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ざわざわと見送る東門の衛兵達を振り返りながら、俺とヴィオラの二人で外へと出る。
「良い天気ね。ふふ、自分の足で街道を歩くなんて軍の演習以外では久しぶりね」
そのドレスには似つかわしくない剣を抱えながら、子供っぽく笑うヴィオラ。
スカートがふんわりと膨らむ。
「さ、トレイルさん。私、成り行きでついてきてしまったのだけれど、貴方はモンスター退治に行くのよね?」
「ああ、そうだ」
「まあっ、まさかそんな正義の味方みたいな事をしてたなんて! ほんの砂粒一粒分くらい見直しましたわ」
あと千回くらいは見直されないと視覚的に効果が現れないだろう。
「なあ、ヴィオラ。これは遊びじゃないんだ。危険だし、お前についてくる義理は無いはずだが······」
「あら、何を勘違いなさってるの? 私は自分の意志でここに来てるのよ? 義理とかで仕方なく来てる訳じゃありませんわ」
「もっとタチが悪い······」
こいつには説得というものは通じない。我を通すと決めたら、大陸を横断するくらいまでとことん通って道になる。
こうなりゃ仕方ないな。
「まあ、お前の腕なら心配は要らないだろうが······。だが、これだけは約束して貰うぞ。俺が危ないと判断したら一緒に逃げてもらう。いいな?」
「あら、守って欲しいという事ですの?」
「そうだ」
そう言うと、ヴィオラは愉快そうに笑った。
「正直なこと! いいですわ、貴方が逃げ出す時はこの私がナイトになって助けて差し上げますわ~!」
とりあえず、この交渉は飲みこんでもらえたようだ。
気を取り直して出発だ。
「よし。そんじゃボチボチ行くか。周囲は警戒しろよ」
「よくてよ。ねえ、トレイルさん」
「ん、なんだ?」
歩きだしながら、ヴィオラが話しかけてくる。
「昨日はどうしていらっしゃらなかったの? 私、ご招待しましたわよね?」
「あ。あー、えーっと」
「まさか、忘れてた。なんて事はございませんわよね?」
「わ、忘れてなんかない。えっと、ほら、アレだ。俺の一番良い服って今着てるのだからよ。こんな格好で貴族のゲストハウスなんか行けないだろ?」
「まあ、トレイルさん」
と、ヴィオラが珍しく悲しそうな顔をした。
「私とした事が配慮が足りませんでしたわ。まさか、貴方みたいな下品な方にそんな常識的で取り越し苦労な配慮心があったなんて。こればかりは私に落ち度がありましたわね」
「気にすんなって」
馬鹿にされてんのか、謝られてんのか判断し難い回答だな。
「でも、心配なさらないで。貴方が例えどんな服を着てようとも、その品性の無い本質は変わりませんもの。気になさらず、堂々と訪ねて貰って構いませんわ」
「なあ、俺ってひょっとして嫌われてる?」
「あら、どうして? 嫌いな人間を自分の敷地に呼ぶほど私は酔狂な人間ではありませんわ」
まあ、それはそうか。
しかし、嫌ってもないのに俺への当たりが強くないか?
「でもなあ。俺には茶の味なんか分かんないし、一緒に茶なんか飲んでも楽しくないと思うぞ」
「そんな事も気になさらなくてよくってよ。それに、昨日貴方を呼んだのはお茶会を楽しみたくて呼んだんじゃありませんの。お礼をしたくてお呼びしましたの」
「礼?」
思いがけない殊勝な言葉に思わず足を止めてしまった。
「礼って、何の礼だ?」
「お忘れ? この間、我が家の者を助けてくれたでしょう?」
「ラインフォース家の? そんな事······」
と、記憶を手繰り寄せたところで思い出した。
「ああ、あれか。あの奴隷商に捕まってた子の件か」
「そうですわ。その時のお礼をしたかったのですわ」
そういやそうだった。あの時助けた子はラインフォース家の関係者で、マルセが引き取りに来たんだ。
「だが、それなら気にしなくていいぞ。既にマルセさんからは礼金だって貰ってるし」
「それはラインフォース家としてのお礼。そうではなくて、私個人からのお礼をしたかったのですわ」
真っ直ぐな瞳で言うヴィオラ。
ほんとに、黙ってれば美人なんだが······。
「まあ、そういう事なら······じゃあ、また今度お邪魔させてもらうか」
「まあ、心配要りませんわ。今日も既にお茶もお菓子も用意してありますの。この件が終わったらそのまま参りましょう」
「お、おう。そうか」
どうやら逃げられないらしい。
それに、せっかくのご厚意だ。蔑ろにするのは流石に失礼だな。
この仕事が終わったら行かせて貰うか。
再び二人で歩き出す。
「ん? 待てよ? そういや軽くスルーしてたんだが······」
歩きながら、ふと疑問が湧いた。
「お前、休暇でも取ったのか? お前の配属先はサーティエンだから結構遠いはずだが······」
ヴィオラの配属先はここから北西にある港町のサーティエンのはずだ。馬車でも一週間かかる。
「長期休暇か?」
「ああ、そう言えば言ってませんでしたわ。私、もう除隊しましたのよ」
「えっ?」
思わず変な声出ちまった。
「お前もクビに?」
「あら、クビだなんて。違いますわ。私の上に立っていた──そんな言い方すら不愉快ですけれど、その男があまりにも愚かでして。民間からの救助要請に対して『上級モンスターでは犠牲者が出るかもしれない』とか言って何もしようとしない。兵は民衆を守るための剣であり盾。それが傷つくのを恐れるなど愚の骨頂。兵が民のために命を張らずにどうすると言うのかと詰めよったら、まあ汚い言葉と品性の無い声で鳴くものでして。ぶっ飛ばして差し上げたの」
「そうだったのか」
まあ、こいつならやりかねん。驚きはしない。
「じゃあ、お前も今は無職か」
「え? あははははっ、トレイルさん、貴方ったら本当に面白い人っ!」
何時もの高笑いではなく、本当におかしそうに笑うヴィオラ。
「職も何も、私は高貴なるラインフォースの長女。兵士として従事していたのは己を高めるためですわ」
「まあ、そりゃそうか」
俺とかとは違ってヴィオラは困りなどしないだろう。
路頭に迷ってるようなら俺の店に誘おうかとも思ったが、まあ金に困る事なんてないだろうしな。
戦闘能力は魅力的だが、彼女が俺の下で働く訳もないし、俺の商売を教える事もないだろう。
「っと。積もる話はあるだろうが、どうやらそろそろ現場らしい」
「ええ、そうですわね」
話してる内に、依頼の現場らしき場所に着いたようだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




