分かった」


 フランが杖を下ろす。辺りに張り詰めていた魔力の充填の気配が鎮まる。


「これでいいか?」

『オッケー。今下りるよ』


 木の上から声が答える。


 ──ガサッ──


 そして、枝葉の中から影が飛び出し、それがスタッと身軽に地面へと降り立った。


「や、どーも。敵じゃないよ」


 軽い口調で言う人物。それは少女であった。


 サラっとしたアッシュブロンドを1本に結び上げ、邪魔にならないようにしてるのは活動的な性格を表しているかのようだ。

 しかし、宝石のように美しい瑠璃色の瞳は大人びていて、少し赤みを差した頬がそれとは対照的な印象を与えている。

 ちょっと病的に真っ白な肌だが、キメ細かくてサラサラしてそう。


 だが何よりも真っ先に目についたのは、俺らレグマンよりも断然長くて尖った耳。

 そう、エルフだ。


 歳は十代半ばくらいに見えるが、エルフは長寿の種族であり、俺らと成長による容姿の変化が多少異なる。

 十年くらいは似たような成長の仕方をするが、そこから二十歳の容姿になるのには数十年かかり、二十代の見た目からは、何百年経とうとほとんど老いる事がない。


 おそらく、40か50歳くらいだろう。

 上はオーソドックスな旅人用のシャツに外套だが、下は太ももを露にした短いズボンをピッチリと履いている。


 ニーソックスとズボンの間のムチっとした肉感が実に新鮮で素晴らしい。


「ねえ、視線が露骨過ぎない?」

「おっと、失礼。あまりにも吸引力のある太ももだったんでな」

「ト~レイル~~!」

「じょ、冗談だ」


 フランの手がギリギリと音を立てているので、ここは引いておく。



 少女の背には取り回しの良さそうな小さな弓が背負われている。ただの弓ではなく、色々なパーツを組み合わせたカスタムボウのようだ。


 少女が胸をホッと撫で下ろす。


「ふうー。結構緊張しちゃったよ。訳の分からない人間に殺されるんじゃないかって」

「それはこっちのセリフだぜ。いきなり気配がして矢の音がしたんだからな」

「ごめんごめん。奇襲をかけたかったからさ。ここに居るぞーっなんて言う訳にもいかないし」


 軽く謝る少女。


 何と言うか、少し変わった奴だ。

 軽い感じで言葉を交わし、雰囲気や物言いも飄々としているが、隙が無い。

 どうやらかなり出来る奴のようだ。


「あたし、シヴィエッタ。シヴィでいいよ。あんたらは?」

「俺はトレイル。こっちは相棒のフラン」

「どうも」


 軽く会釈するフランにシヴィなる少女もウインクするように目で答えた。


 それにしても。


「こんな所で何してんだ? しかも一人で。もしかしてハンターか?」

「ううん。あたしは“冒険者”だよ」

「冒険者?」


 たしか、未開の地を探索したり、モンスターの生息地まで深く潜ってレアなアイテムを集めたりする旅人の事だ。

 他にもダンジョンと呼ばれる魔王軍の施設後や、遺跡や洞窟などを探検する······まあ、まさに名前の通り冒険する者達の事だ。


 トレジャーハンターに近い活動をしているが、モンスターを狩ったりして生計も立てており、妙な職業だという認識が一般的だ。


「へえ、初めて会ったよ。本当に居るんだな、そんな人種が」

「む。なーに、その言い方。なんか感じ悪くない?」

「いや、他意はない。ただ、珍しい職業だと思ってな。旅しながら色んな事をする何でも屋的な物だと思ってたからさ。それに、すごく不安定な職業だとも聞くしな」

「あー、まあね」


 苦笑いするシヴィ。


「お宝なんて滅多に見つかんないし、ダンジョンだって人里から離れてるからね。儲からないんだこれが」


 指で“金”をジェスチャーする。


「しかも探索する場所はモンスターがウヨウヨ居るとこがほとんどでねえ。常に危険と隣り合わせ。レアなアイテムは見つかんないし、見つかったとしても運ぶのが大変だったり」

「苦労の割には報われなさそうだな」

「ま、大抵の冒険者は貧乏人だね。けど、魔王が居なくなってから職を失った人間も多いって話も聞くし、まあそこは一概にあたしだけ不安定って訳じゃなさそうじゃん。それでも、冒険者なんて選ぶ物好きは少ないけど」


 カラカラっと笑うシヴィ。

 やはり冒険者という職業は不安定なもののようだ。


 しかし、だったら何故わざわざそんな道を選んだのか。彼女の口ぶりからして元軍属って訳でもなさそうだし、俺とは事情が違うのか。


「なあ、その冒険者がどうしてこんな所に居るんだ? ここはお宝なんて無いが······」

「あ、忘れてた。実はさ、ここら辺で目撃されたオーガがレア物を持ってるって噂を聞いてさ。魔王軍時代のネックレス」


 そう言いながら、シヴィが辺りの死体を見ていき、声を上げた。


「あ、あった、あった。これこれ」


 最後に倒したオーガの首からペンダントのような物を取る。


「これこれ。高濃度の魔力結晶で出来てるんだよね。ふふ、お宝ゲットっ」


 水魔法で血を荒い流し、それをポーチに収めるシヴィ。


「本当はあたし一人で標的だけ倒して奪い盗ろうと思ったんだけどね。あんたらが全滅させてくれてたから助かったよ」

「ああ、俺らも仕事でな。ここのゴブリン達を倒しに来たんだ」

「へー。ハンター?」

「いや、スレイヤー屋だ」

「スレイヤー?」


 興味を持ったようなシヴィに、俺のこれまでの経緯やスレイヤー屋の内容を軽く説明する事にした。


お疲れ様です。次話に続きます。

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