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「ごめんね」


 フランの火炎魔法が巣穴に注ぎ込まれる。


 巣の中にはおそらく卵が複数存在しているはずだ。放置する訳にはいかない。


 熱風が頬にまで伝わる。


「これで多分、もう出なくなるだろう」


 まさかモンスターが人間のテリトリーに拠点を作ってしまうとは思わなかった。村を襲ったりすることはあっても、大人数が存在する町に居着くのは聞いた事がない。


 しばらく、灼熱の炎が巣の中をしっかり焼き尽くすのを見守った。



「しかし、まさかアーミアントが人里に巣を作るとはな」

「うん。すごい発見······じゃなくて、驚きだね」


 コクコクと頷きながら、辺りの土を採取したり、何か手帳にメモしていくルッカ。どうやら専門家にとってもレアなケースらしい。


「卵······出来たら持って帰りたかったけど······」

「まあ、駄目だわな」


 基本的には、生きたモンスターを許可なく持ち帰るのは違法だ。


「代わりにこのクイーンの死骸を持ち帰ろう。解体して研究したり出来そうだしな」

「うん」


「ふいー。このくらいでいいかな。トレイル、終わったよー」


 入念に炎を注ぎ込み続けたフランが魔法を止める。


「他のアーミアントはどうする?」

「そうだな······」


 残ってるのはほんの数体か、多くても10か20だろう。


 そいつらをどうするべきか。


「あの、トレイル君」

「ん?」


 思案していると、ルッカが遠慮がちに話しかけてきた。


「多分なんだけど、放っておいても大丈夫だと思う」

「なんでだ?」

「あのね。アーミアントって、自分が属してるコロニーのクイーンが死ぬと大抵の場合はすぐに死んじゃうの」

「あー、そういやそんな話聞いた事あるな。でも、何でなんだろうな」

「クイーンが生成出来る特殊な分泌物がアント達には必要不可欠で、それを二日から三日の間に接種出来なくなると死んじゃうの」

「そうなのか?」

「うん。それに、統制が効かなくなって集団で行動する事もなくなるから脅威も下がるし、この辺のアント達はすぐに居なくなると思う」


 ならば、このままにしておくか。これ以上倒すと余計に請求しちまうからな。


「今回はあくまで依頼達成が目的だ。全て殲滅すべきかはクライアントに聞いてみよう。ルッカ、今の話を自治会長に話せるか?」

「うん。任せて」

「それじゃあ、帰ろっか」


 クイーンの死骸は俺が背負い、その場を後にして自治会長宅へ向かった。



 死骸を目にしてギョッとする会長に事の経緯を話し、ルッカが説明すると顔を明るくした。


「おお、本当かね。なら、少しすればもう大丈夫か」

「はい。おそらく。あ、あとこれ」


 ルッカがポーチからポーションのビンを出した。あの濁った黄色い液が入ってる。


「これは小型モンスターの忌避剤です。これを散布すれば残りのアーミアント達も近づかなくなると思います」

「そんな物まであるのか。凄いな。これはいくらだね?」

「えっと、タダ──むぐっ?!」

「50ゴールドだ。代わりと言っちゃなんだが、今日の討伐した普通のアントの代金は少しまけて1000ゴールド。クイーンを300ゴールドとして、1350ゴールド。アントが出なくなったら後日に依頼達成料として200。どうだ?」


 何かモゴモゴ言ってるルッカの口を押さえながら、確認すると会長は頷いた。


「少し予算オーバーしてしまうが、クイーンなんてのを倒してくれたんだ。払おう」


 もし、これで本当に出なくなるなら安いものだ。そう言ってるように静かな顔をしていた。





 会長から台車を50ゴールドで買って、俺達は拠点へと帰る事にした。


「トレイル、このクイーンどうするの?」


 台車の上に乗せられたクイーンの死骸を振り向いて、フランが言う。


「売るの?」

「いや、アントの素材の大半は売り物にならない。一部地域で牙が少し売れるくらいだ。だが、クイーンには──」

「そう、たまにロイヤルゼリーがあるんだよね」


 と、ルッカが代わりに答えた。フランが質問する。


「ロイヤルゼリーって何?」

「簡単に言うとクイーンだけが食べられる特別なご飯かな。クイーンは特殊な分泌物で他のアントを育てて、代わりに他のアントが分泌するロイヤルゼリーを食べるの」

「へえー。美味しいの?」

「実験室で味見した事あったけど······えっと、私の口にはあまり······」

「俺も食った事あるけどクソ不味かった」

「へえー、気になるーっ」


 味はイマイチだが、ゼリーにはめちゃくちゃな栄養があるらしく、最高級増強剤などの材料には欠かせない。

 さらに、不老長寿の食物だと言い伝えられているので金持ちなどは大金を惜しみ無くはたいて買う。


 つまり、金になる。


「さあて、これでまたボーナス出りゃいいんだが──」


「お、おーいっ! そこのあんたー! スレーター屋ー!」


 と、金に意識が浮わついていたら、突然の緊迫した声が響いた。

 見知らぬ男が息を切らせて駆け寄ってきた。


「はあっ、はあっ、よ、良かった、ちょうど会えるとはっ······」

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「そ、それが、さっき北の街道にゴブリン達が現れたらしくてっ······」

「それなら衛兵に報せた方が早くないか?」

「そ、それが、衛兵達は東街道にモンスターらを討伐するために出てて、そ、それでもうすぐ北街道を使って大事な客がくるからっ、だから、門番があんたを呼んでくれって······」


 かなり混乱しているようだが、言いたい事は分かった。


 どうやら要人が北の街道から来る予定なのに、そこへゴブリンの集団が現れてしまったが、タイミング悪く戦力は分散してしまっているからどうにかしてくれと。


 そういう事だな。


「分かった。すぐに北門へ行って話を聞く。フラン、ルッカ。悪いがこのクイーンを店まで運んどいてくれ」

「オッケー! すぐに私も行くよ!」

「おう、頼む」

「き、気をつけてね」


 台車はフラン達に預け、俺はすぐに北門へ向かった。



「細かい説明は後だ。ゴブリン一体につき40ゴールド。それで頼めないか?」

「分かった」


 手短に口契約を済ませ、街道を北上する。


 話によると、ゴブリンは全部で30体ほど。そして、その要人一行はそろそろ来る予定。

 襲われていたらことだ。急ごう。


 肉体強化をして走る。


「······ん?」


 ──ゴゴオオォォッ······──


 と、走っていたら妙な音がした。

 まるで落雷のような、そんな音が。


「? 他にも何か居るのか?」


 念のため警戒しながら走る。

 そして、すぐに予想外な光景が目に飛び込んできた。


「!? あれは······」


 藪や茂みに囲まれた街道。そこに止まった馬車と、その周りに倒れる複数のゴブリン達。


「······」


 周囲を警戒しながら近づいて調べてみる。

 ゴブリンはみんな死んでいた。


「······これは、モンスターによるものじゃない」


 凄まじい斬撃の痕だ。バカでかい斧か何かでぶった斬られたような。


「!」


 近くから人間の気配が感じられた。


「あら? もしかして──そこの貴方は──」

「!!」


 それと同時に、聞き覚えのある声がかかった。


 気配と声の方向を見ると、馬車の裏から一人の女性が現れた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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