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 数分後。


「ルッカ、こんなもんか?」

「うん。それで平気」


 木の根本や、壁などに例の忌避剤を撒いていく。

 あんまし良いとは言えない独特の臭いが鼻を突く。


「変な臭いだな。けど、モンスターの腐敗臭に似てる気がする」

「ワイバーンの骨と薬草類のブレンド液なの。骨には他の上級モンスターとかと似たような魔力の血が入ってると考えられていて、それにモンスターが嫌うハーブや薬草を混ぜた物。一部モンスターには効かないけど、大抵の小型モンスターには効果あると思う」


 詳しい事は分からないが、ルッカが言うには化学という学問的には『同一成分』とかいうのがあるらしく、上級モンスターの血肉や骨はその同一成分なる物が含まれてるらしい。


 つまり、小型モンスターにはそれぞれの天敵の上級モンスターなどが居る訳だが、そいつらの体液は似たような特徴があり、その共通する特徴を際立たせた薬品との事だ。


「そうだ。ルッカ、ついでで悪いんだが、ここら辺に見慣れないキノコの類いがあるんだ。分かったりするか?」

「キノコ?」


 ターナと来た時に発見したキノコの類いはチラホラあったので見てもらうことにした。


「これは······アリアンスの一種だね」

「あらんす? すまん、そんなキノコは食った事ないんだ。美味いのか?」

「そ、そうじゃなくて。えっとね。自然界には動物とモンスターっていう別カテゴリーがあるように、植物にも普通植物と侵食植物って言うのがあるの。それをアリアンス、もしくはアランスって呼ぶの」

「難しくなりそうなら、簡略化頼む」

「ええっと、つまり······」


 俺の無茶な要求にもルッカは一生懸命考えてくれた。


「モンスターの生態に欠かせない植物群をアリアンスって言うの。これらは通常の植物には無い魔力の要素が含まれてたりしてて、一般的には環境を汚染しちゃうの。代わりに、モンスターらにとっては住み心地の良い物になるんだけど」

「つまり、このキノコはモンスターの楽園の目印って事か?」

「うん。有り体に言えばそう」


 そう言われてみりゃ、今まで行ってた森でも見慣れないキノコや花をチラチラ見かけた。


「元々は魔王が産み出した物だったそうなの。でも、それがモンスターと一緒に広範囲に散ってるんじゃないかって、私も研究してて······まだ結論は出てないけど、もしかしたらモンスターの行動範囲が拡大してきてるのに関係してるのかも」

「なるほど」

「それでね、このキノコ······あ、キノコってね、実は植物じゃなくて、まったく違う第三カリゴリーに入る生物なんじゃないかって言われててね、でも、このキノコはキノコじゃなくて一応植物で──」


 加熱していくルッカの話を理解しようと試みたが、俺の頭には無理だった。






「あ、早かったずらね。お帰りだ」


 忌避剤を撒いて戻る。ターナはハンマーを持って臨戦態勢で待っていた。


「どうだったずら?」

「まだ分からんなあ」

「しばらくしてもモンスターが出なくなったら効果あると思う。でも、全部に効く訳じゃないから······スライムとかだと入ってくるかも」

「ちなみに、効果はどんくらい続くんだ?」

「一ヶ月から二ヶ月の間くらい、かな」


 なかなかの効果期間だ。定期的に散布すればモンスターが侵入しなくなる可能性もある。


「ともかく、しばらくは気をつけよう。ターナも念のため、ここで作業する時は一人じゃなくて二人以上でやってくれ。武器も持って、な」

「分かっただよ」




 一旦酒場に戻り、今さっきの話をフランにしておいた。


「そっかあ。まあ、叔母さんもモンスターの被害に頭を抱えて止めたようなものだし。むむ。これは私達には死活問題だねトレイル」

「そうだな。モンスター討伐専門業者がモンスターに悩まされてるなんてシャレにならんからな」


 ルッカの薬品に効き目があればいいのだが。


 ──ガチャ──


「ん?」


 今後のあれこれを考えているとこへ、酒場の扉が開かれ、ナズがヒョコっと顔を出した。


「あの、トレイルさん。お客様です」

「お、客か」


 新しい客の来訪に浮き立ちかけた足。

 しかし、ナズの後ろから入ってきた渋い顔には見覚えがあった。


「あれ? あんたは昨日の······」

「エイブだ」


 それは昨日に依頼してきた自治会長だった。




「もう現れたのか」

「ああ、アーミアントだけだが、変わらないくらいの数が林の中をうろついている。今朝なんか近所の家の蔵が襲われて食料を奪われた」


 酒場の席で事情を聴く。自治会長は事務的に説明をしていたが、その目には『全然ダメじゃないか』という非難めいた物があるように感じられた。


「これでは報酬金は払えないな」

「もちろんだ。この間のはあくまで駆除代。報酬金は明らかにモンスターが出なくなった時に貰うもんだからな」


 この辺りは微妙な問題だ。どのくらいの期間モンスターが出なくなったらとか、数がどのくらい減ったかとか基準を設けないとトラブルになりかねない。


 ともかく。今回のケースは明らかに状況が好転していない。依頼は達成出来なかったと見た方がいい。


「しかし、アーミアントだけか······他のモンスターは居ないのか?」

「ああ、そうなんだ。アーミアントだけが変わらず辺りをウロウロしている」

「······少し待ってて貰っていいか?」


 クライアントにはそのまま待ってもらい、裏庭に居るルッカを呼んで戻る。


「自治会長さん。こっちは俺の同僚のルッカ。モンスターの生態学の専門家だ」

「ど、どうも。ルッカと申します」

「ルッカ。アーミアントがまだ涌いてるらしい。少し話を聞いてみてくれ」


 緊張気味のルッカにも座ってもらい、三人で改めて情報を共有する。


「現れたのは何時ぐらいからですか?」

「10日前かそのくらいからだ。何度か衛兵にも対応して貰ったんだが、やはり次々に出てきて」

「その最初の時期は数体だけでしたか?」

「あ、ああ。そうだったはずだ。たしか、他のモンスターを攻撃しているのを目撃したのが最初だ」

「······アーミアントが奪っていった食料は肉系が多かったですか?」

「そう、そうなんだ。燻製肉や魚が根こそぎやられたんだ。中には飼い犬まで連れていかれた家もある」

「······分かりました」


 ルッカがこっちに向く。


「もしかしたらなんだけど······近くにクイーンが居るのかも」

「クイーン? あっ、そうか」


 しまった。

 うっかり見落としていた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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