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翌日の朝。
今日はやや曇りだ。風や雲の動きからして午後には雨が降るかもしれない。
いつものように庭で朝食を済ませ、それぞれ自由行動に移る。
「トレイルー、どうする?」
「今のところ依頼は無いし、ポーションの素材はまだある。今日はここで何かやって過ごそう」
「うん、そうだね。私、酒場を可愛く仕上げたいと思ってたし」
らんらんと鼻歌交じりに酒場へと入っていくフラン。この間買ったたガラス窓も上手くはまり、床の穴も塞がった。後はフランが思い描くままにキュンキュンルームに成り果てるだけだ。
「さて、と。そういやサラマンダーの解体は終わったのか?」
討伐した日に死体を運搬したが、解体作業はターナに任せっきりだ。どうなっただろうか。
裏庭に回り、物置小屋に入る。今はここが解体物の置き場として運用されている。
「えーっと。お、これか?」
それらしき爪や骨は見つかったが、他の部位は無い。
外に出てみると、ちょうどターナとルッカの二人が近くにしゃがみこんでいるのを見つけた。
「よー、二人とも」
「あ、店長どうしたずら?」
「いや、サラマンダーの解体作業はどうなったかと思ってな」
「一応、昨日の時点で終わっただよ。肉や内臓のほとんどは保存出来るモンがねえから処分しちまっただ。でも、売れそうな部位や、フルトさんが欲しいって言った物は取ってあるずら」
「そうか。ご苦労さん。ルッカと何かしてたのか?」
「んだ。昨日、ナズさと保存液の試作品を作ったって言うんで、入れ替えてるとこだよ」
見てみると、大きなビンがいくつも並べられており、その中の液体を捨てたり逆に注いだりしていた。ビンの中には臓器らしき物体が入ってる。
「お、それサラマンダーのか?」
「んだ。肝と、胃袋、それに火炎玉と火炎線だよ」
「ほう」
火炎玉とは、サラマンダー特有の内臓器官だ。胃や腸と繋がっており、ここで発火する体液を作り出しているらしい。
火炎線とは、その体液を背中の鱗まで循環させる物だそうだ。前にフルトから聞いた事がある。
「しかし、火炎玉や火炎線を何に使うんだ? 残念ながら用途が無くて売れないが」
サラマンダーの発火能力の源だから使えそうなのだが、まだまだ謎が多くて扱いきれない器官だ。結果として、不要物とされる。
「実は、フルト君が行ってる研究で、武器とかに転用出来るかもしれないんだって。それで、昨日私がナズちゃんに作って貰った保存液に浸しておこうと思って」
「おお、そんなの作ってたのか」
「うん。回復ポーションと、スライムのゼリーにモンスターの体液があれば理論上は。でも、配合とか薬剤反応が難しくて······それをナズちゃんはサラっと作っちゃったから驚いたよ」
どうやら早速ルッカの研究結果とナズのスキルが合わさって便利な物が出来あがったようだ。
「その保存液って他の素材にも使えるのか?」
「モンスターの種類や、臓器のタイプによって異なったりするけど、基本ベースはこれで大丈夫だと思う」
「へえ。例えばだけどよ、ワイバーンの心臓とかでも?」
「うん。長期保存出来るはず」
これは朗報だ。なら、この保存液が沢山あればモンスターの臓器をとっておいて売ったり、何かに使ったり出来る。
今まであまり聞いた事のない薬品だ。もっとも、そもそもモンスターの臓器や肉のほとんどは利用価値が低いからなのだが。
「だが、二人の研究によっては不要なモンスターの素材も宝の山に······なんて事があるかもしれんぞターナ」
「そいつはいいずら! オラ、せっせか貯金するだよ!」
ふんすと鼻を鳴らすターナ。
「ん?」
と、ここで。
そんな和気あいあいとした雰囲気に不穏な気配が忍びよってきた。
「······」
「どうしたの? トレイル君」
「二人とも下がってろ」
「え?」
二人が顔を上げたのと同時に、近くの木の陰からグラブホッパーが飛び出した。
「は!」
こちらから一足踏み込み、下へ潜る形で一刀両断にする。
ホッパーの死体がドサッと落ちる。
「ずら!?」
「わ、わわっ!?」
その死体を見て、二人は初めて驚きの声を上げた。
「二人とも平気か?」
「び、びっくりしただよ。まさか、こんなとこにモンスターが来るなんて」
「この前もフランとナズが襲われかけた。まあ、下級モンスターだったけどな」
とは言え、不意を突かれれば怪我するかもしれない。
やはり、ここが閉鎖に追い込まれた理由はこういうところにあるのだろう。小型の下級モンスター達は雑食である事が多く、人間の出した生ゴミとかの臭いを嗅ぎ付けるから。
きっと、俺らがここで暮らし始めてまた湧いてくるようになったんだろう。
「けど、壁の穴は塞いでもらえんし、どちらにせよ用水路もあるしなあ。困ったな」
「あ、あの。トレイル君」
「ん?」
どうしようかと頭を捻っていると、ルッカが遠慮がちに言った。
「よかったらなんだけど。私が考案したモンスター避けの薬、使ってみる?」
「なに?」
そういや、ここに迎え入れた時に言ってたな。例えばモンスターの誘引剤や忌避剤を作る事も出来るかもしれん、と。
「作れるのか?」
「う、うん。小型モンスター用のなら試作品を作った事もあるし。というより、実は昨日ナズちゃんに作って貰ったの。一応、役に立つかなと思って」
「おお、マジか」
ちょっと待っててと言って、ルッカが物置小屋に入る。
すぐに黄色く濁った液体の入ったビンを持って出てきた。
「薬草やハーブ、それとワイバーンの骨から取った出汁の成分で作った忌避剤だよ。嗅覚のあるモンスターなら、これで多少は来なくなるはず」
「おお、これがそうか。うーん。不味そう」
「の、飲んじゃ駄目だよ? 人体には有毒だから······」
「倒れた時は膝枕で介抱してくれ」
「ふええっ?!」
耳をピョコンっと跳ねさせるルッカに、ターナが和やかに言う。
「安心するずら。ここでは店長に膝枕するのは常識だから恥ずかしくないだよ」
「ト、トレイル君······ターナちゃんみたいな子にまでそんな事させてるの?」
「おいっ、こらターナ! そういう事は言うんじゃないっ」
「あり? オラ何かしちまったかや?」
ルッカの悲しげな視線にしばらく言い訳した。
お疲れ様です。次話に続きます。




