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「まあ! まあっ、まあっ! ふふ! なんて優しくて野性味のある部屋かしら! 気に入ったわ!」
ベッド以外何も無い空き部屋の中央でくるっとスカートを膨らませて回るヴィオラ。
外から入る昼の暖かな日差しに、長い髪がキラキラと輝いた。
ヴィオラは別に俺の店を潰しにきた訳ではなかった。さっきはマジで冷や冷やしたが、そういう深刻な話ではなかった。
まあ、それは大変良かったというか安心したんだが······。
代わりに、ある意味もっとややこしくて、厄介な話になってしまった。
どうもヴィオラはここに住む気まんまんのようだ。
押し掛けて来たと思ったら、さも当たり前のように中へと入ってきてあっちこちの部屋を見て回っている。
「素敵だわ~! お掃除も大変丁寧に仕上げてるわ! フランさん、これは貴女の仕事かしら?」
「うん。みんなで掃除したの」
「素晴らしいわ。フランさん、私、ぜひこの部屋が良いですわ。よろしくて?」
「え、うん。私は構わないけど、その、ここは一応トレイルが責任を持って借りてる家だから聞いてみないと······」
そして、早くもお気に入りの部屋を見つけたようだ。四人用の共同部屋だ。一人や二人で使うには少し広すぎるので誰も使っていなかった所だ。
「トレイルさん、私ここが気に入りましたわ。ああ、ここに私のテーブルを置いて、ストレイドの詩集を読み耽って、時折高鳴る胸の鼓動と共に戦場へと繰り出すのね」
「あー。あの、ヴィオラ? 盛り上がってるとこ悪いんだが······」
「あら、何かしら?」
上機嫌に笑いかけてくるヴィオラ。
「家具の事ならご心配なく。ちゃんと私の自分の物を運びますわ。今日はとりあえずお洋服や寝具の類いを持ってきただけですわ」
「いや、そうじゃなくてな。お前、俺の店に入りたい──つまり、ここで働きたいのか?」
そう尋ねてみると、ヴィオラはキョトンとした。
「何を仰ってるの? ここに住むという事はそういう話になるでしょう? まさか、私が居候になると思って?」
「いや、そうは思わないんだが······。何で加入前提で話を進めてんだと思ってな」
そう言うと、ヴィオラはふっと真顔になり、そのまま神妙に頷いた。
「それはそうですわね。たしか、お勤めになるためには面接というテストが必要なのでしたわね」
そう言うや、スタスタと歩いて廊下に出た。
「さあ、トレイルさん。案内して下さいな。その面接をする会場に」
「あ、ああ」
会場。と言っても、一階の酒場だ。
そこのテーブルの一つにて早速面接を開始する。
「えー、それでは面接を始める。ヴィオラ、俺の店はモンスターを討伐したり、その素材を売ったり、モンスターがうろつく場所にある薬草などを採ってきたり、ポーション作ったりしてる。それは知ってるか?」
「存じておりますわ」
「で、だ。今現在俺の店には俺含めて六人のメンバーが居るわけだが、誰もが何か一芸に秀でてるというか優れた能力を持っている。同情心や慈善だけで置いてるわけじゃない。つまり、君の優れた能力が知りたい」
「もちろん、それはこれですわ」
ヴィオラが腕を軽くトントンと叩く。
「天下無双の戦闘力。それが私の売りですわ」
うん。知ってた。
「えー。つまり、戦闘員として現場で活躍したいと言う事かね?」
「その通りですわ。どうかしら? 私ほどの猛者が居れば上級モンスター相手でも恐れる事はありませんわ」
これはハッタリでも、虚勢でもない。事実、ヴィオラの超攻撃力の前では上級モンスターと言えどもそうそう耐えられる者は居ない。
これから俺達は上級モンスターの素材も積極的に集めてく予定だ。それに、またワイバーンのようなヤバい奴を相手にする事もあるだろう。
俺とフランに匹敵する程の戦力はもっと必要だ。
「よし、採用! 君程の戦力はなかなか居ない」
「ふふ」
当然ですわ。と言わんばかりに胸を張るヴィオラ。
「だが、いくつかの規律は守って貰うぞ。基本的にはこの店の方針は皆で話し合った上で俺が決定する。それと、他の人間との連携が大事だ。勝手な行動は慎むように」
「あら、心外ですわ。まるで私が問題を起こすのが前提みたいな注意事項ですわ」
「あと、他にも。朝は俺のお目覚め膝枕、夜はお休み添い寝、そして風呂はお背中流し係として──ふえっごおっ!?」
「やっぱりそういうのが目当てじゃん!!」
やはり大人しく聞いてる訳もないフランに杖でしばかれた。
「トレイル~! あんたって人はほんとに~!!」
──ギリリリ······──
「ぐ、ぐげえっ、フ、フランさん、く、首が曲がる~っ······」
「許さないんだから~! この不潔~!」
「おーほっほっほ! トレイルさん、ここはちゃんと女性の尊厳が守られる場所だというのは分かりましたわ~! これで安心ですわ」
騒ぎを聞きつけて集まってきていたフルト、ルッカ、ターナの三人は目をパチパチとして顔を見合わせていた。
「では、皆様改めまして。ヴァイオレット・ラインフォースですわ。ヴィオラで構いません。以後よろしくお願いいたしますわ」
「君があの“赤雷の貴婦人”······。フルトだ。よろしく」
「ル、ルッカです。あの、新人です」
「ターナだよ。オラ、田舎もんだからお嬢様にどう接したら良いかわかんねえけど、よろしくずら~」
「まあ、個性的な方達が集まってるようね。ふふ、それじゃあ早速親睦会と参りましょうか。爺や」
「はっ」
傍で控えていたマルセがトランクケースを開ける。
中には高価そうなティーセットと茶菓子が丁寧に詰められていた。
「トレイルさん、台所をお借りしてもよろしくて?」
「ああ、構わないぞ。フラン、案内してやってくれ」
「わかった」
フランとヴィオラが台所へと消え、その間にマルセが手際よくカップや皿の配置をしていく。ナズがそれをいそいそと手伝っていた。
「皆様、どうかお嬢様をよろしくお願いいたします。たまに破天荒な事をなされますが、とても気高く立派なお方です。重ねて、どうぞ、よろしくお願いいたします」
うやうやしく下がる白髪に、他の皆はかしこまるように『はい』とか『こちらこそ』と応じていった。
「なんだか、また賑やかになりそうだね」
苦笑いのような小さな笑みで言うフルトに
「そうだなあ」
と、俺も苦笑して返したのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




