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本日3本投稿予定です。
自治会長が帰った後、俺らは早速再出撃の準備にとりかかった。
「今回のメンバーにはルッカが入ってもらう。もう一人なんだが──ターナ?」
真っ先に手を上げるかと思われたターナがしょんぼりしていた。
「オラは保存液の移し替えとナズさのポーション作りを手伝う約束してるだよ。だから今回は諦めるだ~」
「そうか。なら······」
ナズはポーション作りに専念してもらいたい。
となれば、フランかフルトか。
正直、事務的な受付能力が一番高いのはフルトだ。彼にはここに残ってもらいたい。
「······なら、フラン。お前ヒマか?」
「暇じゃないよ! これでも酒場のレイアウトで忙しいんだからね!」
と言いつつも、ニコニコ笑って立ち上がるフラン。
「よーし! 腕が鳴るね!」
明らかに過剰戦力だが、これくらいがちょうどいいだろう。
それに。クイーンアーミアントが本当に居るなら、フランの魔法があった方が燻り出せる。
俺、ルッカ、フランの三人による討伐隊は昨日と同じ林に到着した。
「今回はクイーンアーミアント一体に焦点を当てていく。他のアーミアントもそれなりに討伐するが、目的はあくまで巣の発見とクイーンの討伐だ」
「オッケー!」
「頑張ろうね」
クイーンアーミアントとは、その名前通りアーミアント達の女王だ。
アーミアントは女王と呼ばれる特別な個体によって産み出される。これをクイーンアーミアントと呼ぶ。
クイーンアーミアントは通常のアーミアントの5、6倍近い大きさのモンスターで、生命力も中級モンスター並みにある。
しかし、クイーンはあまり戦闘力は高くなく、脅威なのはその産卵能力だ。
アーミアントは一体一体の力はそれ程でもないが、大きな群れになると積極的に村などを襲う。クイーンが卵を産むには多くの肉が必要だからだ。
巨大化した群れは厄介で、中級モンスターや上級モンスターさえ襲う事がある。
「でも、まさか町の中に巣を作っちゃったのかな」
「その可能性は高いと思う。放っておいたら大変な事になるかも······」
「確か、巣は土を使って固めた家みたいな物だったな」
いわゆる蟻塚に似た物だ。ただし、大きさは比べ物にならないが。
「巣を攻撃すればクイーンは他のアーミアントを呼び戻す。連戦になるかもしれん。気を引き締めていくぞ」
「うん! ルッカちゃん、探索お願いね」
「う、うん」
しばらく、辺りを警戒しながら探索する。
地形や川の位置。そして、途中何度か見かけるアーミアントの位置や移動方向から、段々と巣の場所が予測されていく。
「そっか、こっちに川が流れてるから、多分こっちに······それで、アランスの植生傾向からして······こっちにマーキングの跡がある。ここが彼らの道ね」
ルッカは一つ一つの些細な痕跡や環境から、アーミアントの通り道と思われるルートを発見した。
「多分こっち」
「よし。フラン、早速お出でましだ」
「うん!」
道を進み始めると、すぐに四体から成るチームと遭遇した。
「力押しだ、いくぞ!」
威嚇行動をとるアーミアントに肉薄し、首の間接部に刃を通す。
突進してきたアーミアントは躱しざまに胴体の柔らかい腹を斬って倒す。
残りの二体は、俺にその牙を下す前にフランの氷魔法で凍結された。
「急ごう。異変に気づいた奴らが全部集まる前に」
「りょーかい!」
「援護頑張るねっ」
後衛二人による魔法の援護を受けながら、次々に遭遇するアーミアントらを殲滅する。
その数はあっという間に昨日倒したのと変わらないくらいになっていた。
「ルッカ、こっちで正解のようだ。この数が何よりも物語ってる」
「う、うん!」
そして、程なくして目的の物を発見する事が出来た。
木々の奥に、大きな建造物の影が見えた。
しかし、それは建造物ではなく、盛り上がった土塊だった。小さな小屋くらいはある。
アーミアントの巣だ。近くに川が流れてる。
「ビンゴだな」
巣の周りにはクイーンの近衛兵的なアントがウロウロしている。こいつらは外に狩りへ行かずにここを防衛している。
「フラン、派手にやってくれ。ただし、炎魔法は山火事になると大変だから他のにしてくれ」
「分かった。それなら······よし、二段構えでいこう! ルッカも手伝って」
「う、うん。役に立てるかは分かんないけど」
二人で杖を構える。
「川が近くで助かったよ。風よ、嵐となって荒ぶれ! バーストストーム!」
フランの詠唱と共に川の水を突風が巻き上げて、あたかも水流の柱のようになって巣にぶち当たる。
水飛沫と泥を四散させる水流。
そこへ、ルッカの土魔法が唱えられる。
「ロックショット! バースト!」
──ドンッドンッドンッ──
周囲の土を集めて吐き出される人工の岩。それが巣へと飛ぶ。
水によって弱体化した壁への岩の強打だ。かなり効いている。
だが、これでそのまま破壊するのは難しい。何より、それが狙いではない。
巣を脆くするのと同時に、水を染み込ませるためだ。
「このくらいでいいね、ゼロブリザード!」
フランが氷魔法を放つ。吹き荒れる局地的な吹雪が、巣を真っ白にしていく。
こちらに向かってくるアントは、二人の元へ行く前に俺が斬って倒す。
巣は完全に氷漬けになった。
「よし。これで良さそうだな」
『ギチギチギチギチッ······』
すると、巣の入り口らしき穴から大きな影が蠢いて出てきた。
他の化け蟻を遥かに凌ぐ巨体。クイーンアーミアントだ。
急な温度低下と、巣のダメージを本能的に悟って逃げようとしているのだ。
狭い土の入り口からモゾモゾと頭を出して出て来ようとしている。
「はっ!」
肉体強化魔法と、剣への炎属性付与を同時に行って、そのクイーンに肉薄する。
『ギチギチギチッ』
「すまんな。悪いがここは人間の町なんだ」
向けられた巨大な牙を切り飛ばし、首の間接部に一刀を叩き込む。
──ズオオッ──
生き物を焦がす嫌な臭いと音を立てて、クイーンの頭がビクンっと跳ね上がった。
剣を思いっきり払うと、そのままクイーンの頭はグラリと垂れて、すぐに地面に落ちたのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。