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「それじゃあみんな。フルト先生とルッカ先生の話をよく聴くように」

「それ、トレイルが一番ダメなんじゃない?」

「甘いなフラン。だからお前らを集めたんだ」

「正直だね?!」


 一階の酒場。


 ここなら広いので、フラン達三人にも集まって貰った。フルトとルッカから研究内容を聴くためだ。


 即席で作った(というよりはテーブルの面を横に向けただけ)表記板をテーブルの上に乗せ、俺らも椅子に座って講義を待つ。


「それじゃあ先生方。早速講義を頼む。なるべく分かりやすく」

「はは、頑張るよ。じゃあ、どっちから始めようか」

「私は後でいいよ」


 フルトとルッカが打ち合わせし、互いに携帯用の日用杖(スティック)を取り出す。





 もちろん、俺が学問に目覚めたとか、みんなで学者になろうとか、そういった目的でこの勉強会を実施した訳じゃない。

 これには俺の目論みがあるのだ。


 フルトとルッカのやっていた研究はモンスターについての物だったらしい。

 モンスターの素材を使った武器や、モンスター関連の薬品。そう言ったものを研究していた。


 軍の研究施設は充実した設備だったのは俺も知っている。

 つまり、最先端の知識と見識を持った二人なのだ。

 そんな二人の知識。それはモンスターを専門に扱う俺らと無関係ではない。






「では、まず。簡単な説明をしよう。専門的な用語や話は省略して、なるべく結論だけ話していくよ」


 インクの壺をコトリと置き、フルトがスティックを振る。

 インクがスルルっと紐状に浮いて、テーブルの表面に図を描いていく。


「皆も知っての通り、モンスターというのは僕らと同じように魔力を持っている。厳密には少しだけ違うんだが、ここでは同じ物として話そう。で、モンスター達は僕らのように複雑で形式化された魔法は使えないのは知ってるね?」

「うん。日用魔法の類いは人間が編み出した物だもんね」

「フラン君の言う通りだ」


 インクがモンスターの絵を形作る。


「彼らは僕らのように“知識や学問を基盤とした魔法”は使えない。しかし、魔法の基礎とも言える“魔力をあらゆる現象に変換する事によって発生する魔法”は本能的に扱える事が多い」

「む、難しいずら。えっと、つまり、オラ達は学問で、モンスターは本能で······」

「簡単に言えば、私達は勉強して魔法を使う。モンスターは魔力に物を言わせて魔法を使うって感じかな」


 フランの説明にターナが頷く。


「なるほどー」

「フルト、負けるな」

「はは、ありがとう」


 苦笑しながら続けるフルト。


「モンスターの魔力は普通の人間よりも強大な事が多い。特に、魔力の濃度は血液量にも関係するからね。基本的には、体が大きいモンスターほど、魔力を多く持っている。いずれにせよ、彼らは体の構造や性質自体が『魔力の蓄積、魔法の使用』に適した物になっていると言える」


 サラサラっと絵が変わる。


「そこで僕は考えたんだ。もし、モンスター達の魔法生成のメカニズム──つまり、仕組みを解明すれば、彼らの体組織を使ってより簡単に強力な魔法を使えるようになるんじゃないかと。例えば、ワイバーンの素材を使って、強力な炎魔法を放てる杖を作れるんじゃないか、とかね」

「そんな事出来るんですか?」


 驚くナズにフルトが頷く。


「理論上は可能だと分かってる」

「よし。フルト、ありがとう。それじゃあ次はルッカの方も頼む」

「う、うんっ」


 代わってルッカがスティックを振る。


「私の研究はモンスターの生態と、その行動について。簡単に言えば、モンスターは何を食べて何に食べられて、そして一日中どんな暮らしをしているのか。好き嫌いは何か。家族は居るのか。みたいな事を研究してました。えっと······トレイル君、こんな感じで大丈夫?」

「素晴らしく分かりやすい。フルト、頑張れ」

「うぐっ、トレイル~······」


 恨めしそうにこっちを見るフルト。

 ルッカの説明は続く。


「そう言った事を研究すれば、モンスターの行動を予測したり、制限したり出来るんじゃないかというのが、私の研究の趣旨です。例えば、ワイバーンの尿に含まれる刺激臭成分は、補食対象になっているモンスター達を遠ざける効果がある。とかね」


 テーブルの絵がフラスコの形になる。


「他にも、モンスターの主食から体内に蓄積されている成分を予測して、それを元に薬の材料にしたり。そんな事も出来るんじゃないかっていう研究をしていました」

「モンスターの素材を使った薬······。確かに、少数ですが、今も幾つかありますよね」


 ナズが関心を寄せて頷く。


「お二人の研究は、いずれも対モンスターの素晴らしい研究のようですが······」

「なんでクビになんかするんだろうね!」


 プンスカ怒るフランに、フルトとルッカが力なく笑う。


「薬品を精製するのには時間も材料もかかるし、多くの薬品が必要になるの。つまり、莫大なお金が掛かって······」

「僕の研究もそうなんだ。武器とモンスター素材の合成は難しくて莫大な資金が掛かるんだ」


 だからお払い箱にされた。金も時間も無駄な研究だからと。二人は最後にそう付け加えた。


「ありがとう、二人とも。とりあえず座ってくれ」



 専門的な話をかなり噛み砕いて説明してくれたお陰で、俺にも結論はわかった。


 つまりこうだ。


 ①モンスターの素材を利用した武器が作れる。(多分、道具とかも)


 ②モンスターの素材を利用した薬品が作れる。(あるいは道具)


 これが何を意味するか。



「フルト、ルッカ。もしかしたら、ここに二人が来たのは運命かもしれない」


 俺が立ち上がってフルトとルッカを見回しながら言うと、二人は首を傾げた。


 フランとナズはもう気づいているようで、あっ、と声を上げた。


「もしかして、トレイル!」

「そっか······! 私とターナちゃんなら······!」

「??? オ、オラがどうかしたずら?」

「フルト、ルッカ」


 まだ首を捻る二人に、俺はナズとターナのスキルについて話した。

 聞き終えた二人の顔つきが変わる。


「ほ、本当かい?!」

「そんなとんでもないスキル持ちだったの?!」


 二人の驚愕は過去一番だった。


「ああ。そこでだ、二人とも。もし、嫌じゃなかったらなんだが。俺らと一緒に働かないか? 二人の専門的な知識があればより正確に仕事が捗ると思うんだ」


 そう誘ってみると、二人は迷うようにフラン達を見た。


「でも······」

「い、いいのかな。私なんか······」

「もっちろん!」


 フランの明るい声が響いた。


「私は賛成! ナズちゃんとターナちゃんはどうかな?」

「私も、もっと自分のスキルを活かせるならぜひ」

「よくわかんねえけど、オラも賛成ずらー!」



 こうして。


 俺らの店に、シンクタンクが加わったのだった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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